シャンパン用コルク栓は天然コルク栓の気密性の証明にならない

中央が一般的なシャンパン用コルク栓。上部が集成コルクで底部にコルク板が2層あることがわかる
中央が一般的なシャンパン用コルク栓。上部が集成コルクで底部にコルク板が2層あることがわかる

近年、ワイン・ボトルを縦置きしている売場を多くみかけるようになった。おそらくは“コルク栓の気密性は高い”とするマット・クレイマー氏の主張に影響されたものだが、天然コルク栓ボトルでは適切な陳列方法とは言えない。同氏はその主張の例としてシャンパン用コルク栓の気密性を挙げているが、実はこれは天然コルク栓ではない。

天然コルク栓ボトル縦置きには問題がある

 近年、日本のワイン売り場では、ワイン・ボトルを立てた状態で陳列していることが多い。否、日本だけではないようでもある。

 もちろん、スティルヴァン・スクリューなどのスクリュー・キャップのボトルや気密性の高い合成樹脂栓のものはそれでいいだろう。だが、天然コルク栓のワイン・ボトルを立てて置くことには問題がある。前回説明したように、コルク栓ボトルでは常に蒸発が起きているからだ。

 かつてそれはワインを取り扱う者の常識で、だからこそワインは横に寝かせて保存していたのである。ところが、この十数年に天然コルク栓のワイン・ボトルが縦置きされ始めたのはなぜだろうか? 多くの業界人が天然コルク栓の密閉度が、かつて考えられていたよりも高いと信じたからではないだろうか?

 この傾向が目に付くようになった時期と、“コルク栓の気密性は非常に高く、乾燥しても気密性は損なわれない”とする記述のあるマット・クレイマー氏の著書「ワインがわかる」(塚原正章・阿部秀司訳、白水社)の発刊時期とは一致する。

 早とちりの業界人が多かったのか、物流や販売の便宜上、都合のよい論旨を切り取って普及が行われたのか、そこは定かでない。

 いずれにせよ、前回も触れたように、私は同氏の言う“コルク栓の気密性の高さ”を支持しない。第一、同書をよく読むとコルクの通気性を否定してはいないのである。

シャンパン用コルク栓は天然コルク栓ではない

中央が一般的なシャンパン用コルク栓。上部が集成コルクで底部にコルク板が2層あることがわかる
中央が一般的なシャンパン用コルク栓。上部が集成コルクで底部にコルク板が2層あることがわかる

 同書では、天然コルク栓の気密性の高さを裏打ちする事例としてシャンパンのコルク栓の気密性を持ち出しているが、これは妥当ではない。近年のシャンパンのコルク栓は、他のスティル・ワインに使われている天然コルク栓とは全く異質なものである。

 写真をご覧いただきたい。中央が一般的なシャンパン用コルク栓である。その構造は、合成樹脂で固めた集成コルクの塊の下面に天然コルクの“柾目板”を方向を変えて2~3層貼り合せたものになっていることがわかる。お手もとにシャンパン用コルク栓があれば、ぜひ縦割りにして現物を確認していただきたい。

 シャンパン用コルク栓こそは、“天然コルク栓”の密閉性における欠点を克服するために工夫を施した“加工コルク栓”であるのだ。

 ワインとの接触面になぜ“柾目板”の使うのかおわかかりだろうか。宇都宮大学教育学部のWebサイトに「木材の特徴と性質」というページがあり、こ理解を助けてくれる。

●「木の特徴と性質」メイン
http://et.mine.utsunomiya-u.ac.jp/et/mokuzai/
●木を観察しよう
http://et.mine.utsunomiya-u.ac.jp/et/mokuzai/kansatu.html
●道管の顕微鏡写真
http://et.mine.utsunomiya-u.ac.jp/et/mokuzai/sugiken.html

 とくに木口の顕微鏡写真をよく見ていただきたい。心材と辺材ともに年輪を形成しながら成長した部分で、どちらにも道管(垂直方向)と放射組織(中から外へのほぼ水平方向/この写真には図示されていない)という縦横2つのパイプ状組織を持っている。“柾目”とは、この2方向のパイプ組織のどちらも断裂させない木取りのことである。それゆえに密閉性が高くでき、ワイン樽等の側板の木取りもこれが基本である。

 なお、付け加えて言っておくと、シャンパン用コルク栓の“柾目板”2~3層の貼り合せにも、もちろん接着剤(恐らく合成樹脂系)が使われている。どう考えても、天然コルク栓の気密性を証明する材料としては不適格と言わざるを得ない。

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About 大久保順朗 82 Articles
酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。