2014年食の10大ニュース[1]

  1. 空前の肉ブーム~細分化して拡大する肉業態
  2. 餃子酒場ブームの兆し
  3. カキ人気爆裂
  4. ちょい呑み需要拡大
  5. 炉端人気・再燃
  6. 進化するカフェ業態・そしてなぜかコーヒー大人気
  7. コンビニの“外食浸食”鮮明に
  8. クラフトビールの拡散さらに
  9. 日本酒とビオワインの浸透進む
  10. 労務問題がクローズアップ

1. 空前の肉ブーム~細分化して拡大する肉業態

「いきなり!ステーキ」
「いきなり!ステーキ」外観

 ここ数年の肉人気の盛り上がりはすさまじい。ステーキでいえば、ペッパーフードサービスが展開する立ち食いステーキ業態の「いきなり!ステーキ」が東京都心部で大ブレイク。5.5円/g~(注文は300g~)の量り売りスタイル。リーズナブルな価格で、食べたい肉を食べたいだけ食べられることで瞬く間に人気となった。

 昨年12月、銀座に1号店を出し、翌1月に同じく銀座に2号店を出店。それこそ「いきなり」大爆発となった。年内10店舗出店を30店舗に上方修正し、12月25日には29店舗目となる蒲田店を、29日には30店舗目となる虎ノ門店をそれぞれオープンするなど、破竹の勢いで出店を進めている。

 20坪程度の大きさが基本フォーマットで、物件については繁華街立地を優先しているので、それなりの賃料であっても好立地を物色。賃料に加えて、ステーキの原価率も55%程度と高いため、損益分岐点は月商1200~1300万円が目安だ。

 この業態も「俺の」シリーズ同様の“高回転型”の業態。高回転型の店舗は粗利も低く、客足が衰えると回らなくなる。「出店ありき」で出店を急ぐことによって生じる“物件の甘さ”が命取りになる業態でもある。来年以降、その辺りがどう響いてくるかが注目されるだろう。

 ステーキ系は業態も多様化してきた。東京・秋葉原と笹塚にステーキハウスを展開する「ヒーローズ」はポンドステーキ(1~3ポンド ※)を売りにする。ポンドステーキに「Lボーンステーキ」や「Tボーンステーキ」を期間限定で加え、差別化を図っている。行列のできる同店は15坪で1400万円超を売るお化けステーキハウスだ。

 大衆酒場「筑前屋」や大衆牛串の「正田屋」などを手掛けた飲食プロデューサーの山本浩喜氏もステーキ店を開発した。その名も「ステーキの帝王」。調理時間が早いことからフードコートへの出店を進める一方で、夫婦2人でできる脱サラモデルとして構築し、早期にFC100店舗体制を目指している。ステーキは鉄板に肉が半分浸かるくらい牛脂を入れ、揚げ焼き状態にするため、焼き上がりも早く、表面はパリッと中はジューシーに仕上がる。北米産のチャックアイロール(肩ロース)を使用した「びっくり1ポンドステーキ 450g」を1680円(税別)で提供している。

 外国勢でもWDIの「ウルフギャング・ステーキハウス」は六本木に続いて丸の内にも進出。ワンダーテーブルのシュラスコ料理「バルバッコア」やローストビーフの「ローリーズ」とも、予約の取れない人気店となっている。

 この肉人気は、赤身、熟成肉、ロースビーフ、スペアリブなどと細分化。たとえば、東京・吉祥寺の赤身焼肉「肉山」は3カ月先まで予約が一杯、10坪・18席の小さな店で坪売り70万円をゆうに超える人気店も登場している。さらに、鶏、豚、牛、馬、羊、ジビエと非常に多岐にわたる肉が支持され始めている点も見逃せない。未年の2015年は、ジンギスカン人気の再燃も予想される。

※1ポンドは453.6g。

2. 餃子酒場ブームの兆し

「肉汁餃子製作所 ダンダダン酒場」
「肉汁餃子製作所 ダンダダン酒場」外観

 餃子酒場も盛り上がりを見せた。中でも東京のローカルで繁盛店を連発しているのが、ナッティ・スワンキー(NATTY SWANKY/東京都調布市、井石裕二社長)の「肉汁餃子製作所 ダンダダン酒場」(以下「ダンダダン酒場」)だ。オープンと同時に垂直ロケットスタートを見せる「ダンダダン酒場」に触発され、同様の業態を志向する動きが、首都圏はもちろん、大阪をはじめ、地方へも拡散し始めている。餃子は、皮とあん、大きさなど、ラーメンに近いほど嗜好が細分化しているにもかかわらず、ラーメンのような専門業態が少ないのが現実だ。そこにマーケットチャンスがある。

餃子
餃子の専門業態はまだラーメンほど多くない

 東京・池袋の繁盛店「オリエンタル ビストロ アガリコ」を運営するビッグ・ベリー(東京都豊島区、大林芳彰社長)は、東京・北千住に皮から手打ちの「アガリコ餃子楼」を5月にオープン。点心やオリエンタルアレンジの中華つまみをそろえるカウンターオンリーのバルスタイルの店だ。

 東京ではほかにも餃子酒場の典型的なスタイルで展開を進める「餃子の福包」が着実に店舗を拡大中だ。

 一方、大阪では店舗設計のカームデザイン(大阪市西区、金澤拓也社長)が既存業態「チャオズキッチン」を進化させた「点心・旨汁餃子・葡萄酒 杏厨(アンズ)」を新町にオープンした。全商品380円で、売りは「名物旨汁餃子」。また、MATSU Corporation(大阪府大阪市天王寺区、松山勝社長)が「餃子工房ドドンパ酒場」をミナミにオープンして話題を集めた。

 居酒屋やバル発のこうした動きに、本家本元の中華業態も反応し始めたのが今年の特徴でもあった。餃子とビール、そして大衆的な中華メニューをひと通りそろえ、気軽な“飲み”需要にも広く応える中華業態の流れは、まさに居酒屋アプローチの“餃子酒場”とはまたひと味違う。食材価格の高騰や安価なバイキング業態の台頭といった厳しい経営環境が続く中華業界において、餃子を核とした「中華酒場」がどこまで増えていくのかは今後の注目点でもある。

「食べログ横浜駅周辺×餃子ランキングNo.1」の店として人気を集めているファルコン レストラン イノベーション(横浜市西区、渋川隼人社長)のチャイニーズバル「DRAGON酒家」や、際コーポレーション(東京都目黒区、中島武会長兼社長)が展開を開始した餃子とビールがメインの新業態「タイガー餃子会舘」などがそうした動きだ。

「タイガー餃子会舘」
「タイガー餃子会舘」外観

「タイガー餃子会舘」は、同社がこれまで各地の商業施設を中心に展開してきた「紅虎餃子房」や中国家庭料理の食堂「万豚記」(ワンツーチー)と違い、餃子居酒屋、あるいは餃子バルという位置付けで開発。出店は30坪程度から100坪クラスの大箱まで視野にあり、既存の不採算店からの受け皿業態としても展開を進めている。そのため、出店スピードが速い。

「大阪王将」のイートアンド(東京・神谷町、文野直樹社長)は、「もっとアルコール需要や中華酒場、餃子酒場的な業態を作っていくのが必須」(岡部圭助マーケティング室広報マーケティングGマネジャー)との考えから開発を加速し、看板商品の餃子を核に、商品の品ぞろえや見せ方はもちろん、店舗設計、デザイン、オペレーションといった多面的な取り組みを進めている。「食堂+酒場」の機能を持った、都心部にもフィットする業態として「餃子酒場」モデルの店舗を東京都内中心に拡大中で、関西をはじめとした郊外型の「大阪王将」に比べてアルコール比率が高く、効率を意識した店作りが特徴だ。

 大衆酒場「筑前屋」や大衆牛串の「正田屋」などを手掛けた飲食プロデューサーの山本浩喜氏も「餃子酒場」を開発。ベトナムで手掛けた「餃子の帝王」のコンセプトを日本向けにアレンジし、サイドメニューが豊富な「アラカルト餃子酒場」としてオープンしたのが「餃子の帝王 行徳店」だ。上野と長野にも出店し、FC化を進めている。この業態も、餃子を核として、中華メニューがつまみ的なポーションで提供される、中華アプローチの餃子酒場だ。居酒屋・中華双方のアプローチの流れで餃子酒場は拡散し始めている。

3. カキ人気爆裂

「かき小屋」
ジャックポットプランニングの「かき小屋」

 カキも人気が急上昇中の食材の一つで、オイスターバー業態やカキ小屋、ご当地カキ酒場などさまざまな業態でカキの人気が高まっている。

 東京都内で「かき小屋」を展開するのはジャックポットプランニング(東京都世田谷区、中川洋社長)だ。かき小屋やオイスターバー関連で20店舗を運営する。「雨天でも決行できる都心のBBQ」を売りにしており、その利便性やライブ感がウケているようだ。人気の理由は飲み物持ち込みが自由(持込料600円/人)という仕組みにもあり、余ったドリンクを引き取ってもくれる。お客は“店で払う料理代金と買って持ち込んだドリンクの代金は別”、つまり、持ち込んだドリンクの代金は忘れているという点が割安感につながっていると見られる。土日祝は焼き牡蠣食べ放題も提供しており(12~16時限定/要予約)、ファミリーを狙う。オイスターバーよりもリーズナブルな価格という点も、利用動機を拡げている。2015年1月にはFC説明会を開催し、本格的に同業態のFC展開に踏み出す意向だ。

カキ
さまざまな業態でカキの人気が高まっている

 ファンファンクション(東京都中央区、合掌智宏社長)の「カキ酒場 北海道厚岸」は、日本橋本店はもちろん、コレド室町に出店した2号店はマスコミ効果もあって連日行列が絶えない。とくにランチタイムは行列のできる人気の店として繁盛店の仲間入りをしている。

 店舗プランニングのスパイスワークス(東京都港区、下遠野亘社長)も、10月にオープンした東京・飯田橋の商業施設「飯田橋サクラテラス」に「牡蠣ビストロ貝殻荘」で出店。商業施設初デビューを飾った。この業態は同社の「殻荘シリーズ」の集大成の店だ。カキをメインに置き、「貝殻荘」と「エビ殻荘」のAランク商品を集め、さらにブラッシュアップした。同社は3年弱の年月をかけ、産地と共に美味しいカキを常時提供するための処理技術を開発。グループ内にカキ業態が増えたことから、年間20t規模と、取引量が急増している。

 また、カキ産地勢の東京進出もカキ人気を力強く浸透させている。宮城県発では、飛梅(仙台市青葉区、松野勝生社長)が仙台で展開する「かき小屋」をそのまま東京・神田に開店してサラリーマンの支持を受けたり、スタイルスグループ(仙台市青葉区、佐々木浩史社長)が東京・人形町の「三陸天海のろばた」で宮城直送のカキを売りにして人気を博したりしている。

4. ちょい呑み需要拡大

「吉呑み」
「吉呑み」外観

 吉野家が主に2階建て店舗の不採算店の2階部分を使って始めた「吉呑み」(が大ヒット。フードは「牛すじ煮込み」(350円)、「牛皿」(並250円)といった牛肉を使用したものだけでなく、「まぐろ刺身」(560円)、「メンチカツ」(310円)、「子持ちししゃも」(350円)など20アイテム程度をそろえる。ドリンクは、「生ビール アサヒスーパードライ」(300円)、「チューハイ」(300円)、「角ハイボール」(300円)、「梅酒」(350円)、「ホッピーセット」(350円)など。

 2フロア構成の「吉野家」は約1200店舗のうち50~60店舗で、この中で「吉呑み」の条件を満たすことができるのは30店舗程度。9月25日には11店目を出店し、今後は今期中(~2015年2月)さらに19店舗を出店して30店舗まで規模を広げる。また、「吉呑み」に対する利用客のニーズが強いことから新たな実験として、「ちょっと一杯飲みたい」といったニーズのある商圏で、1階部分だけの店舗でも「吉呑み」を試験的に導入する意向だ。

ファミリーレストランの“ちょい呑み”メニュー
「ジョナサン」の“ちょい呑み”対応メニュー

 ファミレスもこの分野には関心が高い。圧倒的なコストパフォーマンスで先頭を走るサイゼリアに追いつけとばかりに、すかいらーくグループもこの“ちょい呑み”需要に着目。酒およびつまみメニューの強化に動いている。

 すかいらーくでは主力4業態で、新たに差し込みメニューを設けて“ちょい呑み”需要の開拓に当たってきた。差し込みメニューでは、つまみとなるメニューを拡充し、商品の見せ方を工夫するほか、2杯目の料金を安くするといった販促も盛り込んでいる(生中ジョッキ499円→2杯目以降100円引き)。また、ドリンクバーと酒類の組合せの提案も秀逸だ。こうした施策によって、利用客の中にも「ちょっと一杯飲みたい」という利用動機に対応可能な店という認知が広がってきた。

「夢庵」ではボトルキープを導入し、さらに「2時間飲み放題プラン」(1500円)もあり、大手居酒屋チェーンと変わらない内容。「ガスト」では今春から全体の約3分の1に当たる店舗で“ちょい呑み”の需要開拓に向けた取り組みを強化した結果、「ガスト」全店舗のアルコールメニューの売上比率が前年比1ポイント増の4%に高まるといった効果が出た。

 すかいらーくだけでなく、大手外食企業で“ちょい呑み”をテーマとした提案が目立ってきた。これまでは食事や喫茶といったニーズの取り込みを進めてきた企業がアルコール需要の開拓に目を向けている。スターバックスも、一部店舗でアルコール販売の実験を開始している。“ちょい呑み”の取り組みを推進しているすかいらーく、吉野家、ジェイアール東日本フードビジネスといった企業は各社とも「強い手応えを得ている」と口をそろえており、今後も集客力向上に向けた要素として“ちょい呑み”需要に期待を込める。

5. 炉端人気・再燃

炉端人気
博多発の炉端人気

 福岡・博多では今、炉端業態と、うどん居酒屋に脚光が集まっている。その博多エリアを視察する東京や大阪の飲食店経営者が多いことも相まって、炉端業態が東京をはじめ、各地で増殖中だ。かつて、全国を一世風靡した形の炉端とは異なり、居酒屋の一つの“エッジ”として炉端を取り入れる動きが広がっている。それはたとえば、“炉端&原始焼き”“炉端&おばんざい”“炉端&まぐろ料理”などと、組合せながら特徴を打ち出す流れだ。

 前出、仙台のスタイルスグループが東京・人形町に出した「三陸天海のろばた」では、仙台直送のまぐろの刺身や希少部位を使った煮込み、煮付け、カキなどと炉端を組み合わせたスタイルで人気を博している。

 グローバルダイニング卒業生の大西紀之氏率いるNORRY’S(東京都世田谷区、大西紀之社長)の4店舗目となる和食ダイニング「いなせやHANARE」(東京・三軒茶屋、11月1日オープン)では、「いなせや」の原点に帰って炉端を強化。商品は小ポーションで価格も200~300円に抑え、いろいろなものを少しずつつまめるように配慮し、重くない、カジュアルな炉端が今回のコンセプトだ。

 素材は、魚は沼津をメインに七尾、唐津、大船渡、銚子、明石の漁港から季節に応じて直で仕入れるルートを構築。野菜は福岡県の糸島、岩手県のいわてS-FARM、埼玉県の花里農園などから、肉は宮城県の黒毛和牛、岩手県の短角牛、宮崎県のみやざき地頭鶏(じとっこ)を扱うなどこだわりだ。

炉端&おばんざい
“炉端&おばんざい”など組み合わせが決め手

 そこにおばんざいがリンクしてくる。おばんざいは、単品で300~400円だが、3種盛りなら580円、5種780円、8種980円と、盛りが多くなるにつれてお得になる。お通しがなく、このおばんざいがいわばお通し代わりとなる。全テーブルには①自家製ポン酢②、醤油③、塩④、辛味噌⑤、柚子胡椒⑥、七味を配置し、好みでカスタマイズできる。

 同じくグローバルダイニング出身の原数馬さん率いる「かたむすび」(神奈川・大船、原数馬社長)が10月6日に神奈川県のJR藤沢駅前にオープンした「臥薪 炉(がしん・ろ)」は原始焼きをフックにした炉端業態。フレンチ出身のシェフが作る和食が売りで、日本酒とワインを合わせる嗜好だ。

 楽グループ卒業生の小嶋崇嗣さんが東京・高円寺にオープンした魚がメインの居酒屋「CRAZY×COENZY(クレイズィー×コウエンズィー)まんま じぃま」(7月31日オープン)は、鰹の藁焼きと炉端を組み合わせた。さらに、こだわりの米を使った〈銀シャリ〉〈炊き込みご飯〉も売りだ。炉端&○△といった動きとともに、炉端人気が再燃しつつあるようだ。

6. 進化するカフェ業態・そしてなぜかコーヒー大人気

サードウェーブ
1杯点ての“サードウェーブ”上陸も
カフェ&ダイニング
カフェ&ダイニングの業態も人気が高い

 縮小傾向が続いていた喫茶・カフェ市場がここ数年、再び活況を呈している。日本フードサービス協会と食の安全・安心財団の調査による外食産業市場規模推計を見ると、「喫茶店」市場は2012年からプラスに転換し、2012年、2013年と2年連続の増加。コンビニコーヒーの台頭や家庭用コーヒーマシンの普及、回転寿司におけるコーヒー提供といった話題もあり、喫茶店を含むコーヒー市場全体への関心が高まっている。

 コンビニでも伸び、回転寿司でも「くら寿司」や「はま寿司」などがコーヒーを提供するなど、コーヒーを提供する“場”が増えているにもかかわらず、どこも好調だ。外食の喫茶シーンを見ても、チェーン店の出店立地多様化や、再び注目されるフルサービス業態、若い世代の支持を集めるカフェの台頭など、立地を問わず活発な動きが見られる。

 カフェ&ダイニングの業態も人気が高い。昼間はカフェ。と言っても、本格的なスペシャリティコーヒーが売りで、夜になると、かなりクオリティの高いビストロ料理などを出すスタイルも増えている。もちろん、朝食とランチも対応し、“サードウェーブ”の本場、ポートランドのスタイルやブルックリンのスタイルを取り入れた本格志向のカフェが増殖中だ。これはセルフサービス業態のコーヒーショップあるいは、いわゆる喫茶店とは違った流れの中で拡散している。今のところ、この3つの流れともに活性化しており、コーヒー市場全体を引き上げている格好だ。

7. コンビニの“外食浸食”鮮明に

ワインの品揃えが特徴のコンビニ
ワインの品揃えが特徴のコンビニが登場

 コンビニが出店する新業態店で、店内で販売する酒類をイートインコーナーで飲むことができる店舗の出店が相次いだ。スリーエフが7月18日に「gooz」(グーツ)を、ミニストップは9月29日に「cisca」(シスカ)をそれぞれ、東京都内にオープンし、“ちょい呑み”需要を狙っている。

「グーツ」いちょう並木店(東京・銀座)は、酒類140アイテム、カウンター6席を用意。両店ともオフィス立地にあり、近隣のOLなどがターゲット。ワインの品ぞろえが多く、コンビニとしては高価格帯となる4000円台のワインも扱う。ミニストップの「シスカ」日本橋本町店は酒類200アイテム(うちワイン140アイテム)、4人掛けテーブルとカウンター17席まである。プラカップやプラ皿の提供もあり、飲食店にぐっと近づく。「シスカ」の出店計画は年内5店舗だ。

「ファミリーマート+東池袋食堂」
コンビニと食堂業態の一体型店舗「ファミリーマート+東池袋食堂」

 一方、「セブン-イレブン」はドーナツの販売を本格化した。全国約1万7000店に温度管理ができる専用のケースを設置し、1個100円程度で販売する。2014年度中に約6億杯に達するセルフ式コーヒーとの相性がよいと判断した。すでに11月から大阪や京都などを中心に「セブンカフェドーナツ」の名称で「もちもちストロベリーリングドーナツ」など6種類を試験販売している。年間約6億個=600億円の販売を目指しているが、これがどの程度すごい数字なのかというと、「ミスタードーナツ」の2014年3月期の国内売上1030億円の6割弱に匹敵するのだ。この例から考えると、コンビニが本腰を入れて“ちょい呑み”に参入すれば、中途半端な居酒屋業態はかなりの打撃を受けることが予想される。

