シシリアンルージュ――生でよし加熱でよし

調理用の中玉トマト「シシリアンルージュ」。加熱すればうま味たっぷり。生食すれば、トマト臭さが少なく酸味控えめなフルーツトマト風。これまた先週、試食させてもらった。

  • 小ぶりの中玉「シシリアンルージュ」。
    小ぶりの中玉「シシリアンルージュ」。
  • キャッチフレーズは「からみつく、うま味」。
    キャッチフレーズは「からみつく、うま味」。

「シシリアンルージュ」も、パイオニアエコサイエンス(東京都港区、竹下達夫社長)の種苗。私は同社と特別な関係があるわけではなく、同社出身のG氏が、私の不勉強を心配してサンプルを手配してくれた次第(空腹を心配してくれた?)。ありがとうございます。

 生で食べられるものは何でもとりあえず生で口に入れてしまう癖があるので、これもまずは1個生食。甘味、酸味、うま味のバランスの取れた、サラダなどに使ってもおかしくない味。「バランスの取れた」と言えば聞こえはいいけれど、昔ながらのトマト臭いトマトが好きな人、酸味を好む人には、少しもの足りないかも知れない。とは言え、決して寝ぼけた感じはない。

  • 明るく鮮やかな赤。
    明るく鮮やかな赤。
  • スライスが余計に取れそうな楕円形。
    スライスが余計に取れそうな楕円形。

 大きさはSサイズの卵よりやや小さい程度。細長い形で、スライスもしやすい。

 今回は、スパゲッティに使って食べてみることに決定。

 まずは湯剥き。てのひらにすっぽり隠れるくらいの大きさと形で作業がしやすい。皮付きの味もみてみようと思っていたのに、湯剥きという作業が好きで、ついつい全部剥いてしまう。ちょっと失敗。

  • よく熟していて、中の色も均一。
    よく熟していて、中の色も均一。
  • 種とゼリーは少なめ。
    種とゼリーは少なめ。

 剥いたトマトを縦半分にカット。明るく鮮やかな赤い色が食欲をそそる。加熱するのが惜しいとさえ思わせる。ゼリーと種は少なめ。出来上がりのスパゲティにトマトの種がたくさん見えていると、食感が奇妙になるのと、「これ何? とんがらしの種?」などと思わせてしまうので、これは肝心なところ。

 オリーブオイル、唐辛子、ニンニクのみじん切りをソテーパンに入れて火にかける。シュワシュワ言い出した当たりで、「シシリアンルージュ」を加えて塩。

 今回、ここでスパゲティの茹で上がり時間が迫ってきて焦る。と、「シシリアンルージュ」は1~2分であっと言う間にとろけてトマトスープ状に。助かった! トマトの色の鮮やかさはそのまま。

ジュースの色も濃く、よくからんだ感じ。
ジュースの色も濃く、よくからんだ感じ。

 ここで少しブイヨンを足してやれと思っていたものの、味見してみてやめる。加熱した「シシリアンルージュ」は、酸味が立ってくるようなことがほとんどなく、一方うま味が増したような印象。塩だけで味は十分。後で粉チーズを振り掛けるのもはばかられるほど、うま味たっぷりのトマトソースに化けてしまっていた。

 茹で上がったトマトをさっとからめる。ほどよく煮詰まったジュースたっぷりで、よくからむ。からんだ後の色がまたよい。

 スパゲティは、普段3人前(乾麺300g)を作って、私1.5:ツマ1:小学生の子供0.5の比率で食べるのが常なのだけれど、この日は4人前を作って均等にシェア。当然子供は残すと思っていたら、全員あっと言う間に食べてしまった。一応食卓に出したパルメザンチーズ(粉になっちゃっているやつ)、3人ともそれをかけようと思う間もなく皿は空に。うちの子、普段の3倍近く食べたくせに、もっとないのという顔。こりゃすごい。

 このスパゲティ、湯剥きをいとわなければ、調理は至極簡単。普段はレトルトのソースを使っているという人にも、これはお薦め。また、後で聞けば、皮を剥かないで調理すれば、それなりに酸味が生きてまたうまいのだとも。次回はグリルして食べたり、ピザに載せたりして食べてみたい。ディップも作れるのでは。

 レストランで使うとすれば、問題は価格か。「シシリアンルージュ」、今年はプロによる作付けは多くなく、販売はデパートなどで若干扱いがあった程度らしい。苗はホームセンターで家庭菜園用に出ていたと聞き、作ってみたかったと地団太を踏む。苗ではなくプロ向きの種子の流通は2007年1月から本格化する。来年は量が揃い、価格も手ごろになることを期待したい。

 生食も加熱もうまいというのは、レストランにとっては管理がラクになる話。通常の中玉と同程度の価格になれば、使いたいレストランは多いはず。ライバルは1缶100円程度で手に入る缶詰のトマトか。どんな食品でも味の差というのはなかなか伝えにくい。提供時に、“料理になる直前まで生でした”とわかるようなプレゼンをうまく組み立てることができれば、付加価値を付けやすい食材として人気が出るのでは。

※このコラムは個人ブログで公開していたものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →