畑の土 x/暗赤色土(1)

暗赤色土は、日本では一部の地域でだけ見られる珍しい土です。これは非常に粘りの強い土で、作業性は最悪です。しかし、根菜類を育てるとたいへん良好な品質のものが得られます。

耶馬溪・秋吉台など限られた地域で見られる暗赤色土

 暗赤色土は海外ではよく見かける土ですが、日本では特定の場所でしかお目にかかれません。しかし、暗赤色土の圃場ではとてもよい野菜が出来ます。とくに、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ヤマトイモなどの根ものを作れば他の追随を許しません。

 まず、この土の名前から説明しましょう。赤色土というのは国内でも全国的にかなり見ることができる種類の土ですが、その赤い土にも2種類があるのです。

 単に赤い色をした土と、赤いけれどもチョコレート色が混じったような色の土とがあるのです。その後者が、今回お話する土です。

 この土、暗赤色土の材料となった岩石は石灰岩です。石灰岩は、日本ではある特定の場所にしか分布しておらず、したがってこれに由来する暗赤色土の分布も限られるというわけです。

 サンゴ礁由来の若い石灰岩は、南西諸島から沖縄の一部にあります。一方、大分県の耶馬渓付近、山口県の秋吉台、四国の愛媛県と高知県の県境付近といったところでは、地表まで石灰岩が露出している地形が見られますが、これらの場所では独特の土が出来ています。それこそが、日本で見られる代表的な暗赤色土です。

石灰岩から生まれた非常に粘性の強い暗赤色土

 この土の大きな特徴は、ものすごく粘りがあるということです。とくに秋吉台の土の粘性は強烈です。この粘りの原因は、ここで生じた粘土に原因があることまでは誰でもわかるのですが、ではどんな粘土で、どのようなわけで粘りが強くなるのかはわかっていません。

 ただ、石灰岩が風化したものは、その粒子の粒径がたいへんに小さく、しかもよくそろっているということはわかっています。石灰岩は炭酸カルシウムを主体に出来ていますが、この鉱物の性質と均質性のためにこうなるのでしょう。これが、たとえば花崗岩のようなさまざまな成分と大きさの粒子から成る岩石が風化してバラバラになったものであれば、それぞれの粒子の大きさや材質の違いから、ある程度細かな粒にはなっても、同じ大きさの小さな粒にはなりません。

 また、岩石の風化によって出来る粘土の種類という点でも、石灰岩から出来る粘土は独特の性質を持つようです。これも、カルシウム含量の多さによると考えられます。

暗赤色土の圃場で作る根菜類は高品質

 さて、この暗赤色土というとてつもなく粘りが強い土をどう使いこなすかが問題です。

 ある性質を持った土を使いこなす――これまでこの連載を読んできてくださったみなさんは、「すわ、土壌改良だな」と思われるでしょう。しかし、今回は、そうではないというお話をします。

 繰り返しになりますが、暗赤色土は強い粘性を持つ土です。したがって、黒ボクなどの軽くフカフカとした火山灰土とは対照的に、たいへん作業性の悪い土ということになります。ならば、そこに堆肥などの有機物を入れて粘りを改善しようと考えるのが、日本の普通の農家の発想です。しかし、暗赤色土の粘性の強さたるや、日本の他の圃場の常識から全く外れた強烈なもので、人為で変えることなどほとんど不可能です。

 その一方、最初にお話したとおり、この暗赤色土で作る根菜類はたいへん素晴らしい仕上がりになります。ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ヤマトイモなど、どれも他では考えられない良好な食感、風味、香りのものが出来るのです。

暗赤色土は改良すべき土壌か?

 であれば、無理に作業性を考慮して土壌改良をしようと考えず、その土のよさをそのまま利用するほうが得策です。手間をかけても狙う効果は期待できず、しかも下手に手を出せばむしろ、この土の素晴らしさを損なうことになりかねません。ですから、変えようと考えない方がよい、変えてしまえばよさを継続できない、というのが結論です。その結論に従えばこそ、暗赤色土での経営が成り立つのです。

 ここの考えを最初に見誤らないことが肝心なことであり、難しいところです。

 日本の農家は、土に問題があれば変える、よくしていく、つまり改良すると考えるものです。これは一般に大事なことではあるのですが、場合によっては無理・無駄となることがあります。

 なぜ、わざわざそのようなことを言うのかというと、世界にはこのように考えない地域もあるからです。たとえば、私は中国各地へ農業指導に出向いた経験から、日本の農家とは違う発想に出会い、逆に日本の農家の発想が生まれた原因と限界に気付きました。これは農業経営の方針にかかわる問題なので、次回はそのお話をしたいと思います。

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About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。