お客が店も料理も選ばない未来

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原画・いらすとや
原画・いらすとや

6年前のことですが、「未来コトハジメ」というWebサイトに近未来のレストランのイメージを寄稿しました。テレビ会議を使ったリモートレストランの様子を舞台として、ロボットや3Dプリンタによる調理支援、ARによるオペレーション支援などがレストランに導入される可能性を検討したものでした。

「近未来のレストランに見る最新技術 人手不足解消、食のバリアフリー化も進むか/未来コトハジメ」
https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/food/h_vol3/

ただ、「近未来」としていますが、記事中で断っているとおり、すでにある技術の組み合わせで書いています。そして、コロナ禍を経て、もはや未来ではない現実になった部分もあります。ドッグイヤーなどという言葉が使われはじめて早四半世紀が過ぎましたが、昨今はうっかり未来など語ると3日後と言わず数時間後には、いいえ今その場で恥をかきそうな状況です。

それを承知で、近い将来の外食市場の様子を考えてみたいと思います。

ポピュラープライスの外食の将来

外食産業のうち、とくに成長分野はチェーンストア(チェーンレストラン)が担って来ました。そして、チェーンストアの多くは、ポピュラープライス戦略といって、可処分所得の多い少ないに関係なく誰もが利用しやすい価格レンジを主戦場とします。

ポピュラープライスが実際にいくらぐらいの金額を示すのかは、時代によって地域によって変わりますが、現在の外食業ではおおむね2,000円台までと考える企業が多いでしょう。そして、チェーンストアはこのポピュラープライスをさらに細分化して戦略を立てるものです。

最も低価格なレンジはロワーポピュラープライスです。なかでもアフォーダブル(affordable)と言われるレンジは、現在は「ワンコイン」とも呼ばれる500円前後です。これには丼店、麺類ファストフードがあり、また、コンビニエンスストアの客単価もこのあたりとなります。

その上は800円前後で、ここにはハンバーガーやフライドチキンなどのファストフードがあり、またサイゼリヤなどのファミリーレストランもあります。

それより上の価格レンジはミドルポピュラープライス、アッパーポピュラープライスなどと呼ばれますが、これは人によって企業によって、線の引き方は変わりますが、客単価1,200円前後のロイヤルホストやデニーズ、その上に低価格路線の居酒屋、ファミリータイプの回転ずしが想定されます。

ポピュラープライスより上の価格レンジは、下からモデレートプライス、ベタープライス、ベストプライスなどが並びますが、それらについてはまた別の機会にしましょう。

今回とくに考えたいのは、客単価800円までのポピュラープライスの外食ビジネスの将来です。

高度な自動化・無人化と高度な監視・予測

もともとこの価格レンジのチェーンは、商品と作業を高度に標準化し、積極的な機械化を進めてきましたが、今後その度合いはさらに強まります。むしろ無人化を指向すると言っても差し支えないでしょう。

たとえば、定食やラーメンの店は他業態と同様にタッチパネル式のオーダリングシステムの導入を推進していますが、一方でお一人様対応と客席数確保の狙いもあってカウンタータイプの客席を増やしています。そのカウンターは壁や窓に向かっているか、パーティションの両サイドにカウンター形式の客席を並べるなどが多くなっています。

この形の店の場合、商品のサーブは客の後ろから行われますが、お客の方も終始壁側を向いているので従業員と視線を合わせることはほとんどありません。そうなると、配膳ロボットによる無人化は今後も抵抗なく行われると予想されます。

さらに、店の中ではカメラの設置がさらに進むでしょう。これらのカメラは顧客一人ひとりを顔認証で識別しています。そして、その一人ひとりが何を注文し、どれだけの時間をかけ、どのような反応を示しながら食べているかのデータを集めるでしょう。

もちろん、集めたデータはビッグデータとしてマーケティングに活用されるだけでなく、一人ひとりのお客に対してのレコメンドにも使われていきます。

また、この2年半の間にデリバリーも拡大しました。これも、今後はさらに全く様子の違うものが出てくるでしょう。たとえば、仕事をしているとドローンによる宅配が来たという知らせがスマートフォンに届きます。

「注文はしていないが」と思いながらドアを開けると、何か出来たての料理を運んで来ている。それが正に今日の昼に食べたいものだったので、受け取り、その段階で決済も自動的に済んでしまう。一人ひとりの行動履歴が生活のあらゆる場面で集められる結果、ある日のある食事に、その人が何を食べたいと思うのか、本人よりも売り手側のほうが詳しくなることは容易に想像できます。

レストランに入店して着席した段階で、注文もせずに食べたいものが運ばれてくるかもしれません。コンビニエンスストアのような店舗では、買いたいものの棚が示されたり、あるいは買おうと思う商品がすでに買い物かごに集められているかもしれません。

ポピュラープライスは外食業でなくなる

重要な点は、ポピュラープライスのレンジの外食業が以上のような形のものへ進んでいった場合、それはすでにサービス業ではなく小売業になっていくということです。そして、もちろん、既存のコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの小売業と競合していくことになります。

むしろ、この分野は、外食業というくくりから外されていくかもしれません。

そして、どこへ行っても、食べたいものが食べられる、それが自動的に的確に供されるようになった結果、生活者は店を選ぶということに興味をなくしていくでしょう。さらに、自分で何を食べようとするかも、自発的に考えることが減り、受け身になっていくでしょう。

そして、いつ、どこで、誰が、何を、どのように食べたいかを予測する、あるいは知っているのはデータを持っている会社などの組織です。この会社とは、個々の外食チェーンではなく、より大きなマーケティングデータを扱う大企業ですが、GAFAのようにより巨大で、しかも海外の会社に、吸収されたり置き換わったりすることも容易に想像されます。

ある意味、便利でラクな社会かもしれません。しかし、生活者は一人ひとりに分断され、しかも監視され、出て来たものをそのまま受け入れる人たちになっていきます。

それでいいのかどうか。違うとすれば、別な道はどのように拓かれるでしょうか。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

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About 齋藤訓之 397 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →