脱脂大豆は“ダイズカス”に非ず

ダイズが「畑の肉」と呼ばれるのにはわけがある
ダイズが「畑の肉」と呼ばれるのにはわけがある

 脱脂大豆は、大部分が飼料と肥料にしか使用されない時代があった。しかし現在では用途が広がり、多様な食品に活用されている。タンパク質源として、人類の食を支える重要な素材であることを改めて認識したい。

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醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。

横山勉「大豆変身物語」(香雪社)

脱脂大豆の製造方法

脱脂大豆
大豆油と同時に生産される脱脂大豆。

 大豆油の製造工程は、原料精選→乾燥→破砕→加温→圧扁→溶剤抽出となる(第24回「大豆油の用途と役割」参照)。ロートセルという大型の連続式抽出装置で、溶剤により抽出される。この時、大豆油と同時にもう一つの製品「脱脂大豆」が生まれる。

 大豆油抽出に用いる溶剤は、n-ヘキサン(分子式C6H14)である。無色透明の疎水性の液体で、灯油様の臭気を持つ。

 大豆油と脱脂大豆と、両製品ともに抽出後は脱溶剤工程に移る。n-ヘキサンの沸点は68~70℃と比較的低温である。この沸点以上に加温すれば、溶剤を除去できるし、減圧条件下であれば沸点以下の温度でも脱溶剤が可能だ。したがって、n-ヘキサンは工程で使われる食品添加物(加工助剤)であるが、製品となる大豆油や脱脂大豆には含まれないため表示の必要はない。

 圧搾のみで得られる植物油を珍重する方々には不評かもしれないが、溶剤抽出による大豆油・脱脂大豆製造の安全性に問題はない。また、脱脂大豆に対しては上記工程の後にトースターという加熱工程を備えることが多い。

 一般的な大豆100kgから、大豆粗油18kgと脱脂大豆77kg程度を得ることができる。脱脂大豆の成分値は表の通りである。脂質が除去されるため、タンパク質や炭水化物含量が増加している。何と言っても、脱脂大豆はタンパク質源として重要なのである。

脱脂大豆の成分値%(例)
  水分 タンパク質 脂質 炭水化物 灰分
全脂大豆 10.0 37.7 19.8 27.6 4.9
脱脂大豆 10.4 48.2 1.2 34.4 5.8

水溶性窒素指数

 生の大豆に含まれるタンパク質の大部分は水溶性である。大豆を加熱するとタンパク質は変性して、水に不溶になる。全体のタンパク質窒素に占める水溶性の割合をNSI(水溶性窒素指数%)という。NSIの数値により、大豆タンパク質の変性の程度を判断できる。

 前述の脱溶剤とトースター工程の条件を調整することにより、任意のNSI値を持つ脱脂大豆を製造可能である。NSI値で大別すると、高変性(30%以下)、中変性(30~60%)、低変性(80%以上)となる。

 大豆には、酵素阻害物質(トリプシン・インヒビター/第11回「マメ類の有害物質」参照)等の有害物質が含まれている。これらを失活させるためにも加熱工程は必須である。一方、過度の加熱は栄養面に悪影響がある。重要なアミノ酸のリジンやビタミンが低下するからだ。これらに配慮して、多様な脱脂大豆を作れるようになり、その結果として用途が広がってきたのである。

脱脂大豆の用途

 国内で、脱脂大豆は大豆油と共に生産されるが、これだけではなく、単独で大量に輸入されている(2010年実績219万t)。

 その多くはタンパク質高変性で、家畜の濃厚飼料として消費されている。また家畜以外でも、養殖魚の飼料やペットフードとして活用され、肥料にも配合されている。

 中変性のものは「脱脂加工大豆」と通称され、しょうゆ用として広く利用されている。高変性のものはプロテアーゼ(タンパク質を分解する酵素)による分解性が悪く、低変性では蒸煮時の粘性が高まり処理が困難である。みそ用としても、相当量使用された時代があったが、現在では見かけなくなっている。

 低変性の脱脂大豆はさまざまな食品の原料として活用できる。例として、植物たん白(第19回「一石三鳥の植物性たん白」参照)や豆腐(第4回「人気者の豆腐」参照)、タンパク加水分解物等が挙げられる。豆乳類(第2回「豆乳ブーム継続中」参照)でも、調整豆乳と豆乳飲料に活用できる。

 豆腐や豆乳類の場合、かなりの割合で大豆を代替しても品質への影響は少ないと考える。それでも、スーパー等の市販品で脱脂大豆を使用しているものは見つけることができなかった。イメージがよいとは言えないためだろう。

 脱脂大豆を粉にした多様な製品(大豆粉)も市販されている。目的に応じて脂質含量を調整したり、リン脂質レシチンを添加する場合がある。脱脂することなく粉にする場合もある。これらは、リジン強化やパンの老化防止、ドーナツの油浸透防止、ソーセージの乳化等の目的のために使用されている。

 脱脂大豆は食の表舞台に登場することはない。戦前には大豆粕と呼ばれ、大部分が飼料と肥料にしか使用されない時代もあった。しかし、現在では人類の食を支える重要なプレーヤーであることは間違いない。どなたであっても大きな恩恵を受けているのである。「ダイズカス」などという失礼な呼び方は控えていただきたい。

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About 横山勉 99 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 元ヒゲタ醤油品質保証室長。2010年、横山技術士事務所(https://yokoyama-food-enngineer.jimdosite.com/)を開設し、独立。食品技術士センター会員・元副会長(http://jafpec.com/)。休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(https://ameblo.jp/yk206)。