香港市場が日本にもたらす恩恵

2017年8月17日(木)〜21日(月)の5日間、香港の食品・食材の総合見本市「フード・エキスポ」が開催され、私も視察して来ました。

日本の出展が重視されている香港フード・エキスポ

第28回香港フード・エキスポの開会式。
第28回香港フード・エキスポの開会式。

「フード・エキスポ」は今回が第28回で、併催の第9回「香港インターナショナル・ティー・フェア」(茶の総合見本市)、第4回「香港家電&日用品展」(香港の調理器具などの家電・日用品メーカーが一般来場者向けに商品を展示即売)、第2回「ビューティー&ウェルネス・エキスポ」(香港の美容・健康関連用品メーカーが一般来場者向けに商品を展示即売)と合わせて、29の国と地域から2,000社を超える出展者を集め、約50万人が来場しました。「フード・エキスポ」の後半は一般消費者にも開放されますが、前半の8月17日(木)〜19日(金)はBtoBの見本市で、これには前回より1%増の21,000人のバイヤーが来場しました。これらの出展数と来場数はいずれも過去最多の規模です。

 会場は香港コンベンション&エキシビション・センターの3フロアで構成し、最上階がBtoB主体の「トレード・ホール」とティー・フェア会場、中層がBtoBとBtoCが混在する「グルメ・ゾーン」、地上にいちばん近い層がBtoCの「パブリック・ホール」と分けられています。この最上階エリアで最も多くのブースを確保して目立っていたのが、JETROによるジャパンパビリオンおよびティー・フェアにおける日本の出展でした。

 当エキスポへのJETROの出展は連続7回目の出展です。日本からの出展は、中国本土および香港を除く地域からの出展者としては例年最大勢力となっていて、今回も過去最多の330社・団体が出展しました。香港側でも日本の出展には大いに期待しており、今回は日本が当イベントの「パートナー・カントリー」に指定され、関係各方面への情報発信等で優遇されました。「パートナー・カントリー」は2012年に続いて2回目です。

 開会式には齋藤健農林水産大臣も参加して挨拶に立ちました。その後大臣は場内を視察し、ジャパンパビリオンのオープニングでもスピーチを行った後、香港と日本および各国の要人らとの会食でも日本の食品の利点をアピールし、日本が香港市場を重視する姿勢も示した。会食会場で直接お話を聞いたときも、「日本からの農林水産物の輸出額では、対香港輸出がすでに4分の1を占めている重要な市場ですが、実際に来てみて、開場を見て話も聞いてみて、さらに伸び代がある可能性を強く感じました」と話し、貿易に関する統計などのファクトを上回る熱気を現場で感じていた様子でした。

香港での日本人気

 この熱気というのは、香港現地とそこに訪れる各国のビジネスパーソンの活発で積極的な様子からも感じますが、私たち日本人にとって強く印象づけられるのは、香港での“日本人気”の強さです。JETROによるジャパンパビリオンの通路には人があふれ、また他のフロアでも日本製品や日本関連の出展には人が鈴なりになっていました。

 しかも、それは街に出ても感じることです。そこここで日本風の漢字仮名まじり、ひらがな、カタカナの表記の掲示物が見られます。現地の人に聞けば、日本風の表記などで日本のものと感じられるものに人気が集まると言います。

 市中で日本食品の情報発信基地となっているのが百貨店の「SOGO」と「YATA」(一田百貨)ですが、これらの食品売場では日本の食品が多く並び、グローサリー以外にも日本産の野菜や果物などの生鮮品もそろっています。飲料やグローサリーは日本と同等か高め、果物は国内の高級青果店の価格という印象ですが、野菜は国内のスーパーマーケットと比べてもそれほど高価ではない、日常食べられているもののようです。また、スーパーマーケットの「WELLCOME」(恵康)は香港で200店以上展開していて、香港人が日常使う店ですが、そこでも日本の食品を多数見かけます。

 よく、華人には“見栄消費”というものがあって、競って高価なものを求める風が伝えられますが、そうしたハレの消費だけでなく、ケの消費にも日本製品は浸透しているようです。その背景には、日本で作られているものは品質がよく、安全で、またおしゃれであるといった印象があると言われています。

中国大陸と東南アジア諸国への出入口

 さて、香港は人口およそ730万人という大都市ではありますが、さすがに日本が輸出する農林水産物の4分の1すべてを香港だけで消費しているわけではありません。日本から輸出されたものがさらに中国大陸や周辺のアジア諸国等へ、形を変えて、あるいはそのまま輸出されるものも多いわけです。もちろん、その際には中国大陸市場等での「香港で人気のあるものへの憧れ」に対応するという価値も付加されます。

 日本の食品関係者にとって注目すべきはむしろこの部分でしょう。現在、世界の中で最も注目されている市場は中国大陸市場です。中国大陸はかつての“世界の工場”から、大きな内需のある市場へと変化してきています。そこで、中国大陸への輸出や工場や店舗などの拠点作りに取り組んでいる企業は日本にも多いわけですが、昨今撤退するケースも増えています。それらの原因の多くは、商業や労働に関する習慣、現地での法務の難しさなどにからんでいます。

 その点、香港を経由した輸出入や、香港を本拠とした大陸での拠点拡大には“西側”諸国にとってはメリットがあると言います。香港は言語として広東語、北京語、英語を使い分け、しかも長い歴史の中で東西のビジネスのやり方に通じています。その香港を、中国大陸や東南アジア諸国との出入口や商習慣の翻訳装置として活用することができるわけです。そして、香港の経済自体が、そうした交易と金融で成り立っているわけですから、「フード・エキスポ」での日本出展に期待がかかるのもうなずけるというものです。

将来の日本市場への対応を考える教材

 日本と香港はそのように食を通じての結びつきがあるので、香港を訪ねることは食ビジネスに従事する人にとっては価値のある旅行になるでしょう。「フード・エキスポ」について言えば、日本の行政としては各種の情報をJETROに集中させていますが、今回は農林中央金庫、日本政策金融公庫、そして地方銀行や信用金庫などによる出展・地場企業のサポートなども見られましたから、出展の状況や効果などについて金融機関に問い合わせてみることもよいでしょう。

 また、出展でなくとも、あるいは具体的に輸出に取り組む事業のイメージを持っていなくとも、農業を含む食品関係者が香港を訪ねることは、今後のビジネスを考える上で大きなヒントを与えてくれるはずです。

 まず、香港は人口過密で地価も高いことから、外食と中食が発達しています。日本でも今後食の外部化はさらに進むことが予測されており、香港人の食生活とそれを支える香港の食ビジネスは大きな示唆を与えてくれます。

 それから、街を歩いていて感心するのは、高齢者の活発さです。杖を使う人、ハンドル式車椅子を使う人も含めて、街でお年寄りはたくさん見かけ、他の年齢層の人と同じように生活を楽しんでいるように見受けます。

 そして性別に関係なく人々は活発に働いています(日本の古い頭の固い人から見れば、とくに「女性が活躍している」と見えるでしょう)。また、外国人が多いことにも気づきます。白人、彼らと同じぐらい古くから根付いていると言われるインド系の人、労働者として入って来ているフィリピン人、ヒジャブを身につけたムスリムも東南アジア諸国から働きに来ている人でしょう。

 これら、高齢者への対応やジェンダーやダイバーシティについて考えること、そしてそのような社会で多様な食ニーズに応えていくことは、香港の人々にとって将来ではなく今まさにある問題、いいえ、ビジネスチャンスであるわけです。

 さらに考えたいのは、香港では漁業こそあれ農業生産はほとんどなく、食料自給率は1%程度と言われています。その形でいかに経済と生活を成り立たせているか。日本の農林水産省は食料自給率を上げることに熱心ですが、香港を見れば、活発な貿易こそ生命線とも見えて来ます。

※このコラムは日本食農連携機構のメールマガジンで公開したものを改題し、一部修正したものです。

About 齋藤訓之 385 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →