業界でほめられる「よく使う店」が突然没落するワナ

前回は、お客さんの頭の中やメモ帳にある“ランチ回遊リスト”に載ってしまえば、週に1~2回は来店してもらえると書きましたが、「ウチの店は毎日来店してくれる常連さんが多い」という店もあるでしょう。

競合が少なくコモディティの品数が増える場合

 そうしたお店は、周囲に飲食店が少ない、とくに同じ価格帯の商品をそろえた店が少ない場合が多いものです。そして、その店自体は、同じ価格帯のランチを5種類以上そろえているでしょう。こうなれば、1人のお客さんに5店で対応していることを1店で対応することになります。いわば、数店分のコモディティを1店でそろえるということです。

 逆に、多数ある店の選択肢の中の1つであればいいという考え方を突き詰めれば、ランチとして利用できる商品は1種類でよいということになります。

 牛丼チェーンは大都市から多店化したことを思い出してください。彼らは郊外ロードサイドに進出する際も、好んでファミリーレストラン等のそばに出店する“コバンザメ商法”の形を採りました。これはお客さんの頭の中の回遊リストの1つに入る形です。

 多くのラーメン店も都市の中心地で成功しています。とくにスープと麺は各1種類でトッピングでバリエーションを出しているスタイルの店はそうです。一方、1960~1970年代に郊外ロードサイドや地方都市に増えたラーメン店は、塩味、醤油味、味噌味とさまざまなアレンジ、さらに丼や定食も扱うスタイルになっていきましたが、これは1店で数店分の需要を引き受けるためだったと見ることができます。

外食チェーンが志向する小商圏の高頻度業態

 ところで、どのような状態を持って繁盛店と呼ぶかの基準はさまざまあります。「月刊食堂」(柴田書店)で繁盛店として掲載する基準は、おおむね坪日商1万円(1日に1坪当たり1万円を売り上げる)をクリアしていることでしたが、これは大ヒットを紹介するためでした。一方、地方都市の優良経営の事例を紹介したい「日経レストラン」(日経BP社)では坪月商15万円(坪日商5000円)を基準にしていました。

 いずれにせよ、こうした基準を超えるには、来客数が多くなければ達成できません。その際、異なる人がたくさん来るように狙うのか、同じ人の来店頻度を増やすことを狙うのかの二つの選択肢が考えられます。

 異なる人がたくさん来るようにするには、店の近所の人だけでは足りませんから、大商圏型の店になります。“ときどき、遠くまで足を運ぶ店”ということになりますから、大商圏型の店というのは自然と高級店で高価格帯の店になります。

 一方、同じ人の来店頻度を増やすには、“手頃な価格で便利な場所にある”必要があります。ファストフードやファミリーレストランや定食店、ラーメン店、丼店、そしてコンビニエンスストアは、この戦略を採っています。こうした業態の商圏は、おおむね半径2㎞が商圏と考えられています。

 そして、外食産業とくにチェーンを志向するグループの中では、このタイプの店を評価し、理想とする考え方が強いものです。

高頻度業態の商品はコモディティ化しやすい

 さて、このように頻度高く利用してもらう業態の店では、価格コンシャスにならざるを得ません。利用するお客さんのほうが、毎日・毎週・毎月利用する店については価格コンシャスになるからです。ボーナスや貯めていたお金で何か買う・食べるという場合に比べて、毎月のお小遣いが翌月まで持つように買う・食べる場合では、どうしても1回ごとの支出にはシビアになります。

 そうしたお客さんの事情・心理を考えると、高頻度業態の価格帯というのは自ずと決まってきます。すなわち、ファストフード等ではロワープライス(時勢によるがおおむね800円まで)、ファミリーレストランでミドルプライス(同1000円まで)と考えられてきました。

 ここに、高頻度業態経営の落とし穴があります。店の経営者・運営者の注意が価格に偏りがちになるのです。自店と競合店を比較する場合も、価格に意識が向かい、店が備えるその他の価値・性能への注意が後回しになることが多いのです。その結果、高頻度業態では、価格競争に陥りやすく、商品はコモディティ化しやすい傾向があります。傾向と言うよりも、これは業態の持つ性質だと言えるでしょう。

 この危険はチェーンだけのものではありません。たとえば、郊外ロードサイドで何種類もの定食と単品をそろえて多くのお客さんに頻度高く利用してもらっていた繁盛店だったのに、他の店が近所に出店して来た途端に急速に客数が落ちるというケースがあります。

 これは、その店が何種類もの定食と単品という形で提供していた価値が価格そのものの価値であってコモディティ化していたためと考えられます。「ほかに店もないし、この値段でこの料理ならまあいいか」ということで来店する人が多かったために、ある期間、繁盛店であったということです。

 こう考えると、環境の変化にも耐える盤石な繁盛店であり続けるには、現状の来客数の意味を考えないといけないということがわかります。本当は、「まあいいか」「許せる」ではなく、「たまたま安い値段だけれど、これを食べないと気がすまない」「どうしてもこの店のテーブルにつかないと面白くない」と思ってもらえているかどうか。そこのところを、自店や他店の価格がどうであるか以上に注意しなければならないのです。

 しかし、来店頻度の高い設計の店ほど「日銭が入る」ことで経営が安定しているように見えて、お客さんのこの本音の部分を見落としやすい傾向があるのです。

 来店頻度の高い見かけ上の人気店ほど、安定経営を持続させるには特別な努力が必要ということになります。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →