“家族の酒”復活への道のり

[319] 「駒田蒸留所へようこそ」から

1923年、大阪府島本町山崎に日本初となるウイスキーの蒸留所が造られた。寿屋(現サントリー)の山崎蒸溜所である。それから百年、技術者たちが研鑽を積んだ結果、今日のジャパニーズは、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアンと並ぶ世界五大ウイスキーの一つに数えられるまでになった。日本の酒類の輸出金額を見ると、日本のウイスキー輸出額は2001年以降いったん落ち込んだが、2020年にはウイスキーが20年ぶりに日本酒を抑えてトップに立っており(※1)、ブームと呼べる状況にある。

 このウイスキーブームのなか、サントリー、ニッカ、キリンといった大手以外のクラフトウイスキー(地ウイスキー)にも注目が集まっており、新規参入する企業や蒸留所の新設も増えている。先日公開された「駒田蒸留所へようこそ」は、親子三代にわたるクラフトウイスキーの蒸留所を守ろうと奮闘する若き女社長、駒田琉生るい(声:早見沙織)を主人公とした劇場アニメである。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

記者の成長物語と家族の絆の物語

 本作は、富山県南砺市に本社を置くアニメ制作会社「P.A.WORKS」の「お仕事シリーズ」の最新作で、その劇場アニメとしては、石川県の温泉旅館を舞台にした「劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME」(2013)、東京都武蔵野市のアニメ制作会社を舞台にした「劇場版 SHIROBAKO」(2020)に続く3作目である。

 舞台である「御代田酒造・駒田蒸留所」のモデルとなったのは、富山県砺波市の若鶴酒造・三郎丸蒸留所である。この蒸留所はP.A.WORKS本社の隣町に立地し、本作では若鶴酒造・三郎丸蒸留所CEOの稲垣貴彦がウイスキー監修を務めているほか、作中にも三郎丸蒸留所の名前が出てくる。ところが駒田蒸留所の所在地を富山ではなく長野県御代田町と設定したのは、2011年の閉鎖後、“幻のウイスキー”としてオークションなどで高値で取引されているウイスキーの名品を製造した軽井沢蒸留所(オーシャン、後にメルシャン)が念頭にあるものと思われる。

 本作には、二つのストーリー軸がある。

 一つは、東京のニュースサイト「News Value Japan」の駆け出し記者、高橋光太郎(声:小野賢章)の目を通したもの。高橋の上司でウイスキー愛好家の安元(声:細谷佳正)の企画で、琉生と共に各地の蒸留所を取材することになった高橋。ウイスキーの知識はゼロで、仕事にやりがいを見出せないでいた高橋が取材を通して、10年前に失われた“幻のウイスキー”「KOMA」を復活させようとする琉生たち駒田蒸留所の人々の熱意に接し、「KOMA」の復活を記事にすることにやりがいを見出すという成長物語である。

 もう一つの軸は、“家族の酒”でもあった「KOMA」を失ってバラバラになった家族の絆を、「KOMA」復活によって取り戻そうとする琉生たち駒田家のドラマである。ちなみに「KOMA」は駒田の駒ではなく、正月に回す独楽こまのことである。実はこれに「KOMA」復活のカギが秘められているのだが、詳細は実際に映画を御覧いただきたい。

災害と時代についえた名酒

琉生が最初に手掛けたブレンデッドウイスキー「わかば」(左)と、“幻のウイスキー”「KOMA」(右)。
琉生が最初に手掛けたブレンデッドウイスキー「わかば」(左)と、“幻のウイスキー”「KOMA」(右)。

 なぜ駒田蒸留所の看板商品だった「KOMA」が作られなくなってしまったのか。これには二つの要因があった。一つが天災。地震によってウイスキーの原酒作りに必要不可欠なポットスチル(単式蒸留器)が壊れて使えなくなり、「KOMA」の原酒の一部も失われてしまった。

 なお、この地震はパンフレットなどによると東日本大震災となっているが、この時観測された御代田町の震度は4であった※2。そして回想シーンの背景に映り込むカレンダーが2009年となっているところがモヤっとするところで、架空の大地震と考えた方がよさそうだ。

 もう一つの要因が、“ウイスキー冬の時代”という市場の変化である。日本のウイスキー市場は、戦後の経済成長と歩調を合わせるように需要が伸びてきたが、1980年代をピークに消費量が減少。この下降線は“ハイボールブーム”が起こる2000年の00年代後半まで続いた※3。ウイスキーは仕込んでから貯蔵して熟成させるため出荷まで年単位の時間を要する商品だ。今売れておらずこの先に売れる見通しも立たない時代に、これからポットスチルを再建してウイスキーを仕込んだとしても、たとえばそれの出荷が見込まれる10年後まで会社を維持できるのか。ここに至って琉生の父である先代社長の滉(声:堀内賢雄)は、ウイスキーの製造を止め、今後は焼酎「いと」の製造に注力するという決断を下す。

「KOMA」を作れなくなることに反発した琉生の兄・圭(声:中村悠)は駒場蒸留所を去って大手酒造会社に就職する。苦しい経営の中で無理を続けた滉は2014年に亡くなり、琉生の母・澪緒(声:井上喜久子)は会社をたたもうとする。そこへ東京の美大に通っていた琉生が帰郷。琉生は美大を中退し、貯蔵庫に残っている原酒をもとにウイスキーを作らせてもらえないかと母に懇願する。

 新社長に就任した琉生と駒場蒸留所の社員たちが1年がかりで作り上げたブレンデッドウイスキー「わかば」は起死回生のヒットとなり、琉生はウイスキー業界に突如現れた新星ブレンダーとして業界の注目を浴びる。そして2019年、クラウドファンディングで集めた資金でポットスチルを再建。ウイスキーの原酒作りを再開した、というのが本作のバックグラウンドである。

独特過ぎるテイスティングノート

「KOMA」は、先代社長がウイスキー作りを止めた際にすべて売却してしまったため、会社には1本も残っていない。それでも「KOMA」を復活させるには、さまざまな原酒のサンプルを集めてブレンドし、「KOMA」の香りや味に迫る必要があった。琉生は高橋との取材の後で各蒸留所に頼んで原酒を試飲させてもらう。もう一つ、琉生が各蒸留所の担当者に頼んでいるのがテイスティングノートを見せてもらうこと。テイスティングノートとは、いろいろなウイスキーの香りや味を書き留めた覚書のようなもので、書き手によってさまざまな表現方法がある。高橋は記事のページビューを伸ばすため、琉生自身のテイスティングノートを見せてほしいと頼むが、琉生は頑なに拒否する。実は琉生のテイスティングノートはあまりにも表現方法が独特過ぎて、それがストーリーにも大きく関わってくるのだが、それも映画を観てのお楽しみである。

 その他にも、接触の悪い貯蔵庫の照明や、安元の机にいつも置いてある味噌饅頭など、さまざまな仕掛けが用意されていて、よく練られた脚本だと感じた。

「KOMA」復活をリアルで

 実は映画の公開と並行して、「劇場アニメ『駒田蒸留所へようこそ』幻のウイスキー『KOMA』復活プロジェクト」が実際に進行中である。これは、本作のウイスキー監修を務めた若鶴酒造・三郎丸蒸留所CEOの稲垣貴彦と、シングルモルト通販モルトヤマ店主の下野孔明が共同で立ち上げたジャパニーズウイスキーボトラーズT&T TOYAMAが主体となり、本作て登場する「KOMA」と「わかば」の再現に挑戦するというもの。

 プロジェクトの資金はクラウドファンディングで賄い、支援者には金額に応じて、2024年4月27日(土)に三郎丸蒸留所で行われるP.A.WORKSの堀川憲司社長と本作の吉原正行監督のトークイベント&サイン会&特別上映会(蒸留所見学・パーティー付き)への招待、完成した「KOMA」、「わかば」、映画オリジナルジャケット、Tシャツ、映画の特製図録、「KOMA」に使用した樽への名前記載&三郎丸蒸留所での展示(法人限定)、御礼メールなどさまざまなリターンが用意されている。

 2023年11月10日にクラウドファンディングが開始されると、開始から3時間あまりで目標金額の1,000万円を達成し、12月14日0時現在で48,401,500円が集まっている。12月24日の募集終了までには5,000万円にも達しそうに思われる。この勢いは、ウイスキーのコアなファンが数多く存在することの証明と言えるだろう。

「KOMA」のフルボトルの付くリターン枠についてはすでに予定生産数量に達しているため選択できないが、「わかば」のフルボトルと「KOMA」のミニボトルの付いた枠は12月14日0時現在まだ残っている。興味のある方は急ぎチェックされたい。

劇場アニメ「駒田蒸留所へようこそ」幻のウイスキー「KOMA」復活プロジェクト(CAMPFIRE)
https://camp-fire.jp/projects/view/651044

《参考文献》

数字で見るジャパニーズウイスキーの現在(ウイスキー文化研究所)
https://jwic.jp/story/trend/220517_01/
気象庁:「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」による各地の震度
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/gaikyo/monthly/201212/201212nen_furoku_5.pdf
国税庁:令和5年6月酒のしおり p.30 7 酒類課税数量の推移(国税局分及び税関分の合計)
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2023/pdf/0001.pdf

【駒田蒸留所へようこそ】

公式サイト
https://gaga.ne.jp/welcome-komada/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2023年
公開年月日:2023年11月10日
上映時間:91分
製作会社:DMM.com(アニメーション制作:P.A.WORKS)
配給:ギャガ
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:吉原正行
脚本:木澤行人、中本宗応
原作:KOMA復活を願う会
キャラクター原案:高田友美
キャラクターデザイン、総作画監督:川面恒介
撮影監督:並木智
美術監督:竹田悠介
音楽:加藤達也
編集:高橋歩
3D監督:市川元成
色彩設計:田中美穂
ウイスキー監修:稲垣貴彦
キャスト(声の出演)
駒田琉生:早見沙織
高橋光太郎:小野賢章
河端朋子:内田真礼
安元広志:細谷佳正
東海林努:辻親八
斉藤裕介:鈴村健一
駒田滉:堀内賢雄
駒田澪緒:井上喜久子
駒田圭:中村悠

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。