テンペ普及への道

スーパーで購入したテンペ
スーパーで購入したテンペ。「クセがないのでどんな料理にも合います」とある。
スーパーで購入したテンペ
スーパーで購入したテンペ。「クセがないのでどんな料理にも合います」とある。

食べたことはなくても、テンペという食品の存在はご存じの方が多いだろう。インドネシアの伝統的な大豆醗酵食品である。納豆同様の多様な機能性が明らかになりつつあり、国際的にも関心が高まってきている。「どんな料理にも合う」という紹介のされ方がされているが、納豆のような強い個性がないため、誇張ではないようだ。日本でも普及活動が行われている。

テンペとは何か

 テンペのわかりやすい表現として、しばしば「インドネシアの納豆」と称される。テンペと納豆には共通部分もあるが、異なる点も少なくない。科学コミュニケーションは、わかりやすさと正確さのバランスが難しい。

 テンペは400~500年前から食べられてきたが、庶民の食品という考え方が強かったようである。19世紀初頭、ジャワ島における人口急増への栄養対策としてテンペが奨励され、これを契機にインドネシア各地に広まったとされる。近年は健康機能が認識され、上流階級にも急速に普及しているという。高級ホテルの料理にもとり入れられるようになった。

 テンペにはクリのような淡い香りがあるが、風味は淡泊である。そのため、汎用性の高い料理素材として活用される。多くは家庭で自作され、雑菌を含むために加熱調理が一般的である。納豆は通常生食し、臭い等の強い個性を有するため、料理への活用は限定的だ。食べ方には両者に大きな相違がある。

 テンペの栄養は基本的には大豆に由来する。ただし、醗酵によりタンパク質、脂質、オリゴ糖の分解が進み、消化吸収に優れている。配糖体(グリコシド)のイソフラボンは糖が外れた状態(アグリコン)となり、吸収性が向上している。これらの成分は強い抗酸化性や抗菌性にも関わっている。ナイアシンや抑制性の神経伝達物質GABA(γ-アミノ酪酸)含量が増加している。食物繊維も増えているが、醗酵菌の菌体に由来するものだろう。以上は納豆との共通点が多い。

テンペの造り方

 テンペの製造方法は、納豆とよく似ている。原料の大豆は、どちらかと言えば脂質が少ないものが好ましい。大豆を精選・洗浄し、可能な範囲で種皮を除いて浸漬する。この際、pHを4~5程度の弱酸性に調整し、雑菌の生育を防ぐ。このためには乳酸菌を利用できるが、簡便法として、乳酸や食酢で調整してもよい。

 加熱条件は沸騰後、30~60分が目安になる。加熱後の大豆はやや堅めがよく、湯を切って表面水分を飛散させる。醗酵菌の生育を促進するため、熱いうちに1%程度の澱粉を混合することがある。品温が40℃程度に低下後、醗酵菌を散布する。リゾープス属の糸状菌(通称:クモノスカビ、Rizopus oligosporus)である。日本の納豆の醗酵菌の納豆菌は細菌であり、この点は大きな違いと言える。

 インドネシアの都市部では、工業的な製造が行われている。大きなトレイを用い、温度と湿度を制御して醗酵菌を生育させる。品温30℃程度、湿度75%以上の条件下20~24時間で完成する。煮た豆の表面をクモノスカビの菌糸が被い、一見白色のケーキに見える。水分が55~60%あるため、保存するには冷蔵等何らかの対策が必要になる。

 家庭自作で醗酵菌を加えない場合、煮た豆をバナナの葉で包み、葉に付着している醗酵菌を生育させる。この作業は稲藁を利用してきた納豆とよく似ている。よく出来たテンペ自体を種菌として活用する友種方式や、ハイビスカスの葉の裏面に醗酵菌を生育させた種菌(ウサール)もある。近年は、純粋培養した種菌の活用が一般的になりつつあるという。

日本におけるテンペ

 テンペの機能性は、国際的にも関心が高まっている。2008年、インドネシアがテンペのコーデックス規格を提案した。複数国が関与する規格は調整に時間がかかる。2012年11月、都内で開催された「第18回 コーデックス アジア地域調整部会」では、テンペの地域規格案がステップ4で検討されている。

 テンペは日本でも製造販売されている。ただし、通販の商材として流通している部分が多いのではないだろうか。筆者の近隣(東京都下)のスーパーマーケットを探したが、ようやく成城石井で入手することができた。

 商品はシュリンク包装後、加熱殺菌してある(写真)。100g230円で、普通の煮豆のように見える。パッケージに示されているサラダと炒めものにして食べてみた。少し心がときめく初体験だったが、煮豆と大差がなく、とくにおいしいというものではなかった。広い範囲の料理に使用できることは利点には違いないが、なくても困らない食材にほかならない。普及させるには、テンペが欠かせない、しかも病みつきになるような料理を開発したいものである。

 1985年、つくば研究学園都市で無塩醗酵大豆会議が開催された。これを機にテンペ普及を目的にした日本テンペ研究会が組織された。毎年、春と秋に大会を開催し、研究発表や講演を行っている。

 もちろん悪いことではない。しかし、普及を促進するには、努力の方向が違っているのではないだろうか。マーケティング関連の視点を入れて市民に向かってアピールする必要がある。専用サイトを開設することは必須である。機能的には似ている納豆という強力なライバルの存在もある。現状では、一般的な食材となる道は遠いように感じる。

横山勉
About 横山勉 57 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。元ヒゲタ醤油品質保証室長、2010年独立。食品技術士センター副会長(http://fpcc.jimdo.com/)。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(http://blogs.yahoo.co.jp/teckno555)。