「サイエンス・コミュニケーション――分かりやすい情報発信の技術」開かれる

2013年3月16日、日本農薬学会シンポジウム「サイエンス・コミュニケーション――分かりやすい情報発信の技術」(座長:独立行政法人農業生物資源研究所塩月孝博氏)が開かれました。同会で、市民とのかかわりに関する企画をしたのは初めて。学会最終日の午後にもかかわらず、約200名の参加がありました。

 発表者は4名で、レギュラトリーサイエンス(技術や薬物の規制や許認可に関する科学)、遺伝子組換え作物の研究、ジャーナリズム、NPOの立場から意見が述べられ、共通して指摘されたのは「信頼関係が鍵である」でした。

「農薬レギュラトリーサイエンス研究会の活動からコミュニケーションを考える」

日本農薬学会 農薬レギュラトリーサイエンス研究会 委員長 星野敏明氏

 農薬に対する理解が広がるためには、産官学が参画して、リスクとベネフィットについて情報提供を行い、相互理解を進め、社会の合意形成につなげることが必要。そのためのカギは信頼関係である。

 人は情報を得るとき、情報母集団の中から情報を選び出す。源となった情報母集団が重ならないと対話ができず、相互理解ができない。これは、信頼関係は価値観が近い立場にあるときに成り立つという中谷内和也氏が提唱するSVSモデルにも当てはまる。

 そこで、次のような情報を共有する必要があると考える。

・登録農薬のデータは膨大だということ
・農薬は使わないに越したことはない
・農薬を使用しないと作物は満足に収穫できない
・農家・農地の減少から作物生産力が減少している
・地球規模での食糧不足、飢餓が起こっている
・より効率的な食料生産と食料は人命を救う

 これからは、相手の価値観に応じた会話ができるように、情報発信者はすべてをよく勉強していなければならないと思う。

「遺伝子組換え技術などの理解増進のための体験型コミュニケーション」

農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究推進室 室長 田部井豊氏

世界の遺伝子組換え作物の状況

 1996年から2012年までに、遺伝子組換え作物の栽培面積は100倍になった。現在、先進国と発展途上国の計28カ国で栽培が行われており、発展途上国の栽培面積は先進国を上回った。

 日本のトウモロコシ輸入量から概算すると、現在年間1500万tの遺伝子組換えトウモロコシが輸入されている。遺伝子組換え大豆は272万トン。同ナタネ、同綿花を入れると1600万tの遺伝子組換え品種の作物が輸入され、日本人の食生活が成立している。

 北海道民調査(2008年実施、2011年発表)、食品安全委員会による食品安全モニター調査を見ると、遺伝子組換え食品への不安は減っている。

圃場見学会の開催

 展示圃場栽培で見学者に実物を見てもらう活動を4年間行い、参加者は計約100名。見学会では、オリエンテーション、除草体験、農薬散布見学、トウモロコシの収穫、昼食、実験や観察、情報提供、話し合い、収穫した害虫抵抗性遺伝子組換えトウモロコシの試食を行っている。

 試食後、食べても安全、安心という人が増えることから、試食、話し合いの影響が大きいことがわかるが、イメージの変容には情報提供(安全性評価の仕組み、遺伝子組換え技術は品種改良の一つであることなどについて)が重要であることがわかった。また、体験後、消費者のメリットばかりでなく、農業者へのメリットを認める意見も増えた。

研究者からの働きかけ

 私は、このような活動の中で、見学者から研究者や開発者は信頼に足るかどうかを見られているように感じる。参加者同士の意見の影響も大きいので、ディスカッションのやり方もよく考えなくてはならない。これからも実りあるコミュニケーションに取り組んだり、考えたりしていきたい。

「消費者の求める、消費者に役立つリスクコミュニケーションとは」

サイエンスライター、Food Communication Compass 代表 松永和紀氏

食のリスクの歴史を大きく分けて振り返ると

 大きく考えると、1950年代は、科学技術の発展と増産優先の時代(参照事例:ヒ素ミルク)、1960年代は市民活動や生協活動の時代(参照事例:イタイイタイ病、カネミ油)、1980年代には制度が改善され、2000年からは、リスクアナリシス(リスク分析)の時代と言えるのではないか。

 農薬のリスクコミュニケーションを見ると、農薬学会や農薬工業会の努力でうまくいっていると思う。私が講演や執筆するものも受容されるようになった。食の安全が守られている今日があるのは、1960年代からの問題を踏まえてきたからという説明がわかりやすいと思っている。

科学的安全と消費者の感情の間の乖離

 たとえば、一般の消費者は、食品を放射性物質や添加物がなければまっさらなものだと考えるが、食品の実態はグレー。食品の成分すべてがわかっているわけではない。低線量域のリスクも説明するのはとても難しい。栄養成分の欠乏症と過剰による障害のようにやっとわかってきたこともある。

 今まで、食品中の発がん性については、触れないか、隠そうとしてきたことで信頼が損なわれてしまったと思う。情報公開の状況をみると、リスク評価のプロセスに透明性がある割に、リスク管理の中身(費用対効果など)は知らされていないと思う。

これからの課題として

 誰が市民なのか。行政はパブリックコメントを出す人、リスクコミュニケーションに参加する人を“市民”だと思っているのだろうか。それは一部の人ではないだろうか。

 報道(マスメディアとSNS=ソーシャル・ネットワーキング・サービス)からは一部の情報しか出てこない。問題なのは「食のリスクの知識」と「科学の不確実性」が知らされていないこと。マスメディア情報というものは、必ず売れるように商品化されているものだという認識も必要だと思う。

 これらに対して文句を言うより、読者がメディアリテラシーを持つことを目指すのがよいのではないか。

 中西準子先生は「受動的危険(昔の公害など)から能動的危険(過食、肉の生食、健康食品、バランスの悪い食事)になっている」と言われている。私は、今の状況の中で、本当は消費者が被害者になっていると思う。こういうことを伝えていくのが私の役目だと思う。

 消費者はきちんと判断したいと考えている。それにはタイムリーな発信が必要だと考え、FOOCOM.NETを立ち上げた。そこで、科学的に妥当な情報、社会で不足している情報をタイムリーに出していきたい。

 科学的に妥当な情報、社会で不足している情報をタイムリーに出していきたい。

 最後に、コープ九州では「Good Consumer Practice/適正消費者規範」の取り組みを始め、消費者の正しい行動を点検・検討していることを紹介したい。このような動きに産官学は、どう応えるのだろうか。

「無添加、無農薬、非組換え」表示から考える

NPO法人くらしとバイオプラザ21 常務理事 佐々義子

 店頭で「無添加・無農薬・遺伝子組換え原料不使用」と表示された食品を見ることがある。消費者は、こういうものがあるということは、「食品添加物、農薬、遺伝子組換え原料にリスクがあるので、それらを避けるために表示を行い、情報を提供している」ということだと受け取る。多くの安全性試験を経て、人手も費用もかけた科学技術の成果物が、“避けるべきもの”と認識されていることは、まことに残念なことである。

 食品安全委員会が毎年行っているアンケート調査によると、これらに不安を感じる人の割合は、かつておよそ7~8割だったが、この10年で4~5割程度に減っている。遺伝子組換えについて見るならば、不安を感じる人が5割を切って4年経つ。

 生協やイオンでは遺伝子組換え原料が混ざっている可能性のある原料を用いていることを示す「遺伝子組換え不分別」と表示されたマーガリン、食用油などが安く売られている。その販売数は、遺伝子組換え原料不使用と表示された食品と同等かずっと多い。遺伝子組換え食品に対して否定的なアンケート結果があるのに反して、消費行動から見る消費者はかなり落ち着いてきているように見える。

 食品添加物、農薬、遺伝子組換え作物・食品の役割、安全性審査の仕組み、使い方について整理し、冊子にまとめた。論文の見方、問い合わせや取材に応じてくれる専門家なども加え、メディアの方にも役立てていただきたいと考えた。今後、ホームページから三部作ともにダウンロードできるようにし、広くご活用いただきたいと思っている。

くらしとバイオプラザ21 → 発行物ご案内

 安全と安心が異なることからも明らかなように、これからは、人はそれぞれ違った意見を持っていることを知り、日々変化する科学技術の中で相手の存在を否定しないようなコミュニケーションをとることが大事ではないかと考えている。

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About 佐々義子 42 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。神奈川工科大学客員教授。