インド人シェフ作のウニ料理

[89]ごはん映画ベスト10 2014年 洋画編

「マダム・マロリーの魔法のスパイス」より
「マダム・マロリーの魔法のスパイス」より。天才料理人ハッサンがインド料理とフランス料理を融合させたウニ料理

「マダム・マロリーの魔法のスパイス」より
「マダム・マロリーの魔法のスパイス」より。天才料理人ハッサンがインド料理とフランス料理を融合させたウニ料理

昨年に続き今年も年末企画として、年間1000本以上の鑑賞本数を誇る私rightwideが、今年公開された映画の中から印象的な食べ物や飲み物が出てきた作品を厳選し、ベスト10として発表する。まずは洋画編から。

 昨今の傾向として、食べ物を題材とした作品の増加が挙げられる。これは映画の観客にとっても食は最も身近な関心事であり、それをテーマとした作品であれば安定した動員を見込めることを見越した製作・配給・興行側の思惑があってのことと推察される。おかげで選出には苦労させられたが、通常の連載ではカバーしきれなかった作品も含めて紹介していこう。

【選定基準】

2014年1月1日~2014年12月31日に公開(公開予定)の洋画で、
・食べ物や飲み物の「おいしそう度」
・食べ物や飲み物の作品内容への関連性
・作品自体の完成度
の3点を加味して選定した。

●2014年度ごはん映画ベスト10〈洋画編〉

順位タイトルおいしそう度作品との関連性作品の完成度合計
1マダム・マロリーの魔法のスパイス★★★★★★★★★★★★★★14.0
2グランド・ブダペスト・ホテル★★★★★★★★★★★★★13.0
2祝宴!シェフ★★★★★★★★★★★★★13.0
4コーヒーをめぐる冒険★★★★★★★★★★★★12.0
4めぐり逢わせのお弁当★★★★★★★★★★★★12.0
6最後の晩餐★★★★★★★★★★★11.0
6郊遊 ピクニック★★★★★★★★★★★11.0
6聖者たちの食卓★★★★★★★★★★★11.0
6チョコレートドーナツ★★★★★★★★★★★11.0
6ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!★★★★★★★★★★★11.0

第6位(同点5作品)

「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」のビール

「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」

 20年前、ロンドン郊外の街ニュー・ヘイヴンで高校の卒業記念に一晩で12軒のパブをハシゴ酒する「ゴールデン・マイル」に挑戦しながら成し遂げられなかった5人の仲間たちが再会し、リベンジに挑む過程で街に巣食うエイリアンと戦うというコメディである。かつては店毎に個性のあったパブがチェーン店化で皆同じ内装になっているところが時代を感じさせる。

 前作「宇宙人ポール」(2011)で「E.T.」(1982)のパロディをやったエドガー・ライト&サイモン・ペッグのコンビが、今回は「SF ボディスナッチャー」(1978)のような“悪い”宇宙人を登場させているが、「ワールズ・エンド」(世界の終り)と呼ばれる12軒目の店ですっかり“出来上がった”人類代表の戦いぶりは、まるで「ドランクモンキー 酔拳」(1978)のジャッキー・チェンのようだった。

公式サイト:http://www.nbcuni.co.jp/movie/sp/worldsend/

第6位

「チョコレートドーナツ」のチョコレートドーナツ

 歌手志望でショウダンサーのルディ(アラン・カミング)と弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)という対照的なゲイのカップルが、母親が薬物所持で逮捕されたダウン症の少年マルコ(アイザック・レイヴァ)を引き取って育てるという、1970年代のアメリカで実際にあった話を基にしたヒューマンドラマ。

 チョコレートドーナツは人形や読み聞かせと並ぶマルコの好きなものとして登場する。「ドーナツは体に良くない」と主張するルディに対し「ちょっとぐらいいいじゃないか」とマルコにドーナツを勧めるポールのやり取りは、彼らがしばし家族のような幸せな時間を過ごす最初の一歩となった。

公式サイト:http://bitters.co.jp/choco/

第6位

「聖者たちの食卓」の豆カレー

 インド・パンジャーブ州にあるシク教の総本山「ハリマンディル・サーヒブ」(黄金寺院)では、巡礼者や旅行者のためにロビア豆(パンダ豆、チットラ豆、black eyed pea)やツール豆(ツールダール、イエロースピリッツ、アルハル豆)を使ったカレーなどの料理を毎日10万食無料で提供している。

 本作は、そのボランティアによる仕込みから調理、配膳、後片付けまでの壮大なルーチンワークを記録したドキュメンタリーである。食事は一人より大勢でとった方がおいしいとよく言われるが、宗教・階級・性別・年齢の異なる10万人が分け隔てなく一緒に座って食べる行為そのものに神々しさを感じた。

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/seijya/

第6位

「郊遊 ピクニック」のキャベツ

「愛情萬歳」(1992)や「西瓜」(2005)などの作品で国際的評価の高い台湾のツァイ・ミンリャン監督の劇場用長編映画引退作となる本作は、現代の台北で“人間立て看板”として働く男と幼い兄妹の野良犬のようなどん底の生活を徹底した長回しで捉えた刺激的な作品である。

 とりわけ、娘がなけなしの金で買い、赤い色で顔を描いて人形代わりにしていたキャベツを、男が貪るように齧りながら、己の不甲斐なさに慟哭するロングショットは、大島渚の「青春残酷物語」(1960、本連載第40回参照)のリンゴのシーンに匹敵する名場面である。

公式サイト:http://www.moviola.jp/jiaoyou/

第6位

「最後の晩餐」のトマトとじゃがいもと干し筍のスープ

「最後の晩餐」 「最後の晩餐」

 昨今流行の中国・韓国合作のラブストーリー。北京で3つ星レストランのシェフを目指すリー・シン(エディ・ポン)は、恋人で食器デザイナー志望のチャオチャオ(バイ・バイホー)にプロポーズするが、彼女は食器デザインの勉強で上海に旅立つことを告げ、5年後にお互いが独身なら結婚しようと提案する。

 そして5年後、夢を叶えた2人は北京で再会するが、リー・シンの傍らには婚約者のチョウ・ルイ(ペース・ウー)がいた……。トマトとじゃがいもと干し筍の素材を活かしたシンプルなスープは、高校時代からの2人の思い出が詰まった味であり、2人の離れていた時間を埋める重要な役割を果たすことになる。

公式サイト:http://bansan-movie.com/

第4位(同点2作品)

「めぐり逢わせのお弁当」のお弁当

 本連載第53回で紹介した「スタンリーのお弁当箱」(2011)と同じくインド・ムンバイのお弁当事情を背景にした作品。彼の地では家庭で作ったお弁当を職場に配達する“ダッパーワーラー”と呼ばれる人々がおり、誤配の確立は600万分の1という正確さを誇っているが、その600万分の1の奇跡のお弁当を作った主婦イラ(ニムラト・カウル)と、誤って届けられた初老の男サージャン(イルファーン・カーン)が、お弁当に忍ばせた手紙を通じて交流を深めていく物語である。

 本来お弁当を食べるべき夫の浮気を疑うイラに、定年退職を間近に控えたサージャンは「暗く考えないで。現実はもっと単純だよ」とアドバイスする。心を込めてお弁当を作ってくれたことに対する感謝と残さず食べてくれたことへの感謝のキャッチボールが胸を打つ作品である。

公式サイト:http://lunchbox-movie.jp/intro/

第4位

「コーヒーをめぐる冒険」のコーヒー

「コーヒーをめぐる冒険」

 ドイツの新鋭ヤン・オーレ・ゲルスター監督が、ベルリンを舞台に一人の若者ニコ(トム・シリング)のツイてない1日を描いた作品。スタイリッシュなモノクロームの映像とモダンジャズはジャームッシュの「コーヒー&シガレッツ」(2003、本連載第66回参照)、行く先々でコーヒーを飲み損ねるプロットはブニュエルの「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」(1972、本連載第6回参照)を想起させる。

 コーヒーショップで、普通のコーヒーを頼んでいるのに味だの産地だのを細かく聞かれた末に法外な値段を告げられるニコと店員とのやり取りが楽しい。

公式サイト:http://www.cetera.co.jp/coffee/

第2位(同点2作品)

「祝宴!シェフ」のトマトの卵炒め

「祝宴!シェフ」

 本連載第88回参照。同じ台湾映画でありながら「郊遊 ピクニック」とは対極の短いカット割りとマンガ的表現に彩られたチェン・ユーシュン監督作品。

 伝説の3人の料理人の存在やその後継者である娘と料理ドクターの恋、全国宴席料理大会で披露される豪華な料理の数々など、フード・エンターテイメントとしての要素に満ちた作品で、締めが台湾のおふくろの味ともいえるトマトの卵炒めというのも納得できる。

公式サイト:http://shukuen-chef.com/

第2位

「グランド・ブダペスト・ホテル」のコーティザン・オ・ショコラ

「グランド・ブダペスト・ホテル」

 本連載第83回参照。今最も脂の乗っているウェス・アンダーソン監督が、東欧の架空の国の高地で戦乱の1930年代、衰退の60年代、追想の80年代という3つの時代を生き抜いたホテルとそこに生きた人々をオールスターキャストでミステリアスかつコミカルなタッチで描いた傑作である。

 その中にあって3色のシュー生地の色どりも鮮やかなコーティザン・オ・ショコラは、小道具として重要な役割を果たしている。

公式サイト:http://www.foxmovies.jp/gbh/

第1位

「マダム・マロリーの魔法のスパイス」のウニ料理

「マダム・マロリーの魔法のスパイス」より
「マダム・マロリーの魔法のスパイス」より。天才料理人ハッサンがインド料理とフランス料理を融合させたウニ料理

 本連載第87回参照。冒頭、インド・ムンバイの海鮮市場のシーンで後に天才料理人となる少年時代のハッサン(マニッシュ・ダヤル)が出会ったのがウニである。インドでもウニを食材としていることに驚かされたが、ハッサンの師であった母親がそれを使って作ったスープの味を彼は覚えていて、門出の日に同じウニを使った料理を出す。それがどのシーンなのかは是非映画を見て確認していただきたい。

公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/spice.html

印象に残ったその他の料理たち

 最後に惜しくも選外となったが、「ビフォア・ミッドナイト」のギリシャ料理(本連載第67回)、「バチカンで逢いましょう」のカイザーシュマーレン(本連載第73回)、「とらわれて夏」のピーチパイ(本連載第74回)、「マダム・イン・ニューヨーク」のラドゥ(本連載第78回)、「ぼくを探しに」のハーブティー(本連載第81回)、「世界一美しいボルドーの秘密」のワイン(本連載第85回)のワインも強く印象に残ったことを書き添えておく。

 次回(12月26日)はベスト10「邦画編」である。期待してお待ちいただきたい。

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。