沖縄もずくはなぜ広まった?

沖縄もずく
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個人的な記憶だが、昔は「ワカメ酢」はあっても「モズク酢」はなかったような気がする。まあ、どちらにしても子どもはああいった料理はあんまり好きじゃない。これも個人的な感想か。今はある意味“健康のため”に食べている。だが、お酢はやはり苦手だ。聞くところによると、男は酸っぱいものが嫌いな傾向が強いという。

沖縄では薬膳として珍重されてきた

 それはともかく、モズク酢が一般的になったのはここ10年ではないかと推測している。

 モズクは褐藻類ナガマツモ類の海藻で、日本全国に6種類存在する。モズクという名は、主にホンダワラ類など海面を浮遊する海藻に付着して成長することから、藻に付く=“藻付く”から名づけられたものらしい。以前書いた「かき」「のり」「はまぐり」同様、縄文時代の狩猟採集民としての日本人の日常的“食べ物”の一つと言えるだろう。

 沖縄以外ではもっぱらイトモズクが食されていたが、近年、日本全国で急にマーケットを広げたのが、沖縄地域で食べられてきた「オキナワモズク」だ。食べ方のバリエーションもイトモズクに比べ格段に豊富で、モズクの味噌汁、天ぷら、雑炊、サラダ、がんもどきなどがある。

 オキナワモズクは別名フトモズクと言い、イトモズクに比べて太さ長さともに大振りで、太さは1.5~3.5mmほど、長さは20~30cmほどもある。沖縄の方言では「スヌイ」と呼ぶ。というのも、沖縄ではモズクを「海苔」と呼び、その琉球語読みが「ヌイ」で、三杯酢で食べるのがポピュラーだから「酢海苔」(スヌイ)。説明がややこしい。

 昔、沖縄の男性に言われたことがある。「本土でモズクの酢の物を頼むと、なんであんなにちょっぴりなのかね。沖縄のスヌイはあの3倍ぐらいが普通だよ」と。沖縄は生産地でないにも関わらず、昆布の消費量が非常に多い。海藻好きの県民なのだ。男性によると、オキナワモズクは古くから“薬膳食”としても珍重されてきたという。

 オキナワモズクは昔から沖縄県の西表島から鹿児島県の奄美大島に至る海域に自生していた。それを貴重な食料として人々は採集してきた。が、海の汚染などにより、1960年代ごろから自生する海域が減少し始めた。この事態を憂慮した沖縄県当局は、1978年より網による養殖を開始。現在の代表的な養殖海域は沖縄本島中部の勝連町や八重山諸島だ。

がん細胞への作用が注目されたフコイダン

 オキナワモズクの名が一挙に全国に広がったきっかけとして、もう1つのキーワードが挙げられる。オキナワモズクには「フコイダン」という栄養成分が非常に多く含まれていることから、健康にたいへんにいい食べ物だというイメージが消費者に伝わって評判となった。

 ではまずフコイダンについて説明しよう。フコイダンはモズク、コンブ、ワカメなどの褐藻類にのみ含まれている成分。30年ほど前からその抗がん作用や血液凝固防止作用がさまざまな専門家によって研究されてきた。とくに注目される契機になったのが、1996年の第55回日本癌学会で、コンブ由来のフコイダンが、がん細胞を自滅させる機能を有するという研究報告がされたこと。そのメカニズムがユニークだ。

 すべての生物の細胞には、細胞が異常な環境に置かれたり、老化して役割を終えた時に自滅するように指令する遺伝子が組み込まれている。その指令を受けて細胞が自殺することを「アポトーシス」といい、アポトーシスによって体内で古い細胞が死に、新しい細胞が生まれるという代謝が繰り返され、体の健康を保っている。

 しかし、がん細胞はこのアポトーシスの自殺指令が全く効かない異常細胞だ。放置しておくとどんどん分裂と増殖を繰り返す。そのようながん細胞に対して、自殺するように誘導する働きを持つのがフコイダンであるというわけなのだ。

各種の海藻類の機能性研究のきっかけに

 フコイダンが含有されているのは、モズク、コンブ、ワカメなどのヌルヌルした部分で、これは多糖類という成分の一種だ。さまざまな研究の結果、フコイダンには前述のアポトーシス誘導作用のほかにもいろいろな効果が期待できると報告されている――免疫力向上、血液凝固防止、コレステロール減少、血圧降下、血糖値降下、便秘解消、胃潰瘍予防、アレルギー予防などだ。

 フコイダンの機能性研究が進むと同時に、フコイダンを最も多く含有している褐藻類についての研究も行われた。その結果、オキナワモズクに含まれるフコイダンの量が、格段に多いことがわかった。ある研究によれば、コンブに比べて約5倍ものフコイダンを含んでいるという結果が出たという。

 ちなみに、イトモズクにおけるフコイダンの含有量もオキナワモズクに次いで多く、それに次ぐのがワカメのメカブだという。

旭利彦
About 旭利彦 15 Articles
ジャーナリスト あさひ・としひこ 旅行会社勤務の後、スーパーマーケット専門紙「流通ジャーナル」、海外旅行専門誌「トラベルタイムス」(オータパブリケイションズ)、同「トラベルマネジメント」(トラベルコンサルタンツ)での社員編集者勤務を経て、1996年よりフリーランス。「夕刊フジ」「サンケイスポーツ」などで健康および医療・医学分野の契約ライターを担当。その後、「週刊新潮」で連載コラム「よろず医者いらず」、夕刊フジで一般食品の健康的効能を紹介する「旭利彦の食養生訓」、飲食業界専門誌「カフェ&レストラン」で「カフェのヘルシー研究」、経済雑誌「経済界」で50代以上の男性に向けた健康コラム「経営者のための“自力”健康法」を連載。現在は食品専門誌「食品工業」(光琳)、スーパーマーケット専門誌「週刊ストアジャパン」、医療専門誌「月刊/保険診療」(医学通信社)で取材・執筆活動を行っている。主な著書に「よろず医者いらず」(新潮社)、「カフェの『健康食材』事典」(旭屋出版)など。