北欧の人々の心を解かす薬膳

「世界で一番しあわせな食堂」から

毎年国連が発表している「世界幸福度ランキング」というものがある。国民に自らの幸福度を問う世論調査結果に、一人当たりGDP、社会的支援、健康寿命、人生選択の自由度、寛容さ、腐敗の認識を加味して導き出したものだ。その直近3年(2018〜2020年)の結果では、日本は54位→58位→62位と後退し続けているのだが、3年連続で1位を維持しているのがフィンランドだ。

World Happiness Report
https://worldhappiness.report

 さて、現在公開中の「世界で一番しあわせな食堂」は、そのフィンランド北部、ラップランドの小さな村を訪れた中国人が、おいしい料理で人々を幸せにしていくドラマである。

恩返しの麺料理

 ラップランドの架空の村、ポポヤンヨキで若い女性シルカ(アンナ・マイヤ・トゥオッコ)が一人で営む小さな食堂に、チェン(チュー・パック・ホング)とニュニョ(ルーカス・スアン)の中国人親子がやって来る。上海から来たチェンは彼の地で世話になったフォントロンという人物を探しにきたのだが、シルカも、常連客のロンパイネン(カリ・ヴァーナネン)やヴィルプラ(ヴェサ・マッティ・ロイリ)らもフォントロンのことを知らない。途方に暮れたチェン親子にシルカは空き部屋を貸してやり、チェンは聞き込みを続ける。

 そんな中、食堂に中国人の観光ツアー団体客が押し寄せる(本作はコロナ禍前の2019年の撮影)。一行はポテトとソーセージしかないメニューに飽き足らず、すしはないかと言い出す始末。シルカの困った様子を見たチェンは、自ら料理を作ることを買って出て、隣のスーパーマーケットで調達した食料で絶品の麺料理を作り団体客を満足させる。チェンが上海の高級中国料理店のシェフだったことを知ったシルカは、食堂の料理を手伝ってくれればフォントロン探しを手伝うという取引を持ちかけ、チェンは了承する。

 チェンの料理は中国人ガイドたちの間で評判となり、シルカの食堂は大盛況となる。

「医食同源」と薬膳料理

チェンがシルカのために作った薬膳スープ。
チェンがシルカのために作った薬膳スープ。

 最初は中国料理なんて嫌だといっていたロンパイネンやヴィルプラも、地元の野菜や川魚、トナカイの肉をアレンジしたチェンの料理のおいしさの虜になっていく。それだけでなくチェンの料理を食べるようになってから、生活習慣病や持病が改善し健康になったという常連客が続出する。チェンの料理は「医食同源」の思想に基づく薬膳料理でもあったのだ。

 これを端的に表したのが、生理痛を訴えるシルカのために作った薬膳スープ。白身魚にショウガ、クコの実、香菜等が入ったシンプルなレシピだが、よく噛んで飲むだけで体の調子を整えてくれる機能を持つ。これがきっかけでチェンとシルカの距離が縮まっていく作劇的にも意味のある料理となっている。

 そんなある日、思わぬことからフォントロンの消息が明らかになり……。

異文化共生に挑む兄弟

 本作の監督、ミカ・カウリスマキは2002年のカンヌ国際映画祭でグランプリと主演女優賞を受賞した「過去のない男」(本連載第22回参照)等で知られるアキ・カウリスマキの兄であり、弟と並びフィンランドを代表する映画監督である。弟も近作「希望のかなた」(2017、本連載第165回参照)でシリア難民を受け入れる日本食(風)レストランを舞台にしており、異文化の共生というテーマは兄弟で共通している。

※編集部註:薬膳料理の“効能”は劇中のものです。日本においては、疾病の治療や予防効果の表示・広告は、医薬品としての承認を取得して初めて可能になります。


【世界で一番しあわせな食堂】

公式サイト
https://gaga.ne.jp/shiawaseshokudo/
作品基本データ
原題:Mestari Cheng
製作国:フィンランド、イギリス、中国
製作年:2019年
公開年月日:2021年2月19日
上映時間:114分
製作会社:Marianna Films, By Media, Han Ruanyan He
配給:ギャガ
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ミカ・カウリスマキ
脚本:ハンヌ・オラヴィスト
潤色:ミカ・カウリスマキ、サミ・ケスキ・ヴァハラ
製作:ミカ・カウリスマキ、イアン・ブラウン、ユー・チュンイー
撮影:ヤリ・ムティカイネン
美術:マリア・ハルコネン
音楽:アンシ・ティカンマキ、エリヤス・ティカンマキ
音響効果:ヘイッキ・コシ、ピエツ・コルホネン
衣裳デザイン:アンナ・ビルプネン
メイクアップ:マルユト・サムリン
キャスト
シルカ:アンナ・マイヤ・トゥオッコ
チェン:チュー・パック・ホング
ニュニョ:ルーカス・スアン
ロンパイネン:カリ・ヴァーナネン
ヴィルプラ:ヴェサ・マッティ・ロイリ

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。