イチジクは消化不良や便秘にどう“効く”のか

イチジクの断面
イチジクの断面。中心の赤い粒の部分が花

イチジクは現在の中東、アラビア地方を原産地とするクワ科の落葉樹で、江戸時代の寛永年間(1624~44)に日本に入ってきたとされている。晩夏(8月)から晩秋(11月)にかけて実を熟させる。

タンパク質分解酵素フィシンを含む

イチジク。日本では8月~10月に出回る。
イチジク。日本では8月~10月に出回る。
イチジクの断面
イチジクの断面。中心の赤い粒の部分が花

 かつては畑や庭に植えられていたが、今ではそんな姿も少なくなり、日本人にはそれほど身近な果物ではなくなった。

 とはいえ、真っ盛りのイチジクは果物屋、八百屋、スーパーで見かけることができる。そんなとき、たとえば消化不良や便秘で悩んでいたら、食べてみるのもいいかもしれない。日本では昔から、そうした症状を改善するのにイチジクを食べるといいという民間療法があるからだ。

 それを説明する前に、イチジクという果物について説明しよう。中国ではイチジクを「無花果」(むかか)という。もちろん“むかか”は日本読みだが、なぜ“花の無い果実”なのか。

 イチジクの実を縦に切ってみるとそれがわかる。果実外側の厚い果肉から内側に向かって無数の花が咲いている。外側から花が見えないことから“無花果”である。先ほどから果物と言ってきたが、厳密に言えばイチジクの実は“果実”ではなく“花”である。

 さて、なぜイチジクは消化不良や便秘に改善効果があるとされているのか。科学的な効能の研究が不可能な昔には、経験にのっとっただけの話だったが、今はそのメカニズムが説明できる。

 まず消化不良について。こんな話を聞いたことはないだろうか。「肉料理を食べるときにイチジクを一緒に食べると消化をよくしてくれる」。それはイチジク特有の特殊成分である「フィシン」というタンパク質分解酵素が肉を分解するからと言われている。

 フィシンは肉眼も確認できる。イチジクの実がなっている木を見る機会があったら、持ち主の了解を得て実を切り取ってみよう。切り口から白い乳液が漏れ出す。それがフィシンだ。

 昔、こんな話も聞いたことがある。イボや魚の目を取るには、そのイチジクの乳液をつけると、ポロリと取れる、と。民間療法の1つだろうが、タンパク質分解酵素の効き目なのだろうか。

 さらにこんな話もある。イタリアのオードブルには生ハムとメロンという絶妙な組み合わせがあるが、実は生ハムとイチジクという組み合わせも“絶品”だという。イタリア語でイチジクを「Fico」(フィコ)という。フィシン(Ficin)の語源のようだが、生ハムとイチジクの相性のよさは、イチジクの消化促進効果と関係があるのかもしれない。

ペクチンとアントシアニジン

 もう1つ、便秘の改善に関係するキーワードは食物繊維の「ペクチン」だ。便秘予防には食物繊維が豊富な食べ物を積極的に食べよう、とよく言われている。その作用を簡単に説明すれば、食物繊維がその機能を発揮するのは腸を通過する間だ。保水性に富む食物繊維は腸の中で水分を含んで膨張。これにより排便を促すので便秘を改善する。

 食物繊維の効用はこれだけではない。動脈硬化や高血圧の予防効果も期待できる。腸の中に入ってきたコレステロールのうちの余計な分を食物繊維が吸着して、便とともに排泄することで動脈硬化や高血圧を防ぐという。

 イチジクが豊富に含んでいるペクチンは、食物繊維の中で最もコレステロール値を下げる作用の高い水溶性食物繊維の一種だとされている。

 さらに、イチジクはポリフェノールの一種「アントシアニジン」を含んでいる。目によいといわれるブルーベリーの色素「アントシアニン」と同じ系統の色素だ。イチジクを2つに割ると果肉の中心部が赤紫色であることがわかるが、それがアントシアニジンである。このアントシアニジンはまた、抗酸化作用が期待できるフラボノイドの仲間でもある。

 現代になってわかっていることからイチジクの御利益を説明すれば以上のような内容になるが、人間はそれ以前からイチジクの効能を経験から知っていた。そうした経験則を系統立てたものの一つが中国漢方で、イチジクは健胃や整腸、解毒作用に優れた漢方生薬の原料として利用されている。

 さらに、そのベースとなったのは古代インド医学だという。その「古代インド医学を縦系列とし、仏教を横系列としてお釈迦様が織られた布のようなもの」が「仏教医学」というのが、1976年に発行された『医の食物誌 食卓の仏教医学』(岩淵亮順著、六興出版刊)の主張である。

 著者が説明するには、古代インド医学とは古代のインド伝承の医学を基本とし、それに今から2500年前に釈迦によって完成された仏教の考え方を加味したもの。だからといって、用いられるものは“不思議な霊薬”でも“秘薬”の類でもなく、いずれも人間の周囲にある食べ物ばかりだという。

 殺生を禁じている仏教で多く用いられているのは野菜、果物、穀物、野草などの植物で、それを食べるか飲むか、あるいは塗る、つけるなどの“処方”を行う。薬としてのカテゴリーは根薬、葉薬、花薬、果薬などに分けている。

 その中でとくに種類が多いのが「果薬」、すなわち、果肉に薬効が含まれている果物ということだ。バナナ、マンゴー、リンゴなどが代表的なアイテムだが、イチジクも代表的な果薬の1つとなっている。

 仏教医学ではイチジクの果肉を食べて得られる薬効について次のように説明する。

(1)吐血・下血・鼻血=イチジクの果肉には血をきれいにして、汚い血を下す作用があることから、果肉を毎日3、4個程度、生で食べる。痔・消化不良・下痢・便秘の改善にも効果がある。

(2)二日酔い=酒に悪酔いした場合には、イチジクの果肉をなるべく早く食べると、早く酔いがさめる。

 いうまでもなく、仏教医学ははるか昔の医学であるから、参考程度に聞いておくのがいいだろう。なにしろ、「毎日3、4個程度」食べるというのは現実的じゃないもんね。

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ジャーナリスト あさひ・としひこ 旅行会社勤務の後、スーパーマーケット専門紙「流通ジャーナル」、海外旅行専門誌「トラベルタイムス」(オータパブリケイションズ)、同「トラベルマネジメント」(トラベルコンサルタンツ)での社員編集者勤務を経て、1996年よりフリーランス。「夕刊フジ」「サンケイスポーツ」などで健康および医療・医学分野の契約ライターを担当。その後、「週刊新潮」で連載コラム「よろず医者いらず」、夕刊フジで一般食品の健康的効能を紹介する「旭利彦の食養生訓」、飲食業界専門誌「カフェ&レストラン」で「カフェのヘルシー研究」、経済雑誌「経済界」で50代以上の男性に向けた健康コラム「経営者のための“自力”健康法」を連載。現在は食品専門誌「食品工業」(光琳)、スーパーマーケット専門誌「週刊ストアジャパン」、医療専門誌「月刊/保険診療」(医学通信社)で取材・執筆活動を行っている。主な著書に「よろず医者いらず」(新潮社)、「カフェの『健康食材』事典」(旭屋出版)など。