アメリカ版「次郎長三国志」

「ワイルド・スピード」シリーズの食べ物(1)

2001年に第1作「ワイルド・スピード」、2021年に最新作となる第9作「ワイルド・スピード ジェットブレイク」(公式サイト:https://wildspeed-official.jp/)が公開された「ワイルド・スピード」シリーズ(The Fast Saga)を食の視点から2回に分けて時系列順にレビューする。義侠心を持った犯罪者が逃亡の旅を続けるうちに彼の人間性に共感する仲間を増やしていくというストーリーは、日本の任侠時代劇「次郎長三国志」シリーズに通じるものがある。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

「ワイルド・スピード」のツナサンドとビール

The Fast Sagaのはじまりとなった「トレットの雑貨とカフェの店」のツナサンド。
The Fast Sagaのはじまりとなった「トレットの雑貨とカフェの店」のツナサンド。

 第1作「ワイルド・スピード」はロサンゼルスが舞台。ロス市警のおとり捜査官ブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)が、ストリートレーサーのドムことドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)の雑貨とカフェの店を訪れるところから始まる。PanasonicのDVDプレイヤーとデジカメ(2000年当時は現在より高価だった)を満載したトラックが、黒い3台の改造シビッククーペに襲われた強盗事件の潜入捜査である。

 ドミニクの妹ミア(ジューダナ・ブリュースター)の出すツナサンドをまずいと言いながら毎日頼むブライアンを、ミアにほれているドミニクの幼馴染ヴィンス(マット・シュルツ)は煙たがっていて、明日からFATBURGERに行って2ドル95のダブルチーズバーガーを食えと言うが、ブライアンは聞かず喧嘩になってしまう。しかし、そのおかげでドムと知り合ったブライアンは、ストリートレースでドムと競争する機会を得る。

 2000年当時のアメリカでは、トヨタスープラ、日産GT-R、ホンダNSX、マツダRX-7、三菱GTO、スバルWRXといったバブルの余勢をかった日本製スポーツカーを改造してストリートレースをするのがブームになっていて、そうした時代背景が本シリーズの企画に寄与したと言える。レースの最中、警察のガサ入れがあり、逃げ遅れてピンチに陥ったドムをブライアンが救う。ドムは、助けに来ようともせず乱痴気騒ぎを繰り広げていたヴィンスたちからビールを取り上げブライアンに渡す。ドムがブライアンを仲間として認めた瞬間である。

 この他にもバーベキューや電子レンジ用ポップコーン、キューバレストランのシーン等でドム、ブライアン、ミア、ヴィンスらの関係の変化が食べ物を使ってうまく表現されている。

「ワイルド・スピードX2」のギャロ・ピザとハンバーガー

 第2作「ワイルド・スピードX2」(2003)では、容疑者逃亡幇助の罪で警察をクビになり指名手配犯となったブライアンが主人公。逃亡先のマイアミでテズ・パーカー(クリス・リュダクリス・ブリッジズ)が仕切るストリートレースに出ていたところを捕まるが、犯罪歴の帳消しと引き換えに麻薬密売組織への潜入捜査を持ちかけられたブライアンは、相棒となる捜査官に尋ねる。

「GT-R用のモーターにはギャロ12とギャロ24、どっちがいいかな」

 これにあてずっぽうで「24」と答えた捜査官。彼が飲んでいるドリンクのカップを指してブライアンは一言。

「ギャロはそのピザ屋の名前だ」

 車の知識のある相棒を選ぶことを条件にしたブライアンは、故郷のバーストーに戻り、刑務所を仮出所中の幼馴染ローマン・ピアース(タイリース・ギブソン)に声をかける。ローマンは自分が車の窃盗罪で捕まったのはブライアンのせいだと思い込んでいて、いったんは申し出を断るが、犯罪歴が帳消しになると聞いて渋々承諾する。

 毒舌・粗暴で目の前にあるものは何でもくすねてしまうローマンは、逃亡を疑い発砲してきた捜査官に怒りを爆発させ、彼が買ってきたハンバーガーを横取りしてしまう。第3作「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」(2006)から登場するハン(サン・カン)に負けず劣らずいつも何か食べているローマン。ブライアンがその理由を尋ねると、「刑務所でまずい飯を食わされたからな。食える時に食っておかないと」という返事。こうしたユーモアのある会話を積み重ねることで、ブライアンへの信頼を少しずつ回復させていく様子が描かれている。

「ワイルド・スピードMAX」のオイスターペイル

 第4作「ワイルド・スピードMAX」(2009、第3作は時系列的には第6作の後になる)は第1作の5年後の設定。ドムは逃亡先のドミニカでレティ、ハン、テゴ(テゴ・カルデロン)、リコ(ドン・オマール)とタンクローリー強盗で日銭を稼いでいたが、追っ手が迫っていることを察知し、仲間の安全を考えて単身パナマに去る。そのドムにミアから、レティが殺されたとの知らせが入る。

 一方、ブライアンはマイアミでの活躍でFBIに迎えられ、麻薬密輸組織の捜査にあたっていたが、その過程でレティを殺した犯人への復讐のためにアメリカに帰国していたドムと再会。再びコンビを組み、運び屋として麻薬密輸組織に潜入する。メキシコへの輸送を終えた二人は麻薬密輸組織に始末されそうになるが、命からがら脱出する。

 傷の手当のためにミアの家に逃げ込んだドムとブライアンは、ミアと3人でオイスターペイル(本連載第178回参照)に入った中華料理の食卓を囲む。つかの間の休息の“静”と、ドムがレティの遺品からあるものを見つけた後の“動”のコントラストが絶妙なシーンである。

「ワイルド・スピードMEGA MAX」のドム・ファミリー勢揃い

 第5作「ワイルド・スピードMEGA MAX」(2011)の舞台はリオデジャネイロ。懲役25年の刑をくらったドムを護送中に奪還したブライアンとミア。彼らはヴィンスと再会する。

 ドムとブライアンはヴィンスに紹介された車泥棒の仕事で危機に陥るが、そのおかげでリオの裏社会を牛耳る黒幕の闇金の存在が判明。ミアとの間に生まれてくる新しい命のために足を洗うことを決意したブライアンとドムは、最後の大仕事のために仲間を呼び寄せる。ブライアン・コネクションのローマンとテズ、ドム・コネクションのハン、テゴ、リコに加え前作で麻薬密輸組織の運び屋を指揮していたジゼル・ヤシャール(ガル・ガドット)が集結。この面子が最新作に至るまでのドム・ファミリーのベースになっている。

 冒頭に述べた「次郎長三国志」シリーズ(本連載第23回参照)も清水次郎長が兇状旅のさなかに出会った桶屋の鬼吉、関東綱五郎、大政、小政、増川仙右衛門、法印大五郎、森の石松、追分三五郎、大野の鶴吉、三保の豚松といった個性豊かな面々が次郎長親分の人柄にほれ、一人また一人と子分になっていく様子が描かれており、国は違うが人の関わり合いの類似性が見られる。


【ワイルド・スピード】

「ワイルド・スピード」(2001)
作品基本データ
原題:The Fast and The Furious
製作国:アメリカ
製作年:2001年
公開年月日:2001年10月20日
上映時間:107分
製作会社:メディアストリーム・フィルム、ニール・H・モリッツ・プロダクション(ユニバーサル映画提供)
配給:UIP
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ロブ・コーエン
脚本:ゲイリー・スコット・トンプソン、エリック・バーグキスト、デヴィット・エイヤー
原案:ゲイリー・スコット・トンプソン
製作総指揮:ダグ・クレイボーン、ジョン・ポーグ
製作:ニール・モリッツ
撮影:エリクソン・コア
美術:ウォルドマー・カリノウスキー
音楽:BT
音楽監修:ゲイリー・ジョーンズ、ハッピー・ウォルターズ
編集:ピーター・ホネス
衣装デザイン:サーニャ・ミルコヴィック・ヘイズ
キャスト
ブライアン・オコナー:ポール・ウォーカー
ドミニク・トレット:ヴィン・ディーゼル
レティ・オルティス:ミシェル・ロドリゲス
ミア・トレット:ジューダナ・ブリュースター
ジョニー・トラン:リック・ユーン
ジェシー:チャド・リンドバーグ
レオン:ジョニー・ストロング
ヴィンス:マット・シュルツ
タナー巡査部長:テッド・レヴィン
エドウィン:ジャ・ルール

(参考文献:KINENOTE)


【ワイルド・スピードX2】

「ワイルド・スピードX2」(2003)
作品基本データ
原題:2 Fast 2 Furios
製作国:アメリカ
製作年:2003年
公開年月日:2003年8月23日
上映時間:108分
製作会社:ニール・H・モリッツ・プロダクションズ、オリジナル・フィルム(ユニバーサル映画提供)
配給:UIP
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジョン・シングルトン
脚本:マイケル・ブランド、デレック・ハース
原案:マイケル・ブランド、デレック・ハース、ゲイリー・スコット・トンプソン
エクゼクティブ・プロデューサー:リー・R・メイズ、マイケル・フォトレル
製作:ニール・モリッツ
撮影:マシュー・F・レオネッティ
音楽:デイヴィッド・アーノルド
編集:ブルース・キャノン、ダラス・ピュエット
キャスト
ブライアン・オコナー:ポール・ウォーカー
ローマン・ピアース:タイリース・ギブソン
モニカ・フェンテス:エヴァ・メンデス
カーター・ベローン:コール・ハウザー
テズ・パーカー:クリス・リュダクリス・ブリッジズ
ビルキンス捜査官:トム・バリー
マーカム捜査官:ジェームズ・レマー
スーキー:デヴォン青木
オレンジ・ジュリウス:アマウリー・ノラスコ
スラップ・ジャック:マイケル・イーリー

(参考文献:KINENOTE)


【ワイルド・スピード MAX】

「ワイルド・スピード MAX」(2009)
作品基本データ
原題:FAST & FURIOUS
製作国:アメリカ
製作年:2009年
公開年月日:2009年10月9日
上映時間:107分
製作会社:オリジナル・フィルム(ユニバーサル映画提供)
配給:東宝東和
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジャスティン・リン
脚本:クリス・モーガン
製作総指揮:アマンダ・ルイス、サマンサ・ヴィンセント
製作:ニール・H・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、マイケル・フォトレル
キャラクター設定:ゲイリー・スコット・トンプソン
撮影監督:アミール・モクリ
プロダクション・デザイン:アイダ・ランダム
音楽:ブライアン・タイラー
音楽監修:キャシー・ネルソン
編集:クリスチャン・ワグナー、フレッド・ラスキン
衣装デザイン:サーニャ・ミルコヴィッチ・ヘイズ
キャスティング:サラ・ハリー・フィン、ランディ・ヒラー
プロダクション・マネージャー:サラ・E・ホワイト、マイケル・フォトレル
視覚効果:ロリ・J・ネルソン
視覚効果監修:サディアス・バイヤー、マイケル・J・ワッセル
キャスト
ドミニク・トレット:ヴィン・ディーゼル
ブライアン・オコナー:ポール・ウォーカー
ミア・トレット:ジョーダナ・ブリュースター
レティ・オルティス:ミシェル・ロドリゲス
レイモン・カンポス:ジョン・オーティス
フェニックス・カルデロン:ラズ・アロンソ
ジゼル・ヤシャール:ガル・ギャドット
ペニング捜査官:ジャック・コンレイ
スタジアック捜査官:シェー・ウィガム
トリン捜査官:ライザ・ラピラ
ハン:サン・カン
テゴ・レオ:テゴ・カルデロン
リコ・サントス:ドン・オマール

(参考文献:KINENOTE)


【ワイルド・スピード MEGA MAX】

「ワイルド・スピード MEGA MAX」(2011)
作品基本データ
原題:FAST FIVE
製作国:アメリカ
製作年:2011年
公開年月日:2011年10月1日
上映時間:130分
製作会社:Universal Pictures, Original Film, One Race Productions
配給:東宝東和
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジャスティン・リン
脚本:クリス・モーガン
製作総指揮:ジャスティン・リン、アマンダ・ルイス、サマンサ・ビンセント
製作:ニール・H・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、マイケル・フォトレル
キャラクター創造・原案:ゲイリー・スコット・トンプソン
撮影:スティーヴン・F・ウィンドン
美術:ピーター・ウェンハム
音楽:ブライアン・タイラー
編集:クリスチャン・ワグナー、ケリー・マツモト、フレッド・ラスキン
キャスト
ドミニク・トレット:ヴィン・ディーゼル
ブライアン・オコナー:ポール・ウォーカー
ミア・トレット:ジョーダナ・ブリュースター
ルーク・ホブス:ドウェイン・ジョンソン
エレナ・ネベス:エルサ・パタキー
ローマン・ピアース:タイリース・ギブソン
テズ・パーカー:クリス・リュダクリス・ブリッジズ
ハン:サン・カン
テゴ・レオ:テゴ・カルデロン
リコ・サントス:ドン・オマール
ジゼル・ヤシャール:ガル・ガドット
ヴィンス:マット・シュルツ
エルナン・レイエス:ホアキン・デ・アルメイダ

(参考文献:KINENOTE)

About rightwide 279 Articles
映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。