数の子はDHAとEPAをたくさん摂るのに好都合

塩数の子
塩数の子(アメリカ産)

もういくつも寝ないうちに正月という時季なので、おせちの定番「数の子」を取り上げたい。日本人は魚好きであり、また魚の卵好きでもある。ご存じの通り、サケならイクラと筋子、スケトウダラなら鱈子、ニシンなら数の子という具合だ。

塩数の子と味付け数の子は別な海から

塩数の子
塩数の子(アメリカ産)

 数の子の語源は「カド(カドゥ)の子」だという説がある。かつて北海道や東北ではニシンを「カド」「カドゥ」と呼んでいたことからその名が付けられ、「数の子」の文字が当てられたという。

 北海道沿岸のニシン漁は1890年代がピークだった。1900年代に漁獲量の増減を繰り返しながら、1970年代以降その量を極端に減らした。国内では現在、北海道の石狩湾や厚岸湖、風蓮湖などで細々と漁獲が続けられているに過ぎないという。

 それに取って代わったのが外国産だ。現在、日本人の口に入る数の子の主産地は北米大陸の西海岸、東海岸、そして北方ヨーロッパの沿岸の3エリアだ。これらは、漁獲期と日本での用途が微妙に異なっている。

 北米西海岸、サンフランシスコからカナダ、アラスカまでの沿岸域での漁期は12月~6月。これは主に「塩数の子」の原料となる。

 北米東海岸、カナダのニューファンドランド島やセントローレンス島の沿岸域での漁期は7月~10月。これは主に「味付け数の子」の原料となる。

 北方ヨーロッパ沿岸、スコットランドのシェトランド諸島の海域、アイスランドとアイルランドの西岸域、スカンジナビア半島とバルト海の沿岸域での漁期は8月~2月。こちらは塩数の子、味付け数の子両方の原料となる。

 以上のように通年で世界のどこかで数の子が獲られているわけだ。

DHAは魚本体より魚卵のほうに豊富

 数の子の栄養的価値について見てみよう。

 まず、魚介類の脂肪、つまり魚の油にはDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)という不飽和脂肪酸が多く含まれるということは、すでによく知られている。このうち、DHAは脳機能改善に効果がある物質として有名だ。「頭がよくなる物質」として話題になったことがあるが、正確には不足すると脳の活動が低下し、補給すると回復するということである。

 そのDHAとEPAが、魚の卵のほうにとくに多く含まれていることは、あまり知られていない。魚本体の場合、マイワシはDHAが11%、EPAが13%、サンマはDHAが11%、EPAが6%、マグロはDHAが14%、EPAが6%、サケはDHAが13%、EPAが8%となっている。ところが、たとえばサケの卵である筋子の場合、DHAは19%、EPAが16%と本体と比べて多い。

 数の子の場合は、EPAこそ15%と筋子とほぼ同じだが、DHAが27%と格段に多い。したがって、DHAやEPAを積極的に摂取しようとするなら、魚の卵、とくに数の子を食べるほうが効率的なのである。

DHA/EPAの動脈硬化予防作用

 DHAやEPAは「動脈硬化」を予防する効果があるとされる。これがどういうことなのか、まず動脈硬化の発生原因を見てみよう。

 高血圧などが引き金となって、血管動脈の内壁に傷を付けると、これを修復しようとリンパ球や単球(ともに白血球の一種)などの細胞が集まって来る。これらの細胞は動脈内壁の中に入り込んで、マクロファージという巨大な細胞に変化する。

 このとき、酸化された“悪玉コレステロール”が血管内に多量に存在すると、マクロファージはこれを溜め込んでさらに巨大化し、ついには血管内壁が盛り上がってしまう。この“盛り上がり”がさらに肥大化したものが動脈硬化の状態だ。

 この状態ですでに血流が悪くなっているのだが、動脈硬化を誘引する状態を放置すると、さらに悪い状態になる。血液中には血管の傷を修復する血栓という物質が存在するが、動脈硬化で狭くなった血管の中を血栓が通れなくなると、血液の流れを止めてしまうことになる。これが重大な病気を引き起こすのである――脳であれば脳梗塞、脳内出血、心臓であれば心筋梗塞、大動脈であれば大動脈破裂など、いずれも命に関わる病気だ。動脈硬化を軽く考えてはならないのである。

 さて、これに対してDHAやEPAはさまざまな予防効果を発揮するという。1つ目が血圧低下作用。血液中の赤血球の細胞膜にDHAやEPAが取り込まれると、赤血球の流動性が向上する。これにより血液自体の粘度が低下して、血液の流れが改善される。2つ目がコレステロールの合成や分泌を抑制する効果があることから、血液中のコレステロール濃度を低下させ、ひいては血圧を下げる。3つ目が血栓抑制作用だ。

DHA/EPAが褐色脂肪細胞を活発にする

 ところで、肥満の中でとくに要注意なのが、内臓脂肪つまり内臓に蓄積する脂肪による肥満だ。それというのも、この脂肪組織を形成する脂肪細胞からは、アディポサイトカインと呼ばれる物質が体内に放出され、これがさらなる肥満や糖尿病の誘発、脂質代謝の異常などを引き起こすからだ。

 こうした内臓への脂肪の蓄積を抑制するのにも役立っているのがDHAやEPAだという。それはこんな説明による。

 脂肪細胞には2種類ある。1つは白色脂肪細胞と呼ばれ、脂肪を溜め込む細胞。もう1つが褐色脂肪細胞で、脂肪をエネルギーに変えるのではなく、「体熱」として発散させる機能を持つ細胞だ。つまり、褐色脂肪細胞が多ければ多いほど、また活発に働けば働くほど、内臓脂肪を消費してくれるわけだ。

 ところが、残念なことに成人では褐色脂肪細胞の量は少なく、また、常に内臓脂肪を燃やしているわけではないので、肥満解消・予防には心もとない。しかし、褐色脂肪細胞の働きを活発にする作用を持つのがDHAやEPAだという。動物実験ではその効果は確認されているらしい。ということは、ヒトでもそうであろうと考えるならば、数の子を常食すれば肥満予防につながることが期待できそうだ。

 ご馳走ぜめで正月明けに体重計に載るのが怖いというあなた、もっぱら数の子を食べるのもいいかもしれませんよ。

参考文献:カナディアン・パシフィック・カズノコ協会webサイト
http://www.kazunoko.org/jp/

旭利彦
About 旭利彦 15 Articles
ジャーナリスト あさひ・としひこ 旅行会社勤務の後、スーパーマーケット専門紙「流通ジャーナル」、海外旅行専門誌「トラベルタイムス」(オータパブリケイションズ)、同「トラベルマネジメント」(トラベルコンサルタンツ)での社員編集者勤務を経て、1996年よりフリーランス。「夕刊フジ」「サンケイスポーツ」などで健康および医療・医学分野の契約ライターを担当。その後、「週刊新潮」で連載コラム「よろず医者いらず」、夕刊フジで一般食品の健康的効能を紹介する「旭利彦の食養生訓」、飲食業界専門誌「カフェ&レストラン」で「カフェのヘルシー研究」、経済雑誌「経済界」で50代以上の男性に向けた健康コラム「経営者のための“自力”健康法」を連載。現在は食品専門誌「食品工業」(光琳)、スーパーマーケット専門誌「週刊ストアジャパン」、医療専門誌「月刊/保険診療」(医学通信社)で取材・執筆活動を行っている。主な著書に「よろず医者いらず」(新潮社)、「カフェの『健康食材』事典」(旭屋出版)など。