世界の三大料理といえば、フランス料理、中国料理、トルコ料理を指すことが多い。いずれも大国の宮廷料理として発展してきた。
フランスとトルコのコース料理
コース料理といえば、何といってもフランス料理である。近世(16〜18世紀)、イタリアの影響を受けながら形成された宮廷料理に原型を求めることができる。1970年代前後に始まったヌーベルキュイジーヌ以前の伝統的な料理では全体的にこってりとした味付けが特徴である。基本的に食材に関する禁忌はなく、酒類はワインが選ばれることが多い。
フランス料理の一般的なコースの例を示せば以下になる。
- 前菜
- スープ
- 魚料理
- 肉料理(ロースト以外)
- 口休め
- 肉料理(ロースト)
- デザート
- コーヒーと小菓子
さて、トルコ料理が三大料理の一角を占めることにピンとこない方もおられるだろう。16世紀のオスマン帝国最盛期、トルコ半島を中心に現在のギリシァやバルカン半島、シリア、アラビア半島、さらにアルジェリアからエジプトまでの北アフリカ一帯まで領土が拡大した。この間に、多様な民族の食文化と豊富な食材を基にして、トルコ料理が発展した。
トルコ料理の一般的なコースの例を示せば以下になる。
- スープ
- 前菜
- 主食(エキメキ=パン)
- 主菜(ケバブ)
- デザート
- トルコ・チャイ/トルコ・コーヒー
フランス料理と比べると、スープと前菜の順番が逆である。前菜からスタートが当り前というのは思い込みだったかもしれない。確かに、スープから始めた方がお腹にやさしい感じがする。この後に、主食となるパン(エキメキという)になる。フランス料理のコースでもパンが出るが、最初から添えられていて随時食べることになる。
主菜のケバブは中東や周辺地域の料理で、肉、魚、野菜などをローストしたものである。肉は羊が多く、牛や鶏になることもある。ムスリムが多いため豚肉は使用されない。
筆者は、ケバブとは肉を重ねて固まりにし、回転させつつ焼けた部分を削ぎ切りする料理を指すものと思っていた。ところが、それはドネルケバブといい、ケバブの一種でしかなかった。勉強不足を恥ずかしく思う。
ヨーグルト発祥の地域でもあり、料理にもよく用いられる。
チャイは紅茶である。
原則として、ムスリムは酒類を摂らない。少数だが、ムスリム以外も存在するため、トルコ料理店は酒類を備えている。種類はビールが多いが、ワインや、干しブドウから造る蒸留酒のラクもある。
中国のコース料理は意外と新しい
中国は広大な国土と悠久の歴史を持つ。いくつもの王朝が起こり、また滅んでいった。漢民族だけでなく、周辺から侵入した異民族が支配した時代もあった。そうした歴史の中で、食材や調理法もダイナミックに変容してきた。近代でも、香港返還前の経済開放政策により、斬新な香港料理が大挙して大陸に流れ込んだという。4000年の歴史を誇る中国料理と言われるが、直近のルーツは案外新しい。
中国のコース料理で、一般的な流れは以下になる。
- 前菜
- 湯(たん=スープ)
- 主菜
- 主食
- 点心
前菜や湯の考え方はフランス料理と同じである。主菜は肉、魚、野菜などを使った料理が、4皿程度提供されることが多い。基本的に食材に関する禁忌がないのはフランス料理と同様である。酒類は多様だが、コース料理で選択されるのは白酒が多い(本連載第4回参照)。主食はご飯や麺類になる。
点心はデザートに相当する。杏仁豆腐、ライチ、ゴマ団子など甘みのあるものが出る。春巻、焼売、水餃子という軽食のケースもある。筆者は小食なので、杏仁豆腐や果物は問題ないが、ゴマ団子は無理である。ましてや、軽食系の場合は手を付けることができない。
なお、中国料理は大皿で提供され、各自の箸や匙で取り分けていた。だが、このたびのコロナ禍により、“取り箸”が推奨されるようになった。11月11日は箸を2膳並べたように見える。そのため、この日を取り箸の日とするなど、普及運動が始まっている。また、最初から一人分に小分けした状態による“分餐”も導入されている。
日本料理は世界三大料理と違うか
日本料理は多様だが、代表例として会席料理に触れておきたい。室町時代に確立した本膳料理が基本になる。主従関係確認のため、主君が家臣を招く宴席料理である。これが簡略化されて会席料理になったとされる。宮廷ではないが、その時代の権力者による饗応料理である。
会席料理の一般的な流れは以下のとおりである。
- 先付(さきづけ=前菜)
- 椀物(わんもの=吸い物、煮物)
- 向付(むこうづけ=刺身、なますなど)
- 鉢肴(はちざかな=焼き魚)
- 強肴(しいざかな=炊き合せなど)
- 止肴(とめざかな=酢の物、和え物など)
- 食事(ご飯、止め椀=味噌汁など、香の物=漬物)
- 水菓子(果物)
基本的な流れは各国のコース料理とよく似ていると言えそうである。食材の禁忌に関して、永い間、食肉が用いられることはなかった。ただし、明治時代以後は選択肢に加わった。酒類は清酒が基本となる。
他国と異なると感じる点がいくつかある。一つは食材の持ち味を生かす精神である。さらに、季節や食器への配慮が大きな要素になっていることにも触れておきたい。ただし、これらは自国贔屓かもしれない。