藁苞(わらづと)納豆

上三川町有機農業推進協議会(栃木県上三川町)の催しに参加した。NPO法人民間稲作研究所の稲葉光國先生の指導を受けながら活動している生産者と、賛同する異業種の人たちが集まった。

 稲葉先生が普及に努める営農技術の一つに、「ダイズを栽培した後の水田では雑草が生えにくい」というものがある。土中に固定される窒素の量や、ダイズによるアレロパシーなどによるらしいが、メカニズムは詳しく解明されていない。しかし、事実としてそうなのでそれを活用する。これも今日つい忘れがちだが大事な考え方。

藁苞納豆。
藁苞納豆。

 それで、ダイズを活用する道も考えることが大切になる。今回は、納豆を作る会社、豆腐を作る会社の方も来場した。

 特に面白かったのは、納豆。有機栽培のコメの稻藁で藁苞(わらづと)を作り、昔ながらの納豆を作った。食品メーカーの協力を得ながら、地元の農家が小学生の農業体験として企画した話を楽しく聞く。この日は、メーカーが持ってきてくれた実物も試食させてもらった。

 稻藁は熱湯で短時間洗って藁苞にする。これは汚れを落としたり雑菌を殺すだけでなく、枯草菌を活性化するためらしい。これに茹で上げた大豆を仕込む。本来の“昔ながら”なら、藁に付いている枯草菌だけで納豆にするのだろうけれど、今回はメーカーが持っている優秀な菌を加えている。上手に納豆を仕上げるには、これを20℃とかの温度で保たなければならない。農業体験では、種籾の温湯処理機を使って保温したが、それは工夫の必要な、なかなか難しいことだったようだ。

 現物を見て、「そうか!」と思わずうなずく。土産物などで見る「なんちゃって」の藁苞納豆は長さがせいぜい25cm程度で、藁も薄いし、中を開けると納豆がビニールでくるまれていたりする。ところが、今回見たそれは、藁苞の長さ40cm程度。結構大きなものだった。

上から時計回りに、「納豆小粒」「黒小粒」「エンレイ」「さとういらず」「コスズ」。
上から時計回りに、「納豆小粒」「黒小粒」「エンレイ」「さとういらず」「コスズ」。

 ダイズはいろいろな品種が試された。納豆用品種の「納豆小粒」「コスズ」のほか、煮豆や豆腐の定番「エンレイ」、同じく最近人気の「さとういらず」、さらに丹波から取り寄せて栽培した「黒小粒」も。

「エンレイ」と「さとういらず」は納豆にはかなりの大粒(煮豆や甘納豆の粒の大きさ)、仕上がるまでの温度と時間の管理が難しいらしい。しかし、その甲斐あって、甘みと独特の風味を持った面白い味に。「黒小粒」は、糸が少なめで、ほぐれやすい。豆鼓(ドウチ)の味を連想させるので、料理に使うと面白いかもしれない。

「納豆小粒」「コスズ」が、やっぱり納豆らしい味。粒が小さいから、ご飯に載せて食べるなら、これがやはり合うよう。

 コメが面白くなると、大豆製品も面白くなりそう。

※このコラムは個人ブログで公開していたものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →