BIO Internationalで考えたこと

The 2007 BIO International Convention
The 2007 BIO International Convention
The 2007 BIO International Convention
The 2007 BIO International Convention

世界最大のバイオ産業見本市、The 2007 BIO International Conventionが、2007年5月6日~9日の4日間の会期で、米国ボストンで開催された。Biotechnology Industry Organization(BIO)の主催。1900を超える企業、60の国・地域が出展。来場者は2万2366人で対前年約15%増を記録。うち3分の2は合衆国外からの参加だ。筆者は、遺伝子組換え(GM)作物とバイオ燃料に関するセッションと展示を中心に回った。全貌をこの場に収めることは現実的でないので、今回はGMについて、次回はバイオ燃料を巡る議論について、考えたことをお伝えする。

 GM作物に関する米国のいくつかの出展者、発表者の話を聞く限り、彼らは現在のバイオ・テクノロジーを人類の歴史の中でたどり着いたある到達点、勝ち取った勝利ととらえており、この点屈託がない。すなわち、紀元前のシュメール人の醸造、中国でのカビの利用に始まり、ジェンナーのワクチン、パスツールやブフナーの研究、そしてワトソン・クリック・モデル(DNA構造の解明)など、それぞれの時代にそれぞれの発明があり、われわれはその恩恵を享受してきた。その延長に現在のゲノム創薬、GM作物などがあり、人類は新しいステップを踏み始めた。全くもっともな話だ。

 また彼らは、GMの研究・開発が人類にもたらす(プラスの)影響の大きさをよく認識しており、それだけに大きなビジネスになるのは当然だと考えているし、人々の役に立つことをしているという自負もある。あらゆる産業に携わる人がそうあるべきなのと同じく、研究、開発、製品化のそれぞれの段階で間違いを犯さないよう注意も払っている。

 であるのに、どうしたことかこれに対する反対、あるいは攻撃があり、そのことに困惑している。日本やEC諸国の消費者、団体、マスコミなどだ。彼らは、消費サイドから求められる情報は開示し、誤った情報は訂正し、人々にベネフィットを伝えることもしているのに、なかなか火は消えない――まとめ方がはなはだ乱暴だが、おしなべて彼らの主張するのは、そうした内容だ。

 ここに至るまで、米国国内では、GM作物について、消費者に対する積極的な情報発信が比較的丁寧に行われてきたようだ。流通しているGMが危険なものでないよう考慮されているということだけでなく、人々にとってどのようなベネフィットがあるかも伝えてきたという。すると、日本やEC諸国に対しては、そうした活動が不足していたか、タイミングを逸したのかも知れない。

 しかし、日本について言えば、そうした活動は、そもそも日本の行政や企業、あるいは市民団体が考えて、日本人が日本人に対してすべきことだったのではないか。BIO International Convention見学の後、インディアナポリスのDow AgroSciencesも見学した。その実際については稿を改めるが、この会社のオフィスの中には、日本でも人気がある自己啓発のプログラム「7つの習慣」が重視する「Win-Winを考えろ」のポスターが掲示されていた。自分だけいい思いをしようと思えば成功しないとの戒めだ。彼らは、日本市場を含む顧客が得るベネフィット、メリットを考えて事業を行っている。ならば、彼らが持つ製品(種苗にせよ、収穫した穀物にせよ)の意義を受け止めて、日本人が自分たちでその味を噛みしめ、消費者に伝えることが、どうしてできなかったのだろうか。

 日本にも、GMを試し、実際に仕事の中でメリットを検証したいと熱望している人々がいる。全国各地の“担い手”と呼ばれる有力な農家たちだ。しかし、GMに賛成できない消費者の声、マスコミ、さらには地方自治体にまで、その願いを押さえ込まれている。彼らが、実際に作って「確かにこれは良い」と言えないから、GMに対する逆風が収まることがない。だから、消費者は相変わらず、GMを「作らない、持たない、持ち込まない」ことが良いことだと考えてしまっている。この煽りを喰って、日本の大学などの研究者までが「GMについて堂々と研究できない」と悲鳴を上げる始末だ。

  GM品種やF1品種など、生物学的にあるいは法的に自家採取ができない種子に反発する人々は、「そうした種苗を売り込むのは、悪しき商業主義、あるいは外国の覇権主義に基づくもの」という声さえあって、これがさらにGM普及にブレーキをかける材料になっている。では、いつになったら我々は独自の優れた種苗を持ち、外国の企業や農家に互していけるのか。これでは米国の一人勝ちを助長するだけで、彼らの主張は本末転倒ということになる。

 社会に役立つものの開発に、複数の国、複数の企業でそれぞれに取り組み、競争する。消費者はそれを冷徹に比べる。そうすることで、人類はさらに良いものを手にすることができるはずだ。

 米国に覇権の野望があるか――種苗や食糧流通という一面だけで私はそのことを考えたくない。はっきり言えることは、それぞれの種苗会社は、フェアなビジネスを展開している、そして今、極めて順当に勝っている、ということだ。勉強もしないで、成績の良いクラスメートの悪口を言っているようで、筆者は日本人として恥ずかしいことだと感じて帰ってきた。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →