わさび(山葵)に含まれるカラシ油の力

今回のわさびは、前回のしょうが同様、日本人にはなじみ深い香辛料である。しかし、しょうがが中国大陸から渡ってきたものであるのに対し、わさびは生粋の日本原産植物だ。したがって、学名もWasabia japonica(ワサビア・ジャポニカ)。漢字で「山葵」と書く。別名「水わさび」「山薑」(さんきょう)。

江戸時代に栽培法が確立して普及

ワサビ(静岡産)
ワサビ(静岡産)

 わさびが歴史上初めて文献に記されたのが、奈良県明日香村の飛鳥京跡から出土した木簡で、685年に書かれた。さらに奈良時代には薬用に用いられていたという。そして、室町時代には現代と同様に、薬味として利用されるようになったらしい。

 それまでは自生のわさびが採取されるのみで供給量がきわめて少なく、したがって貴重品扱いだったが、江戸時代に入ると現在の静岡市葵区有東木で栽培が始まったという。栽培方法が広まり栽培地が拡大するにつれ、当然、一般大衆にも普及していく。当初は刺身やそばの薬味として用いられてきたが、握りずしが発明され、その薬味に最適となってから一挙にポピュラーとなったと推測される。

アリルカラシ油が細菌の増殖を抑制する

 わさびの利用価値も前回のしょうが同様、衛生インフラが整っていない時代、刺身やすしなど生魚の食中毒予防にあった。加えて、魚の生臭さを消し、食欲を増進させる効果に優れていた。

 そうした効果があるのが、わさびに含まれているさまざまなカラシ油だ。たとえば食中毒を防ぐのに効果が期待できるのがアリルカラシ油。わさび独特の鼻にツーンとくる辛味の正体がこれだ。とは言え、もともとわさびの中に存在しているものではなく、すりおろすことで出来る成分だ。ワサビをすりおろすと細胞が壊されて、中にあるシニグリンという成分が酵素分解されてアリルカラシ油が生成される。

 アリルカラシ油は、食中毒の原因である腸炎ビブリオ、サルモネラ、O157などの細菌の増殖を抑制する効果に優れているという。これにより、使い方を工夫すれば食中毒予防の効果が期待できるというわけだ。加えて、アリルカラシ油は魚の生臭さの成分を分解する働きもあるらしい。

 また、食欲増進と魚の生臭さを消す効果があるのは、わさび特有の爽やかな香りの成分である6-メチルチオヘキシルカラシ油で、このほか、わさびスルフィニルというカラシ油は、活性酸素や発がん、がん転移を抑制する作用が期待できる。さらには、血小板の凝集を抑制し血液の凝固を防ぎ、もって血栓を予防するカラシ油も含んでいる。

 ところで、説明が遅くなったが、これまで説明したわさびは“本わさび”に関するもの。いわゆる粉わさびに関しては必ずしもこの通りとは言えない。と言うのも、多くの粉わさびは、西洋わさび(ホースラディッシュ)を原料とし、乾燥後、粉末にしてカラシを混ぜて緑色に着色したものだと言われているからだ。

 とは言え、西洋わさびにもアリルカラシ油が含まれていることから、食中毒予防や魚の生臭さ成分を分解する効果は期待できるだろう。

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ジャーナリスト あさひ・としひこ 旅行会社勤務の後、スーパーマーケット専門紙「流通ジャーナル」、海外旅行専門誌「トラベルタイムス」(オータパブリケイションズ)、同「トラベルマネジメント」(トラベルコンサルタンツ)での社員編集者勤務を経て、1996年よりフリーランス。「夕刊フジ」「サンケイスポーツ」などで健康および医療・医学分野の契約ライターを担当。その後、「週刊新潮」で連載コラム「よろず医者いらず」、夕刊フジで一般食品の健康的効能を紹介する「旭利彦の食養生訓」、飲食業界専門誌「カフェ&レストラン」で「カフェのヘルシー研究」、経済雑誌「経済界」で50代以上の男性に向けた健康コラム「経営者のための“自力”健康法」を連載。現在は食品専門誌「食品工業」(光琳)、スーパーマーケット専門誌「週刊ストアジャパン」、医療専門誌「月刊/保険診療」(医学通信社)で取材・執筆活動を行っている。主な著書に「よろず医者いらず」(新潮社)、「カフェの『健康食材』事典」(旭屋出版)など。