音楽バトル版三国志の計略飯

357 「パリピ孔明 THE MOVIE」から

中国三国時代の天才軍師・諸葛孔明が現代日本に転生し、渋谷を舞台に音楽バトルを勝ち抜く「パリピ孔明 THE MOVIE」。本作には、餃子や饅頭、デリバリー飯、さらには意外なスイーツまで、食に絡んだ巧妙な“計略”が次々と登場する。孔明と司馬懿の末裔を自称するライバル軍師による頭脳戦を、食の視点からひも解いていく。

 今回取り上げる「パリピ孔明 THE MOVIE」は、作:四葉タト、画:小川亮の漫画を原作としたテレビドラマの劇場版。中国の三国時代から現代日本の渋谷に転生した諸葛亮孔明(向井理)が、アマチュアシンガーの月見英子(上白石萌歌)の歌に感銘を受け、英子の歌を民草(人々)に届けるべく、英子の軍師になって計略を巡らして行くというストーリーである。

 本稿では、劇場版で孔明とライバルの計略に利用された食べ物の数々を中心に述べていく。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

マンドゥv.s.餃子屋の情報戦

 劇場版は、テレビドラマから3年後という設定で、オリジナルストーリーが展開される。

 今回の“主戦場”は、日本を代表する3大音楽レーベル、KEY TIME、SSSミュージック、V-EXが頂点を競う、史上最大の音楽バトルフェス「ミュージックバトルアワーズ2025」(以後アワーズ)。三つ巴の競い合いは、魏・呉・蜀が天下の覇権を争った三国時代を想起させる。英子は孔明の差し金で、アワーズ限定でKEY TIMEのニューフェイス枠で参加することに。これに立ちはだかるのが、三国時代に蜀の孔明とライバル関係にあった魏の智将、司馬懿しばいの末裔と自称するSSSミュージックの軍師、司馬潤(神尾楓珠)である。

 テレビドラマ版で英子を日本最大の音楽イベント「サマーソニア」出場に導いた孔明はメディアから注目され、「天下泰平」を決め台詞にすっかり有名人に。テレビのスポーツ情報番組でサッカー日本代表戦の戦略を予想したり、バラエティ番組で三国時代に自身が行った計略の数々を解説したり、ビジネス雑誌にインタビュー記事が掲載されたり、数々のCMに出演したりと、多忙を極めている。

孔明がCMで宣伝した「bibigo 王マンドゥ」。
孔明がCMで宣伝した「bibigo 王マンドゥ」。

 孔明が出演しているCMの一つは、韓国系の食品企業CJ FOODS JAPANが販売する実在の商品「bibigo ワンマンドゥ」。マンドゥ(만두)の漢字表記は饅頭であるが、韓国料理では主に餃子を指すことが多いという。「bibigo 王マンドゥ」は、豚挽肉と5つの野菜(ニラ、キャベツ、タマネギ、ネギ、ニンニク)と春雨と豆腐などが入った「肉&野菜」、エビと野菜(ニラ、タマネギ)と春雨などが入った「エビ&ニラ」、豚挽肉と5つの野菜(ニラ、キャベツ、タマネギ、ネギ、ニンニク)とキムチと春雨などが入った「肉&キムチ」など、日本の一般的な餃子と比べて餡のバリエーションが多いのが特徴である。

 孔明が「bibigo 王マンドゥ」などのCMに破格のギャラで出演したのは、孔明の今回の計略「天下三分の計2025」の一部であることが後に明らかになる。

 そんな孔明の活躍を苦々しく思っていた司馬潤は、町の餃子屋でアルバイトをしながら、妹でシンガーソングライターのshin(詩羽)を売り出すべく、来店する客の会話に聞き耳を立てて有益な情報を収集。その情報をもとにSSSミュージックの音楽プロデューサー、城之内きすく(くっきー!)にshinを売り込み、アワーズ出演を勝ち取るとともに、自分は軍師に就任する。アワーズ当日には、ニンニクたっぷりの餃子を使ってKEY TIMEから出演予定のアーティストを来れなくするなど、孔明を大いに苦しめる。

 余談になるが、中国の饅頭(マントウ)の起源には、諸葛孔明に由来するという民間伝承がある。南征の途中、川の氾濫を鎮めるため、生贄として人の頭を捧げる風習を聞いた孔明が、代わりに小麦粉で生首に似せた具なしの蒸しパンを作って捧げたところ川は鎮まり、これが饅頭の始まりになったとされる。のちに具入りなど多様な饅頭が生まれ、肉まんもその一つと考えられている。このエピソードは、テレビドラマの第7話でも紹介されている。

