小規模店への野菜供給の形は?

料理界に顔の広い仲間が1月〜2月の2カ月間、都心のビルの中で弁当店をイベント出店していて、それの運営を手伝いました。30年ぶりに厨房に立ち、いろいろ学びがあったので思いつくままにお伝えしようと思います。

 まず、なぜ私がその手伝いをすることになったかですが、それは1月〜2月という時期に関係があります。イベント出店を企画した当人は、当初本人と部下と2人で運営できると踏んでいたのですが、この弁当というのがアジア料理風の弁当で、近隣で働く若い女性に大ウケで大ヒット。作っても作っても間に合わない、人が足りないということになったのです。

 ならば、アルバイトか派遣でと考えたのですが、人材会社に問い合わせたところ、「1月〜2月のバレンタインデー前は、臨時雇いは全く対応できない」とにべもなく断られたということです。その話になるほどと思いながら、こちらは1月で本年度の大学の仕事も終わっていて時間が自由にでき、最近の厨房の実際にも興味があったので、断られるのを承知で申し出たところ、「採用!」となったわけです。

小さな店で本格的な料理提供を実現する仕組み

期間限定で出店したアジア料理の弁当店。
期間限定で出店したアジア料理の弁当店。

 店はフードコートの一角で、長テーブル2本ほどの幅の販売スペースのバックに2坪少々の小さな厨房があるというもの。ガスはなく、火力はすべて電気です。主力はイタリア製のスチームコンベクションオーブン、それに大型のオーブンレンジ1台、炊飯器が2台、それに家庭用の電磁調理器とホットプレートが各1台。一緒に仕事をしたプロの料理人(自店が改装中で助っ人に来てくれた人)が「火力が足りない」と悲鳴を上げるほどの布陣でしたが、なにしろスチームコンベクションオーブンがあったために、この期間限定店舗は成り立ったと言えます。

 というのも、店内での調理はほとんど再加熱だけだったからです。なにしろこの企画者は料理界に顔が広い。それで、アジア料理の中でもタイ式、台湾式、中国式など各国料理ごとに専門家に依頼し、プロ中のプロが作ったものを真空パックで店舗に引きます。これをスチームコンベクションオーブンで再加熱し、そのまま細菌が繁殖しない温度でホールドし、白飯の上に盛りつけて提供するという提供形態を採ったからです。

 この方式にはもう一つ大きなメリットがあります。衛生的であるということです。それぞれの料理が作られパッキングされる現場は、営業許可を取った飲食店や食品工場です。したがって元々衛生のレベルが高い商品をさらに再加熱して提供するわけですから、非常に衛生的な商品を提供できるわけです。ただし、この流れのスムーズさと衛生上の安心を一気にくずす作業があります。それは、生鮮の野菜が届くということです。

生鮮野菜が仕事の流れにストップをかける

 一つの例を挙げましょう。いくつかの弁当には青菜炒めを添えます。これは、生鮮のコマツナを店のホットプレートで炒めて作ります。作ってすぐに食べる家庭ではどうということもない話ですが、これが弁当調理の現場となると一苦労です。

 まず、野菜は段ボール箱で届きます。この箱が、ここに来るまでにどこに置かれていたかわからない。したがって、段ボール箱=汚染です。中身をさっさとしかるべき場所にしまって、段ボールはすぐに畳んで調理と関係のない場所に置く必要があります。

 ではコマツナを調理しようとこれを洗って、アルコール消毒したまな板に乗せて包丁を当てた瞬間、「そうだよね」と思いながら力が抜けます。茎の間から土が出てくるわけです。これをまた洗って、手を洗い直し、まな板も消毒しなおして、もう一度調理にかかります。

 コマツナ自体は炒めますから問題はありません。しかし、他の食品や調理器具を汚染させるわけにはいかないので、ここで神経をつかうわけです。

「野菜に土がついているのは当たり前だ」とは、小さい頃から八百屋さんから買って来た野菜を見ていたり、近くの畑で野菜が栽培されているのを見ていた私もそう思います。しかし、そうは言っていられない現場があるということは、生産者もよくわかっていていただきたいと思います。

 これに対して、洗浄、カット、場合によっては加熱して真空包装までされた野菜が業務用でよく扱われるようになってきています。まだまだ外食大手向けのイメージはありますが、実はそういうものは、厨房が狭く設備も十分でない中小零細店こそ必要としているものです。

「六次産業化」などと言いますが、これは必ずしも完全な料理品になっている必要はありません。清潔で使いやすい状態になっていれば助かるという飲食店はたくさんあります。

※このコラムは日本食農連携機構のメールマガジンで公開したものを改題し、一部修正したものです。

About 齋藤訓之 392 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →