日本の異性化糖に飛びついたのはあの国だった

コカ・コーラの原材料表示
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日本で工業化に成功した異性化糖生産技術だが、国内ではなかなか評価されなかった。しかし、最初にそれに飛びついたのは、外国の企業だった。

日本の異性化糖に注目したのはアメリカ企業だった

リョウ 「来たか。ごくろう」

タクヤ 「『風立ちぬ』タイトル通りのサナトリウム小説でがっかりしているタクヤでございます」

リョウ 「『庵野の声はないだろ』という声も」

タクヤ 「ま、あんまり悪口言うと叩かれそうですからそのぐらいにしておきますか。口直しに『風と共に去りぬ』のDVD買ってきました」

リョウ 「全然関係ないだろ。“風”しか共通してねーし」

タクヤ 「『風と共に去りぬ』と言えば、アメリカのジョージア州アトランタです」

リョウ 「オレの話聞いてねーし。それに『風と共に去りぬ』と言えば地名はタラだし」

タクヤ 「タラは架空の地名です」

リョウ 「わかった。お前としては、どうしてもアトランタの話をしたいので、無理やり『風と共に去りぬ』を持ってきただけだろ」

タクヤ 「ばれましたか。では、アトランタと言えば」

リョウ 「コカ・コーラの本社所在地」

タクヤ 「隊長、やっぱり私の気持ちわかってくれてますよねー。じゃ、私はなぜこんな話をしているのでしょう?」

リョウ 「あ、そうか。日本で工業化に成功したけど、国内ではウケが悪かった異性化糖。これに最初に注目したのって、コカ・コーラだったって言うわけ?」

タクヤ 「と、伝えられています」

コカ・コーラの原材料表示
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リョウ 「冷蔵庫にあったな。暑いからコカ・コーラ飲ましてやる」

タクヤ 「ども」

リョウ 「……あーほんとだ、使ってる。原材料のとこに『糖類(果糖ぶどう糖液糖、砂糖)』って書いてあるな」

タクヤ 「でしょ」

リョウ 「なんで日本の飲料で注目されなかったのに、アメリカの会社は使い始めたんだろうな」

タクヤ 「個別企業の判断は実際に聞いてみないとわかりませんが、状況の説明はつきますよ」

リョウ 「と言うと?」

タクヤ 「『アメリカ食品工業が液糖を使い始めたきっかけは禁酒法だった』で説明したように、アメリカはソフトドリンク産業がものすごく成長していたわけですよ」

リョウ 「ふむ」

タクヤ 「それで、たとえばコカ・コーラのように大量に製造されるものの場合、原材料のコストダウンというのは、もうそれだけで莫大な利益を生むわけですよね」

リョウ 「ああ、『大きな会社では単位当たりのコストが増幅される』っていう話もしたもんな」

タクヤ 「それで、砂糖より安価で、しかも飲料製造で使いやすくて、味としてもキレのある甘さで、となれば、じゃあ上手に使ってみようや、という話になるのは容易に想像がつきますよ」

リョウ 「なるほどな。しかも、禁酒法時代以来、アメリカのソフトドリンク産業は液糖を利用するのに慣れていたってわけだよな」

タクヤ 「そういうことです。もともと液糖のメリットを知っている産業があったということは大きいでしょう」

キューバ危機で砂糖が高騰

リョウ 「それで日本の飲料メーカーも、『アメリカで使っているなら』とか、『あのコカ・コーラが使っているなら』ということで、逆輸入の形で使い始めた、というところかな」

タクヤ 「そうでしょう。それと、異性化糖の利用がアメリカで火がついたっていうのは、あと2つばかり、当時のアメリカや周辺の状況が背景にあると考えられます」

リョウ 「当時の状況ね」

タクヤ 「1つはキューバ危機ですよ」

リョウ 「そうか。キューバはアメリカ資本中心に砂糖のモノカルチャーの国だったんだよな。それがカストロ政権になってごたごたと」

タクヤ 「カストロは、砂糖以外の食糧増産のために、アメリカ資本の農場の剥奪とかを始めたんですよね。それでもアメリカと仲良くなっていく気はあったみたいで、経済援助を申し入れに行ったりしてます」

リョウ 「ところが共産主義者は帰れみたいに扱われて頭に来たんだよな」

タクヤ 「で、アメリカは1961年にキューバと国交断絶、キューバ産砂糖の輸入も禁止しちゃった」

リョウ 「あちゃー」

タクヤ 「で、砂糖高騰と」

リョウ 「キューバにソ連の核ミサイルが配備されているのが発見されて戦争寸前ていうのが1962年だ。でも、結局米ソの交渉でミサイルは撤去されて、めでたしめでたしだったんだろ」

タクヤ 「米ソとしてはですね。でも、カストロはオラをはずして決めたっていうんで、カンカンだったようですよ」

リョウ 「それでキューバ独りぼっち」

タクヤ 「一方、その頃、中米とかの砂糖生産国の間では、石油輸出国機構(OPEC)のように砂糖輸出国機構みたいの作ろうぜっていう動きもあったようですね」

リョウ 「それはまた、砂糖の値段が高くなりそうだな」

タクヤ 「そういう動きにアメリカが怒って、猛烈な勢いで異性化糖技術を開発して、砂糖生産国をいじめたんだって信じてる人が、中米諸国にはけっこういるようです」

リョウ 「はは。でも実際には異性化糖の工業生産を実現したのはアメリカではなくて日本だったんだよな。国際情勢のごたごたで、そういう伝説が出来たわけだ」

タクヤ 「とは言え、結果論としては、異性化糖生産の工業化実現で、砂糖逼迫だとか砂糖高騰の不安に対処できる体制が作れたということはあるわけですよ」

リョウ 「でも、砂糖生産国には打撃だよ。砂糖を巡る話っていうのは甘くねぇな」

タクヤ 「食えない代物です」

リョウ 「で、当時の状況のもう1つってのは何だ?」

タクヤ 「次回のお楽しみです」

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もの書き稼業 きた・はるか 理科好きの理科オンチ。