 もう一つの流れとして、コンビニと外食店のコラボの動きも見逃せない。フジオフードシステム(大阪市北区、藤尾政弘社長)の「まいどおおきに食堂」と「ファミリーマート」のコラボがそれで、7月23日、東京・東池袋にコンビニと食堂業態の一体型店舗「ファミリーマート+東池袋食堂」をオープンした。両社は他地区にも同タイプの店を出店して収益構造のモデルを構築し、関東地区を中心に3年間で200店舗の展開する計画だ。

8. クラフトビールの拡散さらに

「クラフトビアマーケット」
ステディワークス「クラフトビアマーケット」

 2013年に続き、クラフトビール人気は拡散中だ。1アイテムとして数タップ導入する動きもちろんのこと、専門店を出店する動きも、爆発的にとはいかないまでも拡大している。

 ステディワークス(東京都千代田区、田中徹氏社長)が運営する「クラフトビアマーケット」は、30種類の樽生クラフトビールを480円均一で提供することで、これまでクラフトビールにあまりなじみのなかった層を取り込んでクラフトビール人気を牽引してきた。同社では、虎ノ門、神保町、淡路町、三越前と、出店するごとにビールに合わせる料理を変えて、クラフトビールの楽しみや可能性を広げてきたが、11月29日東京・高円寺の高円寺純情商店街にオープンした5店舗目では、「炭火焼×フレンチ」をコンセプトに、クラフトビールに合う、串焼き・肉料理をフレンチ出身のシェフが仕上げている。専門店でありながら、利用しやすい価格設定と料理クオリティの高さが特徴の店だ。

「クラフトマン」
プロダクトオブタイムグループの「クラフトマン」

 クラフトビールの専門店に関しては、まだまだその認知度の低さから地方への拡散力は弱いとは言え、地方でも少しずつ浸透は始まっている。東京・五反田でクラフトビールの専門店を展開するプロダクトオブタイムグループ(東京都品川区、千倫義社長)が12月5日、仙台西口に“イート東北”をテーマにしたイタリアンと、東北最多となる31タップのクラフトビールを売りとする「クラフトマン」をオープンした。ほぼ東北の食材を使用したイタリアンで、クラフトビールを楽しんでもらうというコンセプトだ。

 爆発的ではないが、クラフトビールは着実に裾野を広げている。そういう意味では一過性のブーム的な動きではなさそうだ。来年はキリンに続いて、アサヒビールもクラフトビールの発売に踏み切る。大手ビールメーカーもその動きを注視するようになってきた。市場の拡大は数字でも明らかになっている。

 東京商工リサーチが行ったhttp://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20141027_01.html「第5回地ビールメーカー動向調査」によると、2014年1月~8月の全国主要クラフトビール(地ビール)メーカーの累計出荷量は前年同期比7.0%増。この4年間の同期の累計出荷量は毎年前年を上回り続けている。2014年同期の増加率は、前年同期の伸び率(同14.6%増)こそ下回ったが、着実に出荷量を伸ばした。クラフトビールメーカーは、飲食店・小売店の開拓やビアフェス等のイベント出店で商品知名度を高め、輸出やネット通販にも取り組んでいる。

 国内ビール大手5社の2014年1月~9月累計のビール系飲料(ビール・発泡酒・新ジャンル)の出荷量は前年同期比1.6%減と、2005年以来、10年連続で過去最低を更新するなど、苦戦するビール大手5社を尻目に、生産能力を超えた受注が舞い込んでいるクラフトビールメーカーもあり、クラフトビールメーカーの8割以上がブームを実感しているという。

 この流れは来年以降も、続きそうだ。

9. 日本酒とビオワインの浸透進む

「澪」(左)と「一ノ蔵発泡清酒 すず音」
宝酒造「澪」(左)が「一ノ蔵発泡清酒 すず音」を追撃

 革新的な若手作り手が醸す地酒を中心に日本酒が全体的に見直され、取り扱い店も急速に増えた。ワイン人気の揺り戻しと、世界遺産に絡む和食業態回帰などが相まった格好だが、日本酒の中でも発泡性日本酒の人気が急上昇した。この分野は長らく宮城の「一ノ蔵発泡清酒 すず音」の独壇場だったが、2011年に業務用市場限定で登場した宝酒造「澪」が一定の地歩を固めたうえで2013年9月に全チャネル販売となり急拡大。他社の商品も増え、消費者に発泡性日本酒という分野の認知が広がりつつある。

 アルコール度数が低いこともあり、発泡性日本酒は日本酒を普段あまり飲まない層を中心に支持されており、飲食店の取り扱いも積極的なため、一気に浸透が進んでいる格好だ。発泡性日本酒は洋業態にも対応できるため、通常の日本酒よりも間口が広いのも特徴と言える。日本酒全体から見ると、ムーヴメントとしてはまだ弱いが、ワンカップをお猪口でシェアするなど、何らかの容器で飲み切りを前提とする業態がブレイクすると、ワイン同様に爆発的に伸びる可能性もあるが、現状のグラス売りだと、急速な浸透は厳しいかもしれない。

 ドリンクでは、日本酒以外ではイタリアやフランスを中心とするビオワインの拡散が目立った1年だった。その品質に関しては醸造家の間でも賛否両論あるが、ビオワイン全体の品質向上もあるのか、専門的に取り扱う飲食店が増加した。しかし、飲食店レベルだと、まだまだその品質というよりも、“売りやすい響き”という点で品ぞろえをしている店が多いようだ。“売りやすさ”という点で見ると、今後も拡大していくと思われる。

10. 労務問題がクローズアップ

教育・研修を強化する動きが活発化
外食企業で教育・研修を強化する動きが活発化している

 深夜の「ワンオペ」がクローズアップされたゼンショーホールディングスは2011年10月に防犯上の問題で深夜の1人体制勤務改善を発表していたが、その後も改善は十分ではなかった。2012年度、2013年度には、労働基準監督局から深夜の1人営業体制は休憩時間を確保できない勤務体制が続くため合計23件の是正を勧告されていた。

 これを受け、ゼンショーホールディングスとその子会社であるゼンショーは7月31日、外部有識者で作る「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会(久保利英明委員長)から受けた調査報告書に応じて労働環境の改善に取り組んでいる。第三者委員会の報告書では「過重労働が常態化している」(久保利委員長)など、数多くの労務上の問題点を指摘し、これを受けたゼンショーホールディングスの小川賢太郎社長は「可及的速やかに是正すべきは是正する」として改善策に取り組み始めた。労務改善に向けて「すき家」の運営企業分社化、労務管理体制やガバナンス体制の強化といった施策を発表した。

 これはゼンショーに限った問題ではなく、大庄やワタミなど多くの外食企業で、こうした労務問題が浮上。営業時間の問題から店舗閉鎖に追い込まれる事例も散見された。もはや労務問題は避けて通ることができず、労務問題を含めた利益構造そのものの適性化が求められているわけだ。適正な労働環境下でも利益の出る経営――“ブラック企業”の烙印を挽回するために、健全な企業体質の確立が求められていると言えそうだ。

 その一方で、居酒屋などを展開する外食企業が教育・研修を強化する動きが活発化。教育・研修を強化することで、社員やアルバイトなどの定着率向上を目指す。これは労務環境を整える一環の動きで、成長が実感できる仕組みを設けて、長く働き続けられる意欲を高める狙いがある。業界全体に蔓延する「ブラック」なイメージが採用にも影響。人員の確保が難しく、定着率が低いといった課題が根底に横たわっているからだ。教育・研修の仕組みも含めた労務環境の改善は来年以降も大きな課題となりそうだ。

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日本外食新聞編集長 かわばた・たかし 酒販分野の専門紙、農業コンサルティング会社を経て、外食産業新聞社入社。2011年より現職。