イソフラボンと環境ホルモン

フェノールの構造式(左)とポリフェノールの分類
フェノールの構造式(左)とポリフェノールの分類
大豆
大豆

ダイズは、イソフラボンという物質を含んでいる。これは女性ホルモンに似た作用があるため、かつて“環境ホルモン騒動”が起こったときには一緒に心配された。しかし食品として普通に摂れば心配無用。ただし、サプリメントや健康食品の場合には配慮が必要だ。

ポリフェノールとイソフラボンの関係

フェノールの構造式(左)とポリフェノールの分類
フェノールの構造式(左)とポリフェノールの分類

 お好きでない方もおられようが、化学の話からスタートしたい。六角形のベンゼン環にヒドロキシル基(水酸基。-OH)が付けば、フェノールである(図)。分子内にこの構造をたくさん持つ多様な物質群を「ポリフェノール」という。ポリフェノールはほとんどの植物に含まれており、色素、苦味、香りの源になっている。赤ワインの健康効果で有名になった成分でもある。

 ポリフェノールは、フラボノイド系とそれ以外に分けられる。イソフラボンはフラボノイドに属する成分である。多くは配糖体(糖とさまざまな種類の非糖成分が結合したもの)として存在し、一般のマメ科植物に多く含まれる。

 イソフラボンは病原菌の侵入を防ぐ作用を持つ。また、クローバーではヒツジを不妊化させることが知られている。

 ダイズに含まれるイソフラボンには弱いエストロゲン(女性ホルモン)に似た作用があり、“植物エストロゲン”と呼ばれる。

大山鳴動してメダカ三匹

 1998年、わが国で環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)騒動が勃発した。前年に刊行されたシーア・コルボーン氏らによる書籍「奪われし未来」(翔泳社)とこれに続く映像メディア等での扱い(NHK「サイエンスアイ」等)がきっかけになった。続いて内容は大同小異の書籍が大量に出版され、新聞も連日関連記事を掲載した。「人類の将来がない」と日本中が真っ青になったようであった。

 当時の環境庁も張り切って予算を獲得し、科研費(科学研究費補助金)の募集を開始した。機を見るに敏な研究者たちも、この流れに呼応して日本内分泌撹乱化学物質学会(通称:環境ホルモン学会)を設立。環境庁が「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」でとり上げた60数種の物質を対象に環境ホルモン研究に邁進した。

 その一環として、植物エストロゲンも注目されたのである。

 環境庁は研究成果を発表する場として「内分泌撹乱化学物質問題に関する国際シンポジウム」を1998年から毎年開催して来た。これらを通して、ノニルフェノール等3種の化学物質が、メダカで弱い環境ホルモン作用を示すことが明らかになった。しかし、研究・評価が終了した21物質では、環境ホルモン作用を何一つ発見できなかったのである(「環境ホルモン戦略研究SPEED’98取組の成果」、2004年7月)。

「安心できてよかった」とも思うが、費やされた時間と膨大な科研費にも想いはつのる。「集団ヒステリー」と言えるほど大騒ぎしたメディアも、この結果に関する報道はほとんどなく「しらんぷり」である。現在の放射線問題にも同じ危うさを感じる。過去の貴重な経験を生かしたいものである。

 以上の経緯は、西川洋三氏の書籍「環境ホルモン――人心を『撹乱』した物質」(日本評論社)に詳しく記されている。

 なお、2001年に環境省昇格後も、化学物質の内分泌撹乱作用に関する取り組みは、ExTEND2005、EXTEND2010として継続されている。

イソフラボンの効能

 前述のように、イソフラボンはダイズに多く含まれている。ポリフェノールでもあり、フラボノイドの一種でもある。イソフラボンを基本骨格とするフラボノイドにはゲニステインやダイゼインがあり、これらは弱いながらエストロゲン同様の作用を持つ。

 国立がんセンターでは、食品からのイソフラボン摂取と疾患の関係について研究を行っている。その結果、摂取量が多いほど、女性の乳がん、脳梗塞、心筋梗塞、および男性の前立腺がんのリスク低減傾向を認めている。また、ダイズのイソフラボン類を関与成分とした「骨の健康維持に役立つ」というトクホ(特定保健用食品)が販売されている。

 イソフラボンと健康にかかわる研究は数多くあるが、相反する結果も存在する。これらについては、国立健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」(https://hfnet.nih.go.jp/)で見ることができる(https://hfnet.nih.go.jp/contents/indiv_agreement.html?832)。

 食品安全委員会は、イソフラボンを含むサプリメントやいわゆる健康食品を、通常の食事に上乗せして摂りすぎないように警告している(http://www.fsc.go.jp/sonota/daizu_isoflavone.html#21)。とくに影響を受けやすいと考えられる妊婦と乳幼児・小児は避けるべきである。また、豊胸作用に触れているものもあるが、疑わしい。

 一般に身体によいとされる成分であっても、摂り過ぎれば有害となる。トクホやサプリメント等に頼ることなく、通常の食品から摂ることを心がけたい。

横山勉
About 横山勉 57 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。元ヒゲタ醤油品質保証室長、2010年独立。食品技術士センター副会長(http://fpcc.jimdo.com/)。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(http://blogs.yahoo.co.jp/teckno555)。