日本で感じた食事作法とマナーについてこれまでに3回ほど書いた。それらについて考えたこと、学んだことを整理したい。
食事のマナーとどう向き合うか
食事作法とマナーは、各国がそれぞれ、文化によって変わる。そして、違うところもあるが、共通のところもある。だから、いろいろなマナーがあっても、和・洋・中の基本マナーの最低限のことを押さえておけばいいだろう。そうして、食事をおいしく楽しくいただくことがいちばん大切なことだと思う。
では、実際にどうすればよいだろうか。いくつかの心がけをまとめてみた。
①背景・理由を知る
日本人は麺類を音を立ててすする。その背景がわからないと、日本人は行儀が悪いと感じるばかりだ。しかし、その由来、歴史的な経緯を知れば、納得できなくても理解はできるようになる。
これについては、外国人が理解しにくいことの例として日本人のラーメンの食べ方について書いたが、それとは逆に、日本人から理解されにくいであろう中国人の食べ方も一つ紹介しておきたい。
それはヒマワリの種の食べ方だ。日本でもおつまみやおやつとしてヒマワリの種が売られているが、売られているものの形が日中で異なる。日本では殻を取り去った種の中身だけになったものが売られていることが多い。ところが、中国では殻のままの状態で売られていることがほとんどだ。
殻付きヒマワリは、もちろん殻を割らないと食べられない。私たちはこれをそのまま口に運んで、口の中で殻を割って中身を分けて食べる。しかし、その食べ方と、それによって発する音は、日本人には受け入れられないだろうと思う。
②身につける・実践する
それぞれの料理の食べ方は、食事作法やマナーとして食文化の一部にもなるが、実際に料理をおいしく食べる方法でもある。これを学んで実践すれば、料理をもっとおいしく楽しく食べられるだろう。私がそれを理解したのは、さんまの食べ方からだ。
当初、さんまのちょっと複雑な食べ方が面倒だと思って避けていた。そのことで、おいしいさんまを味わえなくなると同時に、同僚や友人との食文化の交流にも支障を来した。しかし、その後日本の友人に食べ方を教わってみると、それまででいちばんおいしいさんまを食べることができた。先入観から日本式のさんまの食べ方に抵抗していたが、友人のおかげで、その食べ方のよさを感じさせられた。
同様のこととして、前項のヒマワリの種の食べ方のよさを、日本のみなさんにも知っていただきたい。中国式のヒマワリの種の食べ方は、実践してみてもらえば、私がさんまについて学んだと同じように、それがおいしく、楽しい食べ方だとわかってもらえるはずだ。
実際、このヒマワリの食べ方は、近年、両国の交流の拡大の中で、日本でも徐々に知られてきているようだ。ネットでも、「中国 ひまわりの種 食べ方」などで検索すると、それを詳しく説明する写真やビデオが見つかる。案外と、いつか日本でもこの食べ方が人気になるかもしれないと思っている。
中国には「入郷随俗」という四字熟語がある。「郷に入っては郷に従え」という意味だ。これからも、私はまだ慣れていない日本料理の食事作法に学ぶ精神で向き合っていきたい。ただ、ラーメンを食べるときに音を立てるようになるのは、まだまだ先だろう(笑)。
③ローカライズ・食べ方に料理を合わせる
食事のマナーとどう向き合うかの3番目の提言は、食べる側ではなく、食べ物の方を変えるというアイデアだ。
日本では、果物も含めて、大体小さく一口大に切り分けて口に運ぶ。それは手間のかかることだが、行儀のよさだけではなく、実際に食べやすくなる。私はそれに気づいて、その後、日本人と一緒に料理をするときには、日本の食べ方に合わせて、おやきなどはなるべく小さいサイズで作るようになった。
また、食材にも変えるところがある。さんまの食べ方について書いた回で、太刀魚の中華揚げ煮とその食べ方について触れた。これは、骨の付いた部分をそのまま口に運んで、歯で肉をすいて食べるのが、きれいに食べられて、おいしい。だが、日本人はそれをしたがらないとすれば、何か別の解決策があるはずだ。
それが、今はある。幸い、最近、冷凍の骨抜きの太刀魚も売られているので、それを使えばこの問題は解決され、日本人にも食べやすい太刀魚の中華揚げ煮が出来るようになったのだ。
食事作法もマナーも味のうち
食文化の違いから生まれた、食べ方の違い、食事作法の違い、マナーの違いは身近な問題である一方、実にそれぞれの背景があり、奥深く、面白い。
大切なことは、おいしく、楽しく食べること。そして、周囲の人を不快にしないように気を配ることに違いない(新幹線の中で、大阪土産の熱々肉まんを食べるのがおいしくても、これにしばしば匂いの苦情があると聞く。ならば、いくらおいしくても、車内で食べずに我慢したほうがよさそうだ、というように)。
考えてみると、食事作法もマナーも、一種の調味料であると言えるだろう。よい味にするか、まずい味にするかは、食べる人次第。
おいしく楽しい食事の時間を過ごしましょう!
《この稿おわり》