ご飯が炊ける臭いはよい香りか悪臭か

飯を炊いていて、蒸気と一緒に湧き上がってくるあの臭い。あれを嫌う人は少ないだろうと思う。子供の頃、眠い朝に味噌汁の香りと一緒に布団の上空まで漂ってきたあの臭い。あるいは、お腹を空かせながら日が暮れるまで缶蹴りをしていて、魚を焼く臭いにつられて帰宅し、その台所に充満していたあの臭い。郷愁を誘うあの臭いの悪口なんて、なかなか言えない。


ごはんができたよ。
ごはんができたよ。

 でも、あの臭い、子供のおむつの臭いと似ている。特に“大”の後。あるいは、落としたての犬の糞のある部屋の臭いと似ていると感じることもある。以前、「農業経営者」編集部で試食のために飯を炊きながら昆吉則編集長に「そうですよね?」と話したら、氏はカンカンに怒って「そんなことはない!」と力説していた。あの大事なニオイ様に対してそんなことを言うのは失礼だとは、私も思う。

 しかしやはり、そう感じてしまうのはしかたがない。

 ある人の解説によれば、炊き上げる前の白米には、様々な成分と一緒に好ましからぬ香気成分も含んでいるのだそうだ。その好ましからぬ香気成分が、炊飯の最中に飯粒から水に溶け、揮発していく。従って、釜からは悪臭が発せられる一方、炊き上がった飯からは悪臭成分が抜けているため、口に入れる飯はよい香りなのだとか。確かに、茶碗に盛った飯の香りと炊飯中の釜から漂う臭いとは、異なるもののように感ぜられる。悪臭成分の方が、沸点なり融点が低いということか。

 その悪臭成分とおむつなり犬の糞の悪臭成分が、化学的に同じものかどうかはわからない。ただとにかく似ていると感じる。嫌いな臭いとも思わないが、少なくとも、互いに互いの連想を呼ぶ臭いだ。

 食品の臭いの感じ方や好悪には、文化的な差や、世代などの位相による差もあるようだ。

 やはり、「農業経営者」編集部で、台湾産のコメを炊いたことがある。彼の地ではこちらで言えばコシヒカリ級の高級品ということだった。炊き上がり、フタを開けると甘い匂いが漂った。ビーフンやライスペーパーの香り。海外旅行や、田舎のコメの粉のお菓子などを思い出す香りだ。竹やある種の草のような香りもちょっとした。

 20代と30代の編集者と私は、「いい匂いがするね」と言った。パッケージを見ると、それは“香り米”であって、台湾でも香りのよさが受けているらしい。ところが、団塊の世代の昆編集長には極めて不評だった。いわゆる「外米」の臭いと感ぜられたようだ。

 文化的な差の例証はいくらでもある。欧米人の多くと伝統的な関西の人々の多くが納豆を嫌がるのは、粘りもあるだろうが、特にあの臭いに拒絶反応を示しているのだろう。また、諸外国の多くの人々はマツタケの香りを食べ物の香りとして受け入れないとも聞く。木を食わされているようだとか。そして、日本にはウォッシュタイプのチーズやブルーチーズの香りが苦手という人はまだまだ多い。

 いつごろ、どんな場所で、何を食べてきたかによって、香りへの反応は全く異なる。

※このコラムは個人ブログで公開していたものです。

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About 齋藤訓之 396 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →