2011年食の10大ニュース[14]

  1. パキスタンの家庭菜園、米兵に襲撃される
  2. 「農地の放射性物質の汚染“合法”は許せない」、鈴木博之氏(福島県大玉村)東電提訴へ
  3. 世界の食料ロス13億t、全農産物生産量の3分の1!
  4. 世界の飢餓人口統計は「でっちあげ」?
  5. エジプト革命、食料価格の高騰は原因にあらず
  6. 農水省、大震災直後「コメ屋査察を強化」
  7. 財政破綻のギリシャ、就農人口急増
  8. デンマーク政府、世界初の「脂肪税」導入開始
  9. ベトナム、TPP参加
  10. 水戸黄門、放映終了

1. パキスタンの家庭菜園、米兵に襲撃される

 男はポプラの樹に囲まれた野菜菜園付きの邸宅で、3人の妻、12人の子供、2頭の牛、100羽の鶏、2匹の犬、そして繁殖力の強いウサギたちと静かに暮していた。近所の人によれば、「よく鶏の鳴き声が聞こえた」という。「おじさんから2羽のウサギをおすそ分けしてもらったことがあります」(12歳の近隣少年)。

 常時栽培していた野菜は、「ジャガイモとカリフラワー」だったと菜園の手入れと家畜の世話のため出入りを許されていた農家シャムレズ・ムハンマドは話す。栽培方法は、主が望んだ“オーガニック”。殺虫剤の散布を避け、四季折々の野菜を楽しんでいた。病気になると、「自然治癒力を高める」と言われる西瓜を好きなだけ頬張った。

 男の日常は、ある日突然終わりを迎えた。米軍に強襲され、妻2人とともに死亡。居合わせた農家のムハンマドはパキスタン軍によって拘束されたが、集団礼拝日の金曜日に釈放された。その後、彼は故郷を無言で後にした。鶏たちは、軍人がめいめい引き取り、離れ離れになった模様だ。襲撃後、キッチンの流しには、調理前の卵が残されたままだった。2頭の牛はと言えば、「軍直営の農場に連れられて行った」(大家さん)。ウサギたちの行方は誰も知らない。

 男の名はウサマ・ビンラディン。以上、AFP通信、ロイターほかが伝えた事柄から再構成したウサマの家庭菜園破壊の概略だ。

 彼はただのアマチュア菜園家ではなかった。9.11以降の動静については言わずもがなだが、それ以前、ウサマはアラブ諸国を代表する農業経営者の一人であった。

 ウサマは数10万ha規模の農地を所有し、コメ、コムギ、ソルガム、雑穀類、豆類、キャッサバ、ヒマワリなどを輪作していた。中でもヒマワリ栽培を得意とし、世界最大の花冠ヒマワリを育成しようと、専用の実証実験農場まで運営していた。妻たちの証言では、「彼は、大きなヒマワリを自宅に持ち帰って見せてくれるときがいちばん幸せそうでした」という。

 搾油用の作物はヒマワリのほか、ゴマ栽培も行い、オイルを輸出するほどまでだった。市内には、自家製小麦を原料にしたベーカリー、ハチミツとミルクを使ったスイーツ・ショップも経営していた。

 ウサマは灌漑用パイプを自己資本で敷設し、農場インフラを整えて行った。ちなみに、トラクタは「チェコスロバキア製だった」(農場スタッフの証言)。土地利用型作物にとどまらず、野菜、果樹栽培に加え、養蜂、養鶏、養牛、ヤギ肥育までカバーしていた。畜産試験場も自前で設立し、品種の選抜を行った。

 農業企業経営は、後にアルカイダの軍事訓練場として知られるようになったアル・ダマジン農場を中核に、基幹作物の輸出、農業資材の輸入業務はターバ・イスティスマール社、野菜、果樹の輸出はアル・ムバーラカ社、ハチミツ専門商社のアル・イフラース社等と多岐にわたっていた。ウサマは当時から、現代日本農政用語で言うところの“六次産業化”の先行事例を実践し、軍事としての農場活用を含めれば、“七次産業化”の域に達していた趣もある。

 農産物の付加価値向上のためのブランド化も決して怠らなかった。農場はスーダンに展開していたが、“スーダン産”ではイメージ的に値段がつかないと察知し、キプロスに子会社を設立。この会社を迂回させ、再輸出をすることで“キプロス産”として(偽)ブランド化を図った。いわゆる産地偽装である。

 優秀な農場スタッフにも不自由しなかった。アフガーニと呼ばれたソ連軍と共に戦ったアラブ人義勇兵の戦勝後の雇用先として、農場に受け入れた。91年から96年のことである。では、「いろいろな商売に手を染めていたが、彼の想像力をいちばん駆り立てていたのは農業であるのは間違いない」(古くからの友人の証言)。

 亡き後、ウサマに直接、農業の経営理念や技術に関する取材はかなわないことだが、これらのことは当時の様子を語る農場スタッフの法廷証言(NYサウス・ディストリクト法廷)から確認できる。

 なお、これらの証言からウサマの農業、バイオテクノロジーへの造詣の深さを知った米国政府は、農業、バイオテロ対策に乗り出すことになる。

2. 「農地の放射性物質の汚染“合法”は許せない」、鈴木博之氏(福島県大玉村)東電提訴へ

 福島第一原子力発電所事故を機に、日本の法律では、放射性物質の環境放出に違法性がないことを知った。去る5月、「原発事故で日本の農地が放射能汚染されている。なぜ取り締まらないのか」と環境省に尋ねると、「違法性はないものと認識しております」。農水省に聞くと「環境省の規制値があれば農地の対策はできますが、なければ動けません」。経産省は「原発事故対策本部に問い合わせください」と逃げる。東電は「法律にある通りの認識でおります」。

 現在も、皆さんの農地にいくら高濃度の放射能“汚染”物質が沈着しても、あなたは刑事上の犯罪被害者ではない。放射性物質は汚染物質ですらない。通常、汚染物質の漏出とは即ち、環境汚染である。環境汚染とは大気汚染であり、海洋汚染であり、土壌汚染であり、水質汚染である。日本にはこうした汚染を取り締まる法律がそれぞれある。「大気汚染防止法」「海洋汚染等防止法」「土壌汚染対策法」「水質汚濁防止法」である。

 そのどれを読んでも、放射性物質は適用除外になっている。そもそも環境法令の根幹である「環境基本法」おいて除外になっている。そこには原子力基本法に「別途定める」と特記されているが、同法ならびに関係法令をひも解いてみても、放射性物質の環境汚染については何ら記されていない。

 取材に応じてくれた農業経営者は、力を振り絞った。国に放射能汚染農地の被災者認定を求めた。「罹災原因は東日本大震災とは書けるが原発事故とは書けない」と言われた。地震の被害も津波の被害もない、放射性物質を彼の田んぼに明らかにまき散らされたのに、である。「人の家にゴミを投げ込んだら、まず謝る。そして片付ける。この国、この会社は人の道にもとってしまった」と憤りを通り越した心境だ。合法行為に対して、どうやって被害を訴えられるか。

 これは“悪魔の証明”より困難かもしれない。悪魔の証明とは「ないものをない」と証明する難しさを表しているが、本件では、明らかに“あるもの”が権力によって“ないことになっている”国家倒錯的な特殊ケースだ。最後は国・東電の“不法行為”を立証するしかない。違法性はなくとも、「故意・過失によって他人の権利・利益などを侵害した者は、この侵害行為(不法行為)によって生じた損害を賠償する責任を負う」と民法709条に規定がある。 やっかいなのは、この過失責任主義だ。原告が被告の故意・過失を立証しなければならない。

 さんざん繰り返された「想定外」である。この言葉についてさんざん論評されたがその本質をついたものはなかった。「想定外」という言い方をする狙いは唯一、行政の「過失責任」を逃れるためだ。被告たる国・東電は原告となる農家に対し、事故当日から何歩もリードしている。

 人の道にもとるとの先の言を発した農業経営者は、福島県大玉村の鈴木博之氏である。2011年12月、東電を来春東京地裁に提訴し、損害賠償訴訟を起こす方針を固めた。「先祖から受け継いだ農地を絶対、子孫に引き継ぐ。私が死んだ後、子孫からいつか、『あのときご先祖様は何もしなかった』と言われる以上の恥はない」(鈴木博之氏)と筆者に静かに語った。

※「農業経営者」2011年7月号特集の筆者原稿から抜粋・加筆

原文はこちら(閲覧には「農業ビジネス」の会員登録が必要です)。

3. 世界の食料ロス13億t、全農産物生産量の3分の1!

 5月に発表されたFAO(国際連合食糧農業機関)の委託調査「世界の食料ロスと食料廃棄」(Swedish Institute for Food and Biotechnology)の結果。その内訳は、先進国で6億7000万t、途上国で6億3000万t。人口1人あたりの供給量、先進国900kg/途上国460kgに対し、ロス量はそれぞれ280~300kg/120~170kg。小売・消費段階でのロスは、先進国1人当たり95~115kg/途上国で6~11kg。

 結論:「十分な食料がある中、食料不安の現実は食料ロスと食料アクセス(購買力・価格)の問題である。この点にほとんど注目せず、さまざまな機関から発表される『将来の世界需要に応えるために、食料生産を大幅に増やさなければならない』という予測は驚くべき」と素朴な意見表明をし、「ロスの解決方法もわからない」とする謙虚な見解が好印象なレポート。世界の食料危機説をリードしてきたFAOの思想的な転換点となるか。

4. 世界の飢餓人口統計は「でっちあげ」?

 国連食糧農業機関(FAO)と国連世界食糧計画(WFP)は飢餓人口を推計9億2500万人と発表。一方、以前からその数字は「根拠のないでっちあげ」とするウィリアム・イースタリー氏(NY大教授)がFAOと激論を交わした。どちらが正しいのか? 米国学術研究会議(National Research Council)が専門家を集めワークショップを開催。その成果がレポートにまとめられ、12月に発刊されたばかり。

 食料問題の各種指標:食料安全保障、栄養失調、貧困、天然資源、農業生産性について、これまでの分析手法とその精度を議論。とくに食料安全保障については、その3つの視点:入手可能性、アクセス、利用方法のデータを再評価し、誤った認識を訂正していく。機会があれば、「FoodWatchJapan」で詳細を報告しよう。本レポートによって、FAOだけでなく、農水省も食料安全保障の再定義を迫られるかも?

5. エジプト革命、食料価格の高騰は原因にあらず

 約30年続いたムバラク大統領を退陣に追い込んだ国民運動は現在も継続中である。退陣直後、ニューヨークタイムズをはじめ世界のマスコミは、この革命の背景として「パンなどの食料物価高が庶民の政権への不満要因となってきた」と論評。日本のメディアもこの論調に追随した。

 私のカイロ大学時代、一連の反政府デモに参加してきた実体験と今回の状況から見て、これは全く違う。筆者の同輩、後輩たちが革命後、ブログ、フェイスブック等で記してきた「欧米メディアの無理解に対する憤り」を読んでも同意見である。

「不正と暴力に対抗する少しばかりの勇気の結集」が根底にある。人間の尊厳の戦いについて、途上国だからとすべてを食料不足・貧困問題のせいだろうとするのは我々の奢った精神の発露にすぎない。“人はパンのみにて生くるにあらず”。

6. 農水省、大震災直後「コメ屋査察を強化」

 コメの“買いだめ”騒動が起きた後、鹿野農相は「コメの流通業者に対し、出荷・販売の促進を強く指導する」と発表した。実際、各地の農水省職員は“売り惜しみ”がないかコメ業者を巡回。お客さんがおコメが欲しいと殺到していしているのに誰がわざわざ売り惜しみしたのか。

 査察を受けたあるコメ屋さんはこう記した。「店頭にコメがあるかどうか、供給状態などの聞き込み調査に来られた。これから日曜、祝日関係なしに2日に1回来ると。あなた方は、東北の地震に便乗して休日手当目当てに馬鹿な仕事をしようとしているとしか思えない。国家の非常事態、今後どれだけの予算を工面しなければならないかわからないという時にあなた方はこのような無駄な仕事を作り出しては国民の税金を巻き上げようとしている」。

 その1、2週間後、農水省は今日も事実上の国家独占貿易による小麦価格を18%値上げした。革命で倒れたムバラク独裁政権でさえ、パンの値段を下げた。これが日本の食料安全保障の現実だ。

7. 財政破綻のギリシャ、就農人口急増

 財政破綻の渦中、農業に転職した失業者は38,000人に上っている。ギリシャ農家連合の発表。「失業率が史上最高に達したときから、急に上昇しはじめた」と分析する。「それまでは減少し続けていいた就農者数が反転した格好だ」という。

 一方、ギリシャ政府統計を見ると、2010年から農業所得は5.3%ほど下がっている。つまり、就農者数を考慮すれば、1人当たりの農業収入は大幅に下がっていることになる。一方、同じ時期、EU全体では農業収入が6.7%上昇している。

 同じ現象はかつて、“英国病”後の改革で失業者が急増した英国でも起こり、同時に農業者1人当たりの所得は減少した。ここから言えるのは、日本の農水省が望むように就農者数を増やすのは簡単だ。日本でも失業率が史上最悪まで高くなればいいだけだ。

 ギリシャ農水省は現在、政府保有農地を35歳以下の若者や失業者に格安で貸出しをはじめている。区画数は833あり、1エーカー(40.5a)当たりの借地料は5ユーロ。民業(専業農家)圧迫の無能政策だ。

「年150万円支給、若者の新規就農支援に」(2012年度概算要求)乗り出した拝金主義・浪費好きの農水省を持つ日本も、ギリシャと同じ道を歩んでいるようでならない

8. デンマーク政府、世界初の「脂肪税」導入開始

 お笑い愚策の決定版。

9. ベトナム、TPP参加

 WTO加盟からわずか5年でTPPに参加するベトナムはすごすぎる。

10. 水戸黄門、放映終了

 これが今年、いちばんうれしいニュース。

「恐れ多くも先の副将軍」と聞くたびに、日本を脱出したくなるほどの衝動に駆られた小学生時代を思い出す。

“元・副会長(!?)”という恐るべきほどに無責任な職位を恐れることを勧奨する、無批判な精神構造に対する無批評な態度に嗚咽した。

 もっと恐るべきことは、自分に心のなかに“先の副将軍”を勝手に作り出してしまうことだ。

 今年の農業界・食品業界の取材・調査活動のなかでも、暫定規制値を審議した食品安全委員会が発表した文面にその影が最も色濃く出ていた。

おまけ1. どうなる? 北朝鮮“金正日農法”

 金正日氏の死去を受けて、“金正日農法”の行末が気がかりだ。

 主体(チュチェ)思想にもとづく農法だが、実践すると必ず失敗することが実証されている世界農業史上、極めて特異な農法である。

 何年か前には、食料難を一気に挽回するため「ジャガイモの栽植密度を5倍にすれば5倍収穫できる」との指令を出し、見事に失敗した。小粒ばかりが取れ、当年の収穫量低下を導いたばかりか、その先数年の種イモまで収奪してしまったことは犯罪的だった。

 北朝鮮で不作が続く一因は、こうした思いつきで農民に強制指導するこの農法にある。

 後継者の金正恩氏が、主体農法のコントロールから脱出し、北朝鮮農業界が真っ当な慣行農法に帰還することを願う。

おまけ2. どうなる? リビア“カダフィ大佐農法”

 カダフィも金正日に負けていはいない。本人曰く「世界の8不思議の一つ」であるカダフィ農法を語らずして、今後の北アフリカ情勢は占えまい。リビア上空から見れば、センター・ピボット式の円形農場が集積しているサハラ砂漠南部地帯だ。近年、”世界最大”級の人工河川を完成させ、1300の溜池、5000㎞に及ぶ灌漑用パイプラインを造成した。

 巨大建設にあたり、人口の少ないリビアのカダフィは労働力支援をムバラクに求めた。私のカイロ大学留学当時から、このプロジェクトに何万、何十万人のエジプト農民が駆り出され、リビアに出稼ぎに行っていた。「総投資額は250億ドル」。カダフィ農場のスケールは、ビン・ラディンの比ではない。

 当地の地下水脈は1億5000万m3を埋蔵し、「1000年持つ」と豪語する。北米最大のオガララ帯水層の3.4倍にもなる水量だ。

 亡き後、カダフィ農場の運命はいかに? 来年も引き続き、FoodWatchJapanがその行く末をウオッチしていく(?)。

 来る年がFoodWatchJapanのさらなる発展と、読者の皆様にとって幸多き年になることをお祈り申し上げます。


2011年の10大ニュース
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これまでの「10大ニュース」
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浅川芳裕
About 浅川芳裕 1 Article
株式会社農業技術通信社専務取締役 あさかわ・よしひろ 1974年山口県生まれ。1995年エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。Sony Gulf(ドバイ)勤務を経て、2000年農業技術通信社入社。日本唯一の農業ビジネス誌「農業経営者」副編集長、ジャガイモ専門誌「ポテカル」編集長、農業総合専門サイト「農業ビジネス」編集長、みんなの農業商品サイト「Eooo!」(エオー)運営責任者。著書に「日本は世界5位の農業大国」(講談社)、「日本の農業が必ず復活する45の理由」(文藝春秋)、「農業で稼ぐ! 経済学」(共著/PHP研究所)、「どうなる! 日本の景気」(同)がある。