難問がいざなう多彩な人と食

359 「HAPPY SANDWICH~幸せのサンドウィッチ~」から

沖縄本島北部のやんばる(山原)地区。カミンチュ(神人。沖縄の女性祭司)から、神様にうさげる(お供えする)サンドイッチを作るようお告げを受けた男が、ハルサー(畑人)、ウミンチュ(漁人)、料理人など、沖縄の食に関わるさまざまな人々を訪ね、ヒントを見つけていく。今回レビューする「HAPPY SANDWICH〜幸せのサンドウィッチ〜」は、男のサンドイッチ探しの旅を描いたドラマ仕立てのドキュメンタリーである。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

考えに考えて作ってはみたけれど……

満名が最初に作った“神様のサンドイッチ”、ラフテーのパオ風サンド。
満名が最初に作った“神様のサンドイッチ”、ラフテーのパオ風サンド。

 男の名前は満名まんな匠吾しょうご。名護市の料理屋「島豚七輪焼 満味」のオーナーである。満名はまずカミンチュのハル姐(城間やよい)に教えを乞うが、「自分で考えなさい」と言われてしまう。

 琉球料理伝承人の知念伽央梨さんが考えたサンドイッチは、「ベニイモのサンド」「アグー豚とパイナップルとヒハツのサンド」「ニンジンシリシリーとゴーヤー・島ラッキョウのピクルスサンド」の三種類。いかにも沖縄らしいサンドイッチだ。

 一方、お告げを受けて以来、朝から晩までサンドイッチとは何か考えるようになった満名は、悩んだ末に料理屋の日常の中から一つの答えを見出す。それが、タンカンピール(タンカンは南西諸島で栽培されている柑橘類の一つ)を使って発酵させたパオの生地を蒸し、ラフテーと県産野菜を挟んだ「ラフテーのパオ風サンド」。だがここで満名に疑問が生じる。その疑問の答えを見つけるため、満名はサンドイッチ探しの旅を始めるのだ。“何でそこまでこだわる。めんどくさいヤツだなあ”と思うものの、純粋に信仰心が厚いことは理解できる。

ハルサーのために作るサンドイッチ

 満名が最初に訪ねたのは、屋我地島やがじしまの「古民家cafe 喜色きいろ」(現在は閉店)。オーナーの瀬良垣せらがき朱里あかりさんは、ハルサーの眞栄田まえだミエ子さんから仕入れた旬の野菜や、自家製ゆし豆腐などの食材を使った郷土料理を提供する。満名からサンドイッチのことを相談された瀬良垣さんは、いつも野菜を運んでくれる眞栄田さんのためにサンドイッチを作りたくなる。一品目は、ニラ、玉子、レタス、キュウリ、オオバにワサビのマヨネーズをかけた「ニラと玉子のサンドイッチ」。二品目は、「ニガナとツナ炒めと豆腐の肉巻きサンド」。自分が作った野菜とは思えないほどおいしいと眞栄田さんが評するサンドイッチは、作った人と食べる人の両方を幸せにするサンドイッチに見えた。

家族のために作るハチミツサンド

「喜色」では、養蜂家の三浦大樹さんの巣箱を置き、採れたハチミツを使ってチーズケーキを作る。たまたま満名がカフェに来たときに居合わせた三浦さんは、家族とキャンプに出かけた際、大切な家族のために自分のハチミツを使ったサンドイッチを作る。ハチミツの良さを生かすため、ハチミツ以外はバターとチーズのみという「ハチミツとチーズのサンドイッチ」。家族を笑顔にするハニーサンドイッチだと思った。

次世代のための畑のハルサーサンド

 沖縄本島北端の国頭郡国頭村。具志堅農園の代表を務める具志堅興児さんは、土づくりや自然環境との調和を図ることで、安定した収穫・収入を得て次世代にバトンを渡すことのできる持続可能な地域農業を目指している。そんな具志堅さんのサンドイッチは、畑でとれたばかりのズッキーニを輪切りにして炒め、パンにのせたシンプルなもの。余分なものがない分、新鮮さが活きているように映った。

おじーのためのイカフライバーガー

 国頭郡本部町。遊漁船「Captain’s Okinawa」の船長である仲村茂樹さんは、年々減り続ける漁獲量を考慮して、海の資源の保全に尽力している。満名と一緒に釣り糸をたらしながら、どんなサンドイッチがいいか相談された仲村さんは、自分がウミンチュになるきっかけをくれた祖父のために、海でとったアオリイカを使った「イカフライバーガー」を作る。お供えした遺影の祖父が笑いかけてくるような、ウミンチュの誇りを受け継ぐサンドイッチに思えた。

ヴィーガンのためのオープンサンド

 満名は、友人でハルサー見習いの祥平(小だいらくん)から、グローバルな視点で考えろとアドバイスを受け、やんばるを離れ愛車の赤ジープで南へと向かう。

 訪ねたのは中頭郡北中城村。日本ヴィーガン協会沖縄支部長の齋田実美さんは、食肉の生産には大量の飼料と水を必要とし、非効率で環境への負荷が大きいという。今の時代、神様もきっとヴィーガンだという齋田さんに対し、立場の異なる満名としては完全には同意できないものの、畜産の現状を把握し、命ときちんと向き合う決意をする。

 齋田さん流・神様のサンドイッチは、「アボカドとマッシュルームのオープンサンド」「ローハーブチーズのオープンサンド」「ローカカオとローゼルジャムのハートサンド」の三品。国頭郡今帰仁村で自然農法を実践している、むい自然農園の益田航さんの野菜をはじめ、すべてプラントベース(植物由来)の食材だけを使ったものだ。アメリカのローフード(raw food。非加熱の食品のみを食べようとする食習慣)スクールで学び、ローフードインストラクターとして活動する齋田さんだけに、見た目が鮮やかで美しく、食欲をそそるサンドイッチに見える。

妻への愛情こもるまかないサンド

 満名のジープはさらに南下。那覇市松山の料理店「傳饗でんきょう」のオーナーである上江田崇さんは、イタリア料理を極めながら、イラブー(ウミヘビ)汁のスープの豊かさに感銘を受け、最新の沖縄料理をメニューに取り入れるようになった。満名に相談されて上江田さんが作ったのは、出汁用に長時間煮込んでうまみが凝縮した野菜を特製マヨネーズで和え、よけておいたベーコンのハジと一緒にピタパンのポケットに詰めた「まかないピタサンド」。共に店を切り盛りする妻のミサさんへの愛情が感じられるまかないだと思った。

祈りのサンドイッチ

 やんばるに帰ってきた満名。サンドイッチ探しの旅の中でさまざまな人々の食への情熱や生き方に触れ、食と人の関わりについて熟考した末にたどり着いた、神様にふさわしいサンドイッチとは……。

 折しも沖縄戦終結から80年。神様となった戦没者への慰霊の心を込めて、自分ならどんなサンドイッチを作るだろうかと考えさせられた。


島豚七輪焼 満味
https://manmi-yanbaru.com/
具志堅農園
https://gushikenfarm.base.shop/
Captain’s Okinawa
https://okinawa-captains.com/
特定非営利活動法人日本ヴィーガン協会沖縄支部
https://www.instagram.com/japan_vegansociety_okinawa/
むい自然農園
https://harumui.com/
傳饗
https://lampantry.theshop.jp/

【HAPPY SANDWICH~幸せのサンドウィッチ~】

公式サイト
https://www.happy-sandwich.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2023年
公開年月日:2023年6月20日
上映時間:93分
製作会社・配給:やんばる共和国
カラー/サイズ:カラー/16:9
スタッフ
監督・脚本:岸本司
エグゼクティブプロデューサー:大朝將嗣
プロデューサー:大朝まりあ
撮影:小橋川和弘、川畑公平、大朝まりあ
録音:竹内洋
整音:佐藤祐美
編集:又吉安則
キャスト
出演:
満名匠吾:満名匠吾
知念伽央梨:知念伽央梨
瀬良垣朱里:瀬良垣朱里
眞栄田ミエ子:眞栄田ミエ子
三浦大樹:三浦大樹
具志堅興児:具志堅興児
仲村茂樹:仲村茂樹
齋田実美:齋田実美
益田航:益田航
上江田崇:上江田崇
ハル:城間やよい
祥平:小だいらくん
ナレーション:モコ

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。