一石三鳥の植物性たん白

植物性たん白を利用する食品はハム・ソーセージをはじめたくさん存在する
植物性たん白を利用する食品はハム・ソーセージをはじめたくさん存在する
植物性たん白を利用する食品はハム・ソーセージをはじめたくさん存在する
植物性たん白を利用する食品はハム・ソーセージをはじめたくさん存在する

植物性たん白という食材をご存じだろうか。JAS(日本農林規格)があり、多くの方が日常的に食べているはずである。そうであっても、このことを意識している一般消費者は少数だろう。本食材は食肉に比べ、数々の利点を持っている。認知度を高めて、一般に普及させたいと考えている。

“人工肉”登場?

 科学の進歩は日進月歩である。今日では試験管の中で動物細胞を培養することが可能になっていて、この技術を活用して生命科学の研究や医療への応用が進められている。一方、人工的な食肉(in vitro meat)を作ろうと考える研究者も存在する。筋肉の部分だけを作ることができれば、骨や内臓など価値が低い部分に向けるエネルギーを削減できる。現行の牛肉と同程度のコストで製造でき、環境負荷も低いという。安全性の問題はなさそうである。それでも、どれだけの消費者が食べたいと思うだろうか。

 しかし、実は“人工肉”と言える食材は、すでに広く流通している。「そんなものは食べたくない」と思ったとしても、誰もが日常的に利用していることだろう。ただし、スーパーで探してもパック詰めで売られている“人工肉”を見つけることはできない。加工食品の原料となっているためである。名称を「植物性たん白」という。

植物性たん白とは何か

 植物性たん白の条件は、JAS(日本農林規格)で定められている。要約すると、以下が挙げられる。

(1)大豆または小麦を主原料とする。

(2)物理的作用によりゲル形成性、乳化性等の機能またはかみごたえを付与する。

(3)主原料由来のたん白質含有率を50%超にする。

(4)食用油脂・食塩・でん粉・食品添加物を一定の範囲で加えることができる。

 製造方法にも触れておこう。一般に、たん白質はアルカリ性側のpHで可溶化できる。この条件で、大豆等のたん白質を溶解抽出する。食塩を含む酸性pHの液中に、小さな穴から抽出液を押し出すとたん白質が繊維状に凝固する。これを束ねて押し固めれば、食肉に似た食感になる。これが、上記(1)~(3)の内容である。最終的な形状には、繊維状・粒状・粉末状・ペースト状が存在する。加工食品の原材料として使用した場合、形状もあわせて「繊維状植物性たん白」というように表示する。

 本食材を用いている加工食品の範囲は広い。ハムソーセージ・ひき肉使用製品・魚肉練り製品・菓子類・麺類・パン・育児粉乳といった具合である。使用する狙いは栄養強化・乳化・結着保水性向上・食感改良とさまざまである。生産量は輸出も含めて54,000t(2011年)にも及ぶ。そのうち3分の2が大豆を主原料としている。

植物性たん白を表舞台へ

 植物性たん白をふびんに思う。「日陰の存在」と言っては申し訳ないが、脚光を浴びることのない「縁の下の力持ち」には違いない。だが、食肉と比較するといくつかの点で好ましいものであることは明らかである。

 その一つが健康面である。コレステロールを含まず、脂肪含量もゼロまたは少ない。その結果、血中コレステロール低下、動脈硬化抑制、血圧低下、血糖値低下等に寄与できることが期待されるという。

 環境負荷が少ないことも大きな特徴だ。食肉生産は地球環境に大きな負荷を与えている。家畜飼料にはトウモロコシや脱脂大豆が供されることが多い。ただし、その効率は著しく悪い。一説によると、食肉1kgを生産するのに牛肉で11倍、豚肉で7倍、鶏肉で4倍の穀物を消費するという(日本における飼養方法を基にしたとうもろこし換算による試算)。

 一方、大量に生じる排せつ物(家畜ふん尿、汚水等)は、1999年に成立した家畜排せつ物法等に則った適切な処理が必要である。さらに、牛肉の場合は牛のゲップ中のメタンガスの問題が加わる。メタンガスは二酸化炭素の21倍の温室効果を持つとされ、畜産からの大量排出が問題であり、牛のゲップを抑える研究がまじめに行われている。

 しかし、食肉の一部を植物たん白に置き換えれば、環境負荷を減らすことができる。もちろん、コストも低減可能である。

植物たん白の唐揚げはうまいらしい

 優れた特徴を持つ植物性たん白だが、残念なことに家庭用はほとんど市販されていない模様である。たしかに従来は、食肉の安価な増量剤と捉えられていたかもしれない。だが、明らかに時代は変化している。植物性たん白の家庭用製品の市販を一般化したいものである。家族の健康、環境負荷低減に加え、家計にもやさしいからだ。いいことづくめの一石三鳥の食材なのである。適切なアピールの工夫は必要だろうが、消費者に受け入れられるに違いない。

 通常、本食材は業務用として大きなロットで販売されているが、インターネット通販等限られたルートでは、家庭でも使える小ロットでの購入も可能なようである。これを利用して作った植物たん白100%の唐揚げがおいしいそうだ。100%植物性たん白の料理はやや極端だが、ハンバーグであれば数割混ぜても全く気がつかないという。植物たん白をスーパーの棚に並ぶ普通の食材にしたいと願っている。

横山勉
About 横山勉 57 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。元ヒゲタ醤油品質保証室長、2010年独立。食品技術士センター副会長(http://fpcc.jimdo.com/)。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(http://blogs.yahoo.co.jp/teckno555)。