フードデリバリーもメンマプリンも計略のうち

 孔明は、多忙の中でなぜか「Uber Eats」の配達員まで掛け持ちし始める。ラーメン屋の前で待機し、配達リクエストが来たら即受け、自転車で30分の距離を走り、注文者に濃い目ラーメンネギ抜きを届けることを繰り返したのも、「天下三分の計2025」のため。先のCM出演とあわせ、本作における孔明の行動のすべてが計略に紐づいている。

 一方の司馬潤は、アワーズの審査員の一人で世界的アレンジャーのスティーブ・キド(長岡亮介)が、プリンにメンマをケーキのローソクのようにトッピングして食べるという特殊な嗜好を持つ(テレビドラマ第4話にも登場)という情報を入手し、ある計略を仕掛けるなど負けてはいない。

 孔明と司馬潤、高度な頭脳戦の行方は、果たして!?

紅白ならぬ“桃・青・黄歌合戦”

 本作の食べ物以外の見どころは、やはり「ミュージックバトルアワーズ2025」だろう。英子やshin以外には、テレビドラマに出演した前園ケイジ(関口メンディー)、RYO(森崎ウィン)、ミア西表(菅原小春)、マリア・ディーゼル(アヴちゃん)も参戦。その他、EXILE/三代目 J SOUL BROTHERSの岩田剛典、ピアニストの亀井聖矢、ボーイズグループの&TEAM、演歌歌手の水森かおり、ダンスグループのアバンギャルディ、オルタナティブ・ヒップホップユニットのKOMOREBI、ロックバンドのflumpoolなどが本人役で出演する。

 KEY TIMEはピンク、SSSミュージックはブルー、V-EXはイエローをシンボルカラーに、ジャンルを超えた競演が繰り広げられる。歌とダンスのコラボ、かつての小林幸子や美川憲一ばりの豪華衣装からのイリュージョン、歌とピアノがコラボした中継出演など、演出は毎年大晦日に行われる国民的音楽番組を思い起こさずにはいられない。


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【パリピ孔明 THE MOVIE】

公式サイト
https://movies.shochiku.co.jp/paripikoumei-movie/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2025年
公開年月日:2025年4月25日
上映時間:117分
製作会社:フジテレビジョン、松竹、講談社、FNS27社(制作プロダクション:C&Iエンタテインメント)
配給:松竹
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:渋江修平
脚本:根本ノンジ
原作:作:四葉夕卜、画:小川亮
製作統括:臼井裕詞
製作:矢延隆生、高橋敏弘、角田真敏
プロデューサー:高木由佳、八尾香澄
撮影:新出一真
照明:小林仁
録音:矢野正人
美術:あべ木陽次
装飾:竹原丈二
音楽ディレクター:横倉昌秀
音楽:近谷直之
音楽プロデューサー:齋見泰正
音響効果:荒川きよし
編集:臼杵恵理
スタイリスト:Babymix
ヘアメイク:中村了太
アソシエイトプロデューサー:松田佳奈
ラインプロデューサー:梶川信幸
制作担当:木村利明
助監督:足立博
スクリプター:丹羽春乃
VFXプロデューサー:羽原直栄
テクニカルスーパーバイザー:佐藤英樹
キャスト
諸葛亮孔明:向井理
月見英子:上白石萌歌
小林:森山未來
劉備:ディーン・フジオカ
司馬潤:神尾楓珠
shin:詩羽
KABE太人:宮世琉弥
久遠七海:八木莉可子
前園ケイジ:関口メンディー
RYO:森崎ウィン
南房:休日課長
東山:石崎ひゅーい
赤兎馬カンフー:ELLY
マリア・ディーゼル:アヴちゃん
ミア西表:菅原小春
メガネ女子:石野理子
鈴木エイヴィル:菊地凛子
唐澤寿彦:和田聰宏
城之内きすく:くっきー!
伊達:こだまたいち
浩瀬:DJ KOO
浦間:SAM
スティーブ・キド:長岡亮介
ロイド・リー:マーティ・フリードマン
岡部P:山添寛
「アヤステ!」MC:上戸彩
関羽:本間朋晃
張飛:真壁刀義
MCマモ:宮野真守
岩田剛典:岩田剛典
亀井聖矢:亀井聖矢
&TEAM:&TEAM
水森かおり:水森かおり
KOMOREBI:KOMOREBI
アバンギャルディ:アバンギャルディ
flumpool:flumpool
幾田りら:幾田りら
小室哲哉:小室哲哉

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。