食事で振り返るエヴァシリーズ

現在公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」は、1995〜1996年放映のTVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」と、TV版とは異なる結末を描いた劇場版「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」(1997)(※以上を旧劇と総称)をリメイクした「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」/「:序」(2007)、「:破」(2009)、「:Q」(2012)の完結編である。

「宇宙戦艦ヤマト」(1974)、「機動戦士ガンダム」(1979)に続くSFアニメのエポックメイキングであり、TV放映から26年を経た現在も根強い人気を博している「エヴァンゲリオン」シリーズ。今回は食べ物という切り口からその魅力について述べていく。

※注意!! 新作を含め旧作についてもネタバレを防ぐよう注意を払っていますが、説明上ストーリーの一部に触れる部分があることをご了承ください。

偏食家のプライベートフィルムの一面

 世界人口の半数を失う大災厄「セカンド・インパクト」から15年後の近未来が舞台。特務機関NERV(ネルフ)の総司令・碇ゲンドウ(声・立木文彦)の息子で14歳の少年・碇シンジ(声・緒方恵美)は、作戦部長・葛城ミサト(声・三石琴乃)の指揮のもと、経歴不明の謎の少女・綾波レイ(声・林原めぐみ)ら同じ年齢の子供たちと共に汎用人型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオンに乗り込み、人類を守るという名目で「使徒」と呼ばれる謎の生命体と戦う、というのがおおまかな内容である。

「:序」では、父から疎んじられているシンジをミサトが引き取りマンションで同居することになるのだが、ミサトの自宅での生活はNERV本部での凛々しさとは裏腹にずぼらでだらしないものである。部屋は空き缶、酒瓶、ごみ袋等で散らかり放題。冷蔵庫には氷とつまみと缶ビールしか入っておらず、食事もコンビニ弁当、レトルト食品、缶詰、カップラーメン、スナック菓子等、健康配慮など一切ないと思わせるものばかり。缶ビールを一気飲みして「プッハー!! くぅー! やっぱ人生この時のために生きてるようなもんよね〜」とつぶやくミサトの姿はまるで中年オヤジのよう。裏を返せばこうしたストレス発散が必要なほど任務のプレッシャーにさらされていると思わせる。

「:破」からはドイツ帰りのエヴァンゲリオン2号機パイロット・式波(旧劇では惣流)・アスカ・ラングレー(声・宮村優子)も合流するのだが、アスカも家事をするようなタイプではなく、食事や弁当作りは専らシンジの役目となる。

 一方、レイが一人で住む団地の部屋は、ミサトの部屋とは対照的に生活感がない。血で染まった包帯、大量の錠剤やカプセル、ビーカーに注がれた水等が殺風景さを強調していて、寡黙で感情を表に出さないレイの性格を反映したものになっている。彼女の食事のシーンはほとんどなく、また、TV版の第拾弐話では肉嫌いが明らかに。

 レイの肉嫌いは、「肉と魚は一切食べられない」と言われる総監督の庵野秀明がモデルであることは有名な話で、先日放映されたNHKのドキュメンタリー「プロフェッショナル仕事の流儀・庵野秀明スペシャル」でも庵野の偏食ぶりが紹介されていた。ミサトのザンネンな食生活も同様で、こうした作り手の自己投影が、社会的影響力の大きな大作でありながらプライベートフィルムでもあるという二面性を作品に与えている。

開かれなかった食事会

「破」でシンジがアスカに作った弁当。たこさんウインナー、コロッケ、だし巻き卵、サラダスパゲティ+ブロッコリー+プチトマト、ふりかけごはんという内容。レイ用はたこさんウインナー抜きと思われる。
「破」でシンジがアスカに作った弁当。たこさんウインナー、コロッケ、だし巻き卵、サラダスパゲティ+ブロッコリー+プチトマト、ふりかけごはんという内容。レイ用はたこさんウインナー抜きと思われる。

「:破」ではシンジ、レイ、アスカと鈴原トウジ(声・関智一)、相田ケンスケ(声・岩永哲哉)ら中学校のクラスメートたちがある施設に見学に行くシーンがあり、昼にシンジが作ってきた弁当を広げるのだが、レイは肉が食べられないため箸をつけない。それを見たシンジは魔法瓶に入れてきたわかめと豆腐入りの味噌汁を「温まるよ」と差し出し、それに口をつけたレイは「おいしい」とつぶやく。

 また別の日、昼休みの中学校教室。いつも昼食を食べていないことを心配して手作り弁当を差し出したシンジにレイは「ありがとう」と言う。

 それまでのレイは、ゲンドウの命令を待っているだけで自分の意志がないように見えたが、この「おいしい」と「ありがとう」という、食べ物をきっかけとした初めての言葉を発してからは、まるで自我が芽生えたかのように積極的になり、ゲンドウに次のように問いかける。

「食事って 楽しいですか」

「誰かと一緒に食べるって うれしいですか」

「料理って作ると喜ぶ ですか」

「碇指令、今度碇くんやみんなと食事 どうですか」

 誰もが食事について当たり前に思っていることを学習し、自分が企画した食事会のために料理まで練習し始めたレイの変化は、「自分ひとりで生きる」ことを決意していたアスカにも影響を与えていく。

 シンジのことをどう思っているのか、アスカに聞かれたレイはこう答える。

「碇くんと一緒にいるとぽかぽかする。私も碇くんに、ぽかぽかして欲しい。碇司令と仲良くなって、ぽかぽかして欲しい」

“ぽかぽか”という副詞。元は味噌汁の温かさだったものが、レイの中で心の温かさに昇華しているところが興味深い。結局食事会はある事情によって実現しないのだが、その後のシリアスな展開と好対照をなすヒューマンドラマパートとして強い印象を残している。ちなみにこのパートは、TV版ではトウジと学級委員長の洞木ヒカリ(声・岩男潤子)の弁当をめぐるエピソードだったのが、新劇場版では人物関係がメインキャラに圧縮され、よりわかりやすい形で描かれている。

コミュニケーションツールとしての食べ物

 旧劇とは全く異なる展開となった「:Q」では、食べ物に関しては「2001年宇宙の旅」(1968、本連載第29回参照)のディスカバリー号の宇宙食のようなものしか出てこなかったが、「シン…」ではどうだろうか。筆者が注目した食べ物を2つだけ挙げておきたい。

 一つはレーション(軍用の戦闘食)。あるレーションがシンジ、アスカ、アヤナミレイ(仮称)を結ぶコミュニケーションツールとして機能する描写が印象に残った。

 もう一つは「:破」でミサトの元恋人・加持リョウジ(声・山寺宏一)が西瓜を育てていたが、それにまつわるエピソードも興味深かった。


【シン・エヴァンゲリオン劇場版】

公式サイト
https://www.evangelion.co.jp/final.html
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2020年
公開年月日:2021年3月8日
上映時間:155分
製作会社:カラー
配給:東宝、東映、カラー
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
総監督・企画・原作・脚本:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一
台詞演出:山田陽
特技監督:山田豊徳
エグゼクティブ・プロデューサー:緒方智幸
制作統括プロデューサ:岡島隆敏
アニメーションプロデューサー:杉谷勇樹
総作画監督:錦織敦史
作画監督:井関修一、金世俊、浅野直之、田中将賀、新井浩一
デザインワークス:山下いくと、渭原敏明、コヤマシゲト、安野モヨコ。高倉武史、渡部隆
設定制作:田中隼人
コンセプトアートディレクター:前田真宏
撮影監督:福士享
美術監督:串田達也
音楽:鷺巣詩郎
テーマソング:宇多田ヒカル
録音:住谷真
音響効果:野口透
編集:辻田恵美
副監督:谷田部透湖、小松田大全
総監督助手:轟木一騎
CGIアートディレクター:小林浩康
CGI監督:鬼塚大輔
色彩設計:菊地和子
キャスト(声の出演)
碇シンジ:緒方恵美
綾波レイ:林原めぐみ
式波・アスカ・ラングレー:宮村優子
真希波・マリ・イラストリアス:坂本真綾
葛城ミサト:三石琴乃
赤木リツコ:山口由里子
渚カヲル:石田彰
碇ゲンドウ:立木文彦
冬月コウゾウ:清川元夢
鈴原トウジ:関智一
相田ケンスケ:岩永哲哉
鈴原ヒカリ:岩男潤子
伊吹マヤ:長沢美樹
青葉シゲル:子安武人
日向マコト:優希比呂
高雄コウジ:大塚明夫
鈴原サクラ:沢城みゆき
長良スミレ:大原さやか
北上ミドリ:伊瀬茉莉也
多摩ヒデキ:勝杏里
加持リョウジ:山寺宏一
加持リョウジ(少年):内山昂輝
碇シンジ(大人):神木隆之介

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。