戦後日本は砂糖飢餓地帯

中華民国総統府
中華民国総統府(旧台湾総督府本庁舎)

日本での異性化糖産業スタートの前段としての、戦前・戦後の砂糖事情の話。

戦争終わってサトウキビ畑よさようなら

中華民国総統府
中華民国総統府(旧台湾総督府本庁舎)

リョウ 「来たか。ごくろう」

タクヤ 「なんか果物の匂いがしますね」

リョウ 「台湾出張行ってたITの人が、お土産にパイナップルケーキ買って来てくれた。食いなよ」

タクヤ 「オンライソーですか。では一つ」

リョウ 「一つと言わず、たくさん食え。2箱もくれたんでね」

タクヤ 「台湾はいい国ですが、お土産屋さんでオンライソーたくさん買わせるのだけはなんとかならないんでしょうか」

リョウ 「いいじゃんか、うまいんだから」

タクヤ 「おいしいものがほかにもいっぱいありますよ、フォルモサには」

リョウ 「ふむ。パイナップルっていうのは、熱帯アメリカ原産だよな。なんで台湾で盛んに作ってるんだ?」

タクヤ 「大航海時代にアジアに持ち込まれたようですよ。歴史は古いと」

リョウ 「台湾バナナっていうのはどうなんだ?」

タクヤ 「こっちはもっと古そうですね。マレー半島原産らしいですから、ずいぶん昔から作ってたんじゃないですか?」

リョウ 「ふーん。檳榔は?」

タクヤ 「知りません。噛んだことあるんですか、檳榔」

リョウ 「ないよ。寺の周りの道路に、赤いものがペッて吐いてあるのを見たことがあるだけだ」

タクヤ 「檳榔屋さんにふらふらと入ったこととか」

リョウ 「ないって。あと、サトウキビどうなんだ」

タクヤ 「台湾にサトウキビが入ったのがいつかはわかりませんが、新渡戸稲造が後藤新平に呼ばれて技官として台湾に行ったときに、サトウキビ栽培と製糖のシステムを改善して発展させたはずですよ。明治の後期」

リョウ 「なんで砂糖作るのにがんばったんだろうな」

タクヤ 「隊長、砂糖は外貨稼ぎの優等生だったんですよ。世界中、砂糖が嫌いな人なんかいないじゃないですか」

リョウ 「うちの親は砂糖目の仇にしてるぞ」

タクヤ 「それは糖尿とか肥満とかを心配しているからでしょう。甘いもの出されて涎出ない人なんかいないと思いますよ」

リョウ 「で、世界中に市場があると。それを売ったら、外貨入るぞと」

タクヤ 「日本は外貨稼げるものが少なかったですからね。明治に入ってまず頑張ったのが繊維でしょう」

リョウ 「女工哀史だ」

タクヤ 「あと、北海道でカニ缶作ったりサケ缶作ったり」

リョウ 「あれも外貨稼ぎか」

タクヤ 「そんなの一生懸命やってもまだ足りなくて、ユダヤ人からお金貸してもらって軍艦作ったり大砲買ったりして、なんとか国を守ってきたっていうのが明治時代でしょう」

リョウ 「その後図に乗って暴れて懲らしめられてな」

タクヤ 「で、台湾ともさようなら、ごめんね、と」

リョウ 「サトウキビ畑もさようなら」

タクヤ 「ですよ。沖縄も置き去りにしちゃったでしょ、私らの国は。食べ物事情の話でいくと、そんなわけで戦後日本はサトウキビからの製糖をほとんど全部失ったわけです」

闇物資の白い粉

リョウ 「じゃあ、阿波で和三盆頑張れよと」

タクヤ 「徳島・香川の製糖は、量としてはそんなに出ないでしょう。だから高級品路線に行ってるんだろうし」

リョウ 「じゃ北海道のテンサイ糖がんばれよと」

タクヤ 「それがあるにはありますが、戦後日本はとにかく砂糖が足りない国だったわけですよ」

リョウ 「じゃ我慢だな」

タクヤ 「それがね、ダンナ、砂糖の味を覚えた国民は、二度と砂糖なしの生活には戻れませんや、ひっひっひ」

リョウ 「そういうものかね」

タクヤ 「江戸の昔は庶民の手の届く甘いものと言ったら、甘酒と冷やし飴ぐらいでしょう。ニンジンが甘いと言って喜んで食べる子供もいたとか」

リョウ 「今じゃ考えられんな、ニンジン嫌い、ピーマン嫌い、タマネギ嫌いと」

タクヤ 「それが文明開化からバカな戦争始める直前まで、チョコレートはあるわ、キャラメルはあるわ、ビスケットはあるわ、ラムネはあるわ、甘いものが大量生産されて子供たち大喜びって世の中になったわけですよ」

リョウ 「大人も好きだよな、甘いもの。あんこなめながら焼酎飲んでるおやじもいた」

タクヤ 「砂糖がないとあんこも作れない。それが、終戦直後の日本ですよ」

リョウ 「焼け跡闇市派は甘いものに飢えていたんだな」

タクヤ 「その頃の事件史とか見ると、砂糖にからんだ犯罪者とか、けっこう出て来ますよ。日本人もいれば、どさくさに入ってきた兵隊とか宣教師とかの不良外人が闇物資で荒稼ぎなんて話がゴロゴロ。その闇物資の代表的な一つが、砂糖ですよ」

リョウ 「へー。いつの世も白い粉はやばいもんだな」

タクヤ 「あ、砂糖をそういう風に言わないでくださいよ。でも、ま、とにかく闇でしか手に入らない時代があったわけです」

リョウ 「代替物もあったんだろ」

タクヤ 「チクロとかサッカリンとかの甘味料ですよね」

リョウ 「チクロって、禁止になるんだよな。催奇形性があるぞとかって」

タクヤ 「高校のときの先生が『チクロなんか食ったって毒なわけないんだ。どっかにチクロの缶詰があったら、全部持って来い』なんて言ってましたが、そんなもんの缶詰見たことあるのは、戦後に『ギブミーチョコレート』言って走り回ってた人たちの世代まででしょうね」

リョウ 「よしよし。やっと甘味料の話になってきたな。そこで異性化糖がどうとかっていう話になっていくんだろうね、タクヤ君」

タクヤ 「なんですが、今日はちょっと用事がありまして、このへんで」

リョウ 「しょうがねぇな。パイナップルケーキ少し持って行きなよ」

タクヤ 「あざす」

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もの書き稼業 きた・はるか 理科好きの理科オンチ。