大豆に注目!

ダイズが「畑の肉」と呼ばれるのにはわけがある
ダイズが「畑の肉」と呼ばれるのにはわけがある

大豆は日本人の食生活を永年支えてきた重要な食材である。また、米や小麦等の穀物と並んで、人類にとって重要な作物である。特に、穀物では困難な役割となるタンパク質、脂質の供給源として、その重要性の認識が深まり関心が高まっている。

【大豆変身物語が書籍になりました】

醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。

横山勉「大豆変身物語」(香雪社)

大豆への関心が高まる

 近年、大豆への関心が高まっていると感じている。その例をいくつか紹介したい。

NHK教育テレビが大豆を扱う

NHKテレビテキスト「直伝 和の極意 新養生訓 千変万化!大豆を尽くす」

 2010年10~12月、NHK教育テレビで食材の大豆を扱った全12回の番組が放送された。タイトルはちょっと長いが、「直伝 和の極意 新養生訓 千変万化!大豆を尽くす」(趣味工房シリーズ ※1)である。貝原益軒氏の養生訓を参照しながら、大豆の重要性を説いている。具体的には、大豆から豆腐等さまざまな加工食品の造り方の説明がある。さらに、この加工食品を用いた料理を合せて紹介するという構成になっている。筆者は放送を見逃してしまったが、好評だったようである。


☆大豆100粒運動を支える会

 料理研究家の辰巳芳子氏は、料理や食材に関して多様な活動を行っている。その一つとして、NPO大豆100粒運動を支える会(※2)を主宰している。この活動の指針に「この国の大豆を再興すること」を掲げ、その方法として以下の3点を挙げている。

  1. 学童が掌一杯、約100粒の大豆を播き、その生育を観察・記録し、収穫を学校で揃って食べることを奨励・拡大すること。
  2. 各風土の特質ある大豆、即ち、在来品種とその食方法を調査・発見し、復活・振興をうながし、援助すること。
  3. 大豆再興が、地域の着実な「底力」となるよう、情報交換し、「合力」すること。

 2003年に本活動がスタートしている。2009年、農林水産省のフード・アクション・ニッポン・アワード(※3)のコミュニケーション・啓発部門で優秀賞を受賞。神奈川県を中心に各地の小学校で実践され、成果を挙げている。本連載第18回「大豆の力を活用する小学校」で紹介した小学校も本活動に参加して、大豆を栽培・収穫・加工していたのである。

大豆ルネサンスへの挑戦

 企業も頑張っている。「大豆ルネサンスへの挑戦」(※4)というキャッチフレーズを掲げて活動しているのが、不二製油である。「世界でただ一つの総合大豆食品メーカー」を標榜する。大豆を基軸とした食の創造を通して、健康で豊かな生活に貢献するという。以下の3項目を重視している。

  1. グローバル経営:大豆の栄養価値を世界に届ける。
  2. 技術経営:大豆の新機能を創造する。
  3. サスティナブル経営:大豆でグリーンイノベーション。

ソイリューション

 大塚製薬のキャッチフレーズは「ソイリューション」(※5)。Soy(大豆)+Solution(解決)からなるセンスのよい造語である。大豆で解決可能な環境や健康に関わる問題を共有して行動しようというコンセプトである。具体的な商品として、大豆炭酸飲料「ソイッシュ」(SOYSH)、大豆粉にナッツやドライフルーツを加えた焼き菓子「ソイジョイ」(SOYJOY)、大豆粉を主原料とした「ソイカラ」(Soy Carat)をそろえている。大豆に関する栄養士向けのセミナーや家族向けの体験ツアーも行っている。

クールジャパンを推進せよ

 日本の成長戦略はどうあるべきだろうか。従来以上に世界を意識しないわけには行かない。人と物の往来の障害をできるだけ取り除く必要がある。したがって、TPP参加が必須と考えている。農業がダメージを受けることが指摘されるが、この機会に再構築を目指すべきだ。規模、システム、働き方、流通、消費者を捉えなおせば、新たな農業のあり方を見出せるに違いない。

 世界に向けて、日本の魅力を上手にアピールすることが求められる。日本製品やサービスをさらに利用いただくことを目指したい。他国にはない強みは少なくない。自動車や家電はもちろんだが、コンビニ、100円ショップ、外食チェーン、塾のシステムなどはすでに海外で実績を挙げている。これにアニメ、マンガ、ゲーム、J-POPなどいわゆるクールジャパンのカルチャーを総合的に組合せた戦略を立てて売り込みたいものである。

 期待されるのが、2013年末にユネスコ無形文化遺産登録が決定した和食である。和食は“おいしい”“ヘルシー”“美しい”と、従来から世界で評判が高かった。「クールジャパン」の柱となるコンテンツである。もちろん、日本人も「一汁三菜」を基本とする日本文化という意義を改めて認識したい。農林水産省は和食の重要性に関する冊子「和食」(※6)をまとめている。ページ数はあるが、写真を多用しており、文章は少なく平易なのでサラッと読める。一読されることをお勧めしたい。

 2020年の東京オリンピックに向けて上記活動を促進したい。海外の方に、日本で「おもてなし」の心を実感いただきたい。そのためには、海外文化の理解を深める必要がある。イスラム教徒の食を理解するため「ハラール」への関心が高まっている。ユダヤ教には「コーシャ」(Kosher)という食品規定があり、海外にはベジタリアン(本連載第33回「“セミ・ベジタリアン”のすすめ」参照)の方々も少なくない。しかし日本には、これらへの対応が容易な精進料理という基礎がある。ハラール対応では各国に比べて出遅れたが、目標ははっきりしている。的確で迅速な対応を進めなくてはならない。

大豆は人類のタンパク質源

 近年、途上国の人口増と所得向上により、穀物の需要は増大している。生産量もこれに呼応して、主に単収増により増加している。期末在庫のレベルは、1980年代後半から2000年当時までは30%前後で推移していたが、近年は20%前後まで低下している。安全在庫の17~18%まで、余裕のない状況である。その結果、価格は高止まりの状態で、作況が悪い地域が生じれば、たちまち価格高騰が起きる。大豆も同様の推移をたどってきた。

 大豆と主要穀物の栄養成分値を比較して見よう。大豆はタンパク質が33%と多く、栄養面の有効性を示すアミノ酸スコアは最高の100である。これに、炭水化物、脂質が続く。一方、米、小麦、トウモロコシは、炭水化物が圧倒的で4分の3を占め、その多くはデンプンである。タンパク質は少なく、アミノ酸スコアが低い。嗜好や加工適正、供給力の問題があるが、栄養面に限定すれば、大豆を除く穀物は互いに代替可能な特徴を持つ。

●大豆と穀類の栄養成分値(五訂栄養成分表 単位:%)
品名水分タンパク質脂質炭水化物灰分アミノ酸スコア
大豆:米国産11.73321.728.84.8100
米:精白米15.56.10.977.10.465
小麦:強力粉14.511.71.871.60.438
トウモロコシ *148.2176.40.432
*コーングリッツ

 大豆は直接食物とされるだけでなく、トウモロコシと共に家畜の濃厚飼料として大量に消費されている。脂質に関しては、ナタネ等他の油糧作物で代替できるが、タンパク質は質・量共に代替できる作物は存在しない。人類へのタンパク質供給源として、大豆は極めて重要な役割を果たしている。

 今後、需要の伸びに生産量はどこまで対応できるのだろう。気候不順、風水害等の不測事態が懸念される。水不足や土壌流出の問題もある。中長期的には、農耕機械の燃料やビニールシート等の資材は石油に依存している。肥料に必須なリンとカリウムの資源問題も存在する。共に枯渇が目前に迫っている。

 大豆の不足というリスクを低減する技術に遺伝子組換え(GM)が挙げられる。既存のGM作物は単収増に大きく貢献している。また、畑を耕さない不耕起栽培は、本作物で可能になり、土壌の流出防止に効果を上げている。今後、さらなる単収増に加えて、干ばつや塩害に強い品種の実用化が期待される。

 大豆不足を回避するもう一つの活路として、大豆を直接食べることを推進したい。畜産で用いられる濃厚飼料では大豆の利用効率が悪いことを繰り返し述べてきた。しかし、大豆を直接人間が食べる食物とすれば、同じ量の大豆から何倍もの栄養を利用することができる。

 大豆を直接食べるというのは家畜飼料としないという意味だから、大豆加工食品も直接食べることに含まれる。先進国では、肥満人口の増加が問題になっているが、大豆製品はその改善にも貢献するだろう。豆乳や豆腐、しょうゆといった東洋発の大豆加工食品は世界で消費が増えつつある。和食の柱でもある大豆製品をさらにアピールしたい。

 大豆の直接摂取に関して、一般家庭への普及が遅れていた大豆製品が大豆たん白(第19回「一石三鳥の植物性たん白」参照)である。最近、これがスーパーマーケットの棚に並び始めたことを知った。筆者が気づいたのは首都圏に展開する「サミット」の農産物乾燥品売場である。大豆たん白等を鶏肉風に加工した「畑のお肉」(信州物産)という商品で、水戻しして使用する。大豆たん白ではないが、同じ趣旨の食肉風商品「まるっきりお肉」(マイセン)も一緒に並んでいた。新しいタイプの商品なので、消費者に特徴を上手にアピールしなくてはならない。取り扱いを決めたバイヤーの決断に拍手を送りたい。大豆を愛する者として、側面から応援したい。

 これからも大豆食品の普及と有効利用に関する活動を続けていくつもりである。

  • 「畑のお肉」(信州物産)
    「畑のお肉」(信州物産)
  • 「まるっきりお肉」(マイセン)
    「まるっきりお肉」(マイセン)

 本連載は、今回で終了します。長い間、ご覧いただくと共に応援いただいたことを深く御礼申し上げます。

※1 「直伝 和の極意 新養生訓 千変万化!大豆を尽くす」(趣味工房シリーズ):番組テキストが発売されている。

※2 大豆100粒運動を支える会:
http://www.daizu100.com/

※3 フード・アクション・ニッポン アワード2009年度 コミュニケーション・啓発部門
http://syokuryo.jp/award/award09/list/communication.html#sec06

※4 大豆ルネサンスへの挑戦:
http://www.fujioil.co.jp/fujioil/ir/hosoku_pdf/120511-3.pdf

※5 ソイリューション:
http://www.otsuka.co.jp/company/business/soylution/

※6 我が国の食文化
http://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/

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About 横山勉 99 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 元ヒゲタ醤油品質保証室長。2010年、横山技術士事務所(https://yokoyama-food-enngineer.jimdosite.com/)を開設し、独立。食品技術士センター会員・元副会長(http://jafpec.com/)。休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(https://ameblo.jp/yk206)。