中国でのハラール食と精進料理

中国では、大きな都市であれば、ベジタリアン・レストランは相当数ある。

食の禁忌

 世界では地域や文化によって、食についての禁忌(タブー)がある。それを規定する重要な要素が宗教で、たとえばイスラム教徒やユダヤ教徒は豚肉などの喫食を禁じている。また、ヒンドゥー教徒には不殺生の考えから畜肉や魚肉を避けるベジタリアンが多い。

 また、宗教以外にも、食に関する規定や選択の文化は多様なものがある。宗教とは無関係にベジタリアンである人々も少なくない。

 一口にベジタリアンと言っても、実際の規範や習慣は多様である。これに関しては、以前の連載「大豆変身物語」の「“セミ・ベジタリアン”のすすめ(https://www.foodwatch.jp/secondary_inds/soybeanclmn/35612/)」に記したので、参考にしてほしい。

 一方、民族の文化として喫食を許容しない例もある。たとえば、欧米では馬を食べることは考えられないという。

 さらに、民族や地域を超えて、多くの現代人が避けるものもある。犬や猫がそうだし、高い知能を持つとされるイルカやクジラを食べることが多くの国々で忌避されている。また、セリアック病など、小麦に含まれるグルテンが関連する各種の疾患への配慮や対応からグルテンフリーの食材や食習慣が紹介されるようになり、それにつれて最近はグルテンを避けることが一部で流行になっている。

ハラールの牛肉麺店

 さて、中国のイスラム教徒(ムスリム)は全体では1.8%程度のようだ(米国政府2010年推計/「世界の信教の自由報告書 2018年版」仮訳:http://www.moj.go.jp/isa/content/930005699.pdf)。

ハラール牛肉麺店の外観。看板の店名の左に「清真」とある。
ハラール牛肉麺店の外観。看板の店名の左に「清真」とある。

 ずいぶん少ない印象を受けるが、それでもムスリム向けにハラールの牛肉麺を提供する店があり、中規模の都市であってもよく見かける。緑色の看板にハラールのマークが描かれるケースが多い。こうした店では、イスラム法(シャリーア)に則った方法で屠畜したハラールの牛肉を使用しているはずである。少し探すと、ハラール食材の専門店舗も見かける。そこではハラールの調味料や各種食材を入手できる。なお、ハラールのことを中国では「清真」と記す。

 筆者もハラールの牛肉麺の店を利用したことがある。わざわざ「牛肉麺」というのだからローストビーフの一切れでも載っているのではないかと期待したが、実態にはサイコロ状の牛肉がチンゲンサイなどの野菜の上に散らばっていただけだった。スープは普通の醤油味だった。

 その店の場合、羊肉の料理は置いていなかった。羊肉の流通量自体が少ないため、ハラールの羊肉の入手は難しいのだろう。そして、ビールが飲みたくなってもハラール料理店であれば望むべくもない。

精進料理

精進料理店の料理。
精進料理店の料理。

 中国の仏教徒の割合は18.2%(米国政府2010年推計/前出)とされており、たとえば小林拳で有名な少林寺(嵩山少林寺)は仏教寺院である。

 仏教関連の食事には、欲情や怒りの心を生じるのを抑えるための精進料理がある。厳格なものでは、獣、鳥、魚の肉を避けるだけでなく、ネギ類などの五葷(ごくん)を避ける。五葷の内容は宗派や地域によって違いがあるが、にんにく、のびる、にら、ねぎ、らっきょうなどである。これに従った食事を中国や台湾などの店では「素食」(スーシー)の名で提供している。

 中国で精進料理を楽しんだことがある。昼食時で食べ放題だったが、大勢の人で混雑していた。炭水化物や野菜、果物が主な食材で、酒類は置いていない。料理として、野菜の炒め物や饅頭類、粥類、麺類が充実していた。訴求しているのは健康である。肉類を避けることが健康によいというのだ。単純すぎる話だが、お客を集めることができているので合格と言える。

About 横山勉 90 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 元ヒゲタ醤油品質保証室長。2010年、横山技術士事務所(https://yokoyama-food-enngineer.jimdosite.com/)を開設し、独立。食品技術士センター会員・元副会長(http://jafpec.com/)。休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(https://ameblo.jp/yk206)。