がむしゃらなチャレンジャー農家の方へ(1)米とトウモロコシに異変の予感

人にはそれぞれの生き方があります。仕事に対する考え方もさまざまです。以下はすべての農業生産者に勧めるものではありません。ヒーローになるために犠牲を厭わないというがむしゃらな人だけが読んでくださればと思います。

糖質抜きダイエットで米需要は減る

「食品別糖質量ハンドブック」(江部康二 監修)

 最近、40代後半の友人たちと会うたびに最初に話題に上るのが、お互いの腹の出具合です。そして、この数カ月、彼らや仕事で出会う同じ年格好の男性がよく話題にするのが、「糖質抜きダイエット」のことです。どうも江部康二氏の著書や、テレビ・雑誌などで取り上げられたことから関心を持ち、実践している人が多いようです。

 国が「メタボ」という流行語を生み出したこと、それと前後してビールや各種の食品で「糖質オフ」を謳う商品が多く出てきたことも、中高年の「糖質」への関心を高めているようです。

「糖質抜きダイエット」――これの元祖は、アメリカの医師ロバート・アトキンス氏が提唱し、2000年頃にアメリカで大ブーム、大論争を巻き起こしたアトキンス・ダイエットでしょう。炭水化物の摂取を減らして脂肪の代謝を高めるというもので、“食えるダイエット”として実践者が増える一方、各種の疾病を誘発する危険が指摘されました。

 いずれにせよ、まだ十分な検証が行われていないダイエット法でしょうから、「やってみる」という方は注意してください。もし取り組む場合も、できれば医師や栄養士に相談してみるのが安全でしょう。

 私の友人たちも、やり方、とくに糖質抜きの程度、効果はさまざまですが、私がとくに関心を持つのは、彼らが「ご飯やパンはそんなに食べなくてもいいと気づいた」というところです。

 なにしろ、アトキンス・ダイエットが流行したアメリカでは、パンやパスタなどの売上げが落ちて、関連業界や穀物生産に少なからぬ影響があったということです。それと同様のことが、日本でもじわじわと起こってくるかもしれません。つまり、米はまださらに売れないものになっていくかもしれないということです。

 私自身は、単位面積当たりから得られるエネルギーの差から、環境負荷と世界的な飢餓軽減のために、肉の消費はなるべく抑えたほうがいいと考える方でした。しかし、やはり腹の少しへこんだ友人たちを見て、実はおそるおそるご飯・パンの量を減らしてみています。

 先日の大渕修一氏の話から考えても、どうも我々はご飯にこだわり過ぎていたように思います。ご飯を食べるために、食事のバラエティが抑制されるということが国民の健康に良からぬ影響を及ぼしているのだとすれば、食生活のあり方を一から考え直したほうがよいように思います。

アメリカ産トウモロコシはもう来ない?

「FOOD 2040」の発表について説明するアメリカ穀物協会のトーマス・C・ドール会長
「FOOD 2040」の発表について説明するアメリカ穀物協会のトーマス・C・ドール会長

 ところで、穀物に関して、私はもう一つ気になっていることがあります。

 アメリカ穀物協会は昨年、今後2040年までの東アジアの食と農業の動向についてのレポート「FOOD 2040――Infinite Opportunities」を発表しました。これには6つの将来予測が含まれますが、2番目の洞察として提示されたのが、「世界の食糧供給システムが中国の中産階級向けに再編される」というものです。

 また、実は同協会はその前年、戦後の日本とアメリカの穀物供給と消費を巡る固い絆についての歴史をまとめる事業を行いましたが、その狙いは日本人への理解促進だけではなく、そのエピソードを非日本語圏の各国にも紹介することにもあったようです。

 これを合わせて考えたとき、これは同協会が言ったことではなく、私が勝手に思い付いたことですが、アメリカは今後、トウモロコシなどの穀物の主要な輸出先を中国にシフトして、日本への輸出量は減らしていきたいと考えているのではないかと思うわけです。

 なにしろ中国の穀物市場は大きい。人口も多ければ、食肉消費量を高めている人々が増えつつある国でもありますから、今後さらに穀物需要は高まるでしょう。それを中国国内で十分まかなえないとしたら。レスター・ブラウンの著書に「だれが中国を養うのか?」というのがありましたが、アメリカはそれに応えるように舵を切っているように見えるのです。

 とは言え、アメリカの穀物生産量にも限界があります。また、シェールガスの話もありながら、一般品種のトウモロコシよりも進んだバイオ燃料用作物の育種というのも依然進めているはずで、これが耕地のある部分をシェアするとすれば、食糧・飼料用トウモロコシの生産量は青天井というわけにはいきません。

 その場合、日本での穀物生産は増やしていくように考えなければならないでしょう。

 それに対して、「日本には余るほど米があるから大丈夫」と考える人もいると思いますが、果たしてそうでしょうか。トウモロコシの長所は、扱いやすいデンプンを安くたくさん供給できるという点です。その役割を、今の日本の価格の米がそのまま担うというのは、ちょっと考えにくい話です。

「いや、心配無用。アメリカは、これからも日本にトウモロコシを供給しますよ」と、アメリカが言ってくれれば、肩の荷は下ります。何しろ、それは安いのです。ビールも、清涼飲料水やパンに必要な異性化糖も、微生物系の増粘多糖類も、アメリカ産トウモロコシがあればこそ発展できたのです。その蜜月が続けば、それほどありがたいことはありません。

 でもどうでしょう。日本がくれと言い続けることは、世界の穀物需給にとってよいことなのでしょうか。日本が「前より多少高くてもいいから」と動けば、それは国際的な穀物相場を引き上げることにつながるでしょう。それは中国にとっても、それよりも需要量は少なくても国内で十分な穀物を生産できないさまざまな国にとっても、迷惑な話ではありませんか。

 古来、飢餓は天候・天災よりも政治やビジネスによる需給の不均衡から起こっています。日本が穀物を買い続けるために、どこかの国で十分食事ができない人が出てしまうという事態を招くことは、日本の国益にかなわないことになるでしょう。

《つづく:2013年7月17日掲載予定》

齋藤訓之
About 齋藤訓之 300 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →