冷凍インゲンのジクロルボス汚染。何を求め、何をするべきか

事が大きくなればなるほど、仕事も生活もいかに彼の国に依存しているかが分かる(記事とは直接関係ありません)
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事が大きくなればなるほど、仕事も生活もいかに彼の国に依存しているかが分かる(記事とは直接関係ありません)
事が大きくなればなるほど、仕事も生活もいかに彼の国に依存しているかが分かる(記事とは直接関係ありません)

東京都八王子市のスーパーで販売された冷凍インゲンが、有機リン系殺虫剤ジクロルボスで汚染されていた。包装に開封した切り口以外に穴はないというから、事実なら開封後に汚染したか、シール前に汚染したかのどちらかだ。一方、開封した途端に石油系の臭いがしたというから、証言が正しければ、シール前の汚染ということになる。また、その臭いから、散布するために有機溶剤に溶かした状態のもの、つまり農薬として流通しているものによる汚染と考えられるという。そして、この製品は中国製であった。状況から考えて、事故とは考えにくい。恐らく、製品が封をされる前に手を下した人物がいる、事件なのだろう。その犯人とは、どんな人物なのか。

 やはり、今年初めの中国製冷凍ギョーザの中毒事件との類似や関係を考えずにはいられない。このときは騒ぎが大きくなった初期に、中国国家品質監督検査検疫総局の幹部が、メタミドホスが中国国内で混入された可能性は低いとしたうえで、「日中関係の発展を望まない一部分子」による犯行の可能性を指摘した。

 ギョーザの事件自体解明されていない問題だが、よほど周到な準備をしなくては不可能な犯行だったことは想像に難くないので、犯人が国と国との関係を意識していただろうという推測は無理な話ではない。

 では、その「日中関係の発展を望まない一部分子」とはどんな分子かということになる。ところが、これを考え始めると、この幹部は別に何も言っていなかったのに等しいと分かる。そのような人物なり組織なりは、中国国内にも、日本国内にも、そして当事国(日本と中国)以外の世界各国にも、たくさんいるのだ。

 中国の人々の多くは、日本に品物を輸出して金が入ることを歓迎しているが、日本を諸悪の根源のように考える人々もいる。一方、日本には、政治問題、歴史問題などから中国との友好を疑問視する人々がいる。さらに、日本を含む世界各国に、中国製品の品質への疑問、そして差別意識から中国との友好を望まない人がいる。

 また、中国国内には領土や民族の問題があり、国の基盤を揺るがそうとする勢力が活動している。さらに、当事国以外の国々の中には、日中の過度な接近を望まないか、日中関係のアンバランスを国益の一つと見なし得る国々がある。

 これだけいろいろな“容疑者”がいては、犯人はすぐには分からないだろう。あるいは、すぐ分かるようであれば、事件は外交あるいは内政に重大な影響を及ぼす種類のものである可能性があり、その場合は公表されはしないだろう。

 したがって、ギョーザの事件も、それに類似した今回のインゲンの事件も、この犯人捜しは産業界には手に余るものと予想される。当面、産業界としては、中国以外に生産拠点を増やしていくしかないということになっていくだろう。「原因は分からないが、ときどき何かが起こる」ということでは、場所を変えるしかない。それは犯人の思うつぼであるのだろうが、致し方ない。

 ギョーザの事件以降、今年中国は食品や農産物の輸出を制限するという措置を取ってきた。それは危険の発生の機会を減らしたいという考えによったのだろうが、日本の流通に中国製品に対する飢餓感を起こす狙いもあったのではないだろうか。

 しかし、そのような品薄が起こらなくとも、日本あるいは米国はじめ諸外国の中国製品に対する期待は大きい。今年、これだけ石油や原材料費が高騰しながら、例えば日本でパニックを起こすほどの食品や日用品の価格高騰が起こらないで済んでいるのは、中国が“世界の工場”として機能してきたためだ。

 そこで中国が打つべき手は、中国製品の重要性や存在感のアピールよりも、安全性確保に対する断固たる態度のアピールだったはずだ。その点、どのような障害を乗り越えてでも、国家の威信をかけてギョーザなりインゲンなりの犯人を挙げ、事件の全容を解明し、再発の可能性を徹底的に封じ込めるべきだ。あるいは“個別の問題”であったかもしれない食品汚染事件が、現実には消費国サイドで“中国の問題”とされている以上、これをしない手はない。

 一方、日本の産業界も、生産拠点の分散は粛々と進めていくべきだろう。広大な土地で効率のよい生産ができたり、為替上のメリットを生かして、製品を安価に調達できるはずの国はほかにもたくさんある。1カ国への過度な集中は、今年のさまざまな出来事を見てもリスクの大きな戦略だと分かるし、“品質競争”“安全競争”を起こしにくい(その意味では、「自給率向上を」という視野の狭い議論は、問題の本質を見誤らせる可能性があり、場所を変えて同じ問題を起こしていく温床ともなり得る。別な問題として考えるべきだ)。

 ただし、国同士で“価格競争”を起こさせることは期待すべきではない。それは共産主義実現が建前の国家に、労働強化、人民の搾取を強いることになり兼ねない。そこから生まれる悲劇と怨念は、どんな形で爆発するか想像もつかない。さらに、ビジネスの本当の厳しさがまだ十分には分かっていない人々にコストダウンを強いれば、メラミンでタンパク質を水増しするような発想が、今後も現れてくるだろう。消費国サイドでも、人権と相手企業の利益に対する責任感は大きくしていかなくてはならない。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →