大きな会社では単位当たりのコストが増幅される

アメリカの農村
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外食チェーンにとって、保存料は無用のコストでしかないという話で終わった前回。リョウは大企業のコスト感覚の話を始める。

大きな会社はコストの額を気にする

リョウ 「来たか。ごくろう」

タクヤ 「いやー、『マクドナルド』のハッピーセット(Happy Meal)が腐らない話、思いの外長くなっちゃいましたね」

リョウ 「前回は、使わなくて済むケミカルにコストをかけるはずはなかろうという話で終わったんだが、それでオレ思い出したんだよ。大きな会社ほど、コストの率ではなく額の削減に興味を持つものだな」

タクヤ 「え、そうですか? 小さな会社がコストの額を気にして、大きな会社はコストの率を気にするんじゃないんですか?」

リョウ 「いや。バブル崩壊の頃さ。チェーンのレストランが、全店の店長に『B5の用紙に書いた日報を本部にファクス送信するときは、縦に送るな、横に送れ』と号令したことがあった」

タクヤ 「はあ。B4対応のファクシミリならB5を横置きにして送信できますね」

リョウ 「そう。それで、B5は縦寸257mm、横寸182mmだから、横置きにして送信すると、1枚当たり75mmオトク。これがたとえば1000店舗分だと、全店1日分で75mオトクということさ」

タクヤ 「なんだかみみっちぃ話に聞こえますが、1年で27㎞。けっこう差がつきますね。用紙代だけでなく、ファクスの通信料も違ってくると」

リョウ 「だろ? チェーンストアというものは、1店舗なり、商品1点なりにかかるコストが、全体には何倍もに増幅されて効いてくる。だから、部分としては小さいコストでも、余計な金はびた一文使いたくないと考えるはずだというのは、オレもけっこう想像がつくんだ」

タクヤ 「それに、食品の材料が1点増えれば、それだけ管理のコストも増えます。シンプルさも、あの会社の強みの一つでしょうね」

リョウ 「管理というのは、仕入れやら検査やらで人も動くし、帳票も増えるしとかということだな。ものを作る仕事で部品が1点増えれば、その分だけ部品供給サイドで欠品やら事故やらあったらという心配事も増えて、リスク管理にも金がかかる」

タクヤ 「全体で考えるとコストが増幅されて莫大に見えるというのは、大規模経営の農業でもありますね」

リョウ 「と言うと?」

タクヤ 「以前会ったアメリカの超大規模経営の農場主が言ってたんですよ。『今は病害虫が出たときに臨機応変に農薬使ってるけど、たぶんもうちょっと頑張れば完全無農薬でできる自信があるから、近くオーガニック栽培に取り組むつもりだよ』って。それで、メリットはあるのかと聞いたら、『まずオーガニックの市場性が高まっているから、単価が取れると見る。それと、とにかくケミカルのコストがでかすぎるんだ』ってことでした」

リョウ 「単位面積当たりに撒く農薬は少しでも、大面積になれば莫大な量、つまり莫大なコストとして見えるわけだよな。しかも、それが1作当たりに必要だったり不要だったりと不安定なコストに見えるわけだ。だったら多少無理しても全部ナシ! としたいと考えるのが、大規模農家のオーガニックへの興味というわけか」

タクヤ 「コスト面からケミカルを削減したいと考える例は、農業でも食品工業でも、ほかにいろいろあるでしょうね。それを『ウチは無農薬です』『ウチは無添加です』とマーケティング戦略にも使おうと考える企業体もあれば、あえて語らず粛々とやる会社もあると」

“傷まないのは保存料のせい”という型

リョウ 「それにしてもだな、『マクドナルド』のハッピーセットについては、何であんな実験がされて、話題になって広まったんだろうな」

タクヤ 「あ、まだあの話続ける気ですか?」

リョウ 「いや、そういうつもりではなくてだな。何であんなに大勢の人が、『腐らない』ということで大騒ぎしたんだろうな?」

タクヤ 「“食べ物が傷まない→保存料を使っている!”と短絡したり、人にそう思わせたりすることというのは、食品関係では珍しくないことだと思いますよ。とくに最近」

リョウ 「そうなのか?」

タクヤ 「こういう話が広まりやすい背景には、消費者が工業的な食品の製造や流通、それと、それに関する法律にあまり詳しくないということもあると思います。消費者だけでなく、飲食店をやっている人も、けっこうこのあたりは疎いと感じます」

リョウ 「法律まで関係あるのか? 面倒みきれんな」

タクヤ 「たとえば、隊長、缶詰に使える保存料って何種類あるか知ってますか?」

リョウ 「さあ、考えたこともない。でも、けっこう使ってるんじゃないか? 缶詰なんて何年も持つわけだし」

タクヤ 「ふふふ。その答えは、また来週です」

リョウ 「あからさまに引っ張ることを覚えたね、お前は」

タクヤ 「ごきげんよ~」

●このシリーズの第1話
「マクドナルド」ハッピーセットが腐らない話について

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もの書き稼業 きた・はるか 理科好きの理科オンチ。