王様のマンゴー。異能の生卵

スポーツ映画の食(6)

2020年の東京オリンピック開催にちなみ、スポーツを題材とする映画とその中に登場する食べ物にスポットを当てるシリーズの6回目。今回はオリンピックに加え2年後の2022FIFAワールドカップ・アジア予選も始まっているサッカーを取り上げる。

「ペレ 伝説の誕生」のマンゴー

 2016年製作の「ペレ 伝説の誕生」は、ワールドカップの代表選手として1958、1962、1970年の3度にわたりブラジルを世界一に導き「サッカーの王様」と呼ばれたペレ(本名エドソン・アランテス・ド・ナシメント)の少年時代からブラジル代表として成功を収めるまでの軌跡を描いた伝記映画である。

 1950年サンパウロ州バウル、当時10歳のヂッコ(Dico=ペレの少年時代の愛称)は、靴磨きで貧しい家計を助けながらスラム街の狭いストリートをピッチ代わり、丸めた服をボール代わりに、裸足で仲間たちとサッカーのリフティング・ゲームに興じていた。ある日、ヂッコの母セレステ(マリアナ・ヌネス)がメイドとして働く金持ちの家で、ヂッコは後にワールドカップのブラジル代表チームでチームメイトになるジョゼと出会う。このときヂッコが好きなゴールキーパー選手、ビレのことを訛ってペレと発音したことが後の愛称の由来となった。

 少年サッカー大会に出場したヂッコと仲間たちの“裸足軍団”はブラジル伝統のジンガ(サンバのような独特のリズムで身体を動かす技)サッカーを展開し決勝戦に進出するが、対戦相手のジョゼたち金持ちチームに裸足をからかわれたことから、スパイクを手に入れるために貨物列車に積まれていたピーナツを盗んでしまう。ところが、ピーナツを売った金で買った中古のスパイクはサイズが大き過ぎてかえって邪魔になり、脱いで反撃に出ることに。しかしあと一歩及ばずに試合に負け、ピーナツの荷主には追われ、逃げる途中に仲間の一人が土砂崩れに巻き込まれて命を落としてしまう。

「ペレ 伝説の誕生」より。マンゴーの木の下で実をボール代わりに練習する少年時代のペレ。
「ペレ 伝説の誕生」より。マンゴーの木の下で実をボール代わりに練習する少年時代のペレ。

 ショックを受けたヂッコはサッカーを封印し、勉強に専念しながら放課後は父の仕事(病院のトイレ掃除)を手伝い始める。そんなヂッコを見かねた元サッカー選手だった父ドンジーニョ(セウ・ジョルジ)は、マンゴーの木から実をもいでサッカーボールの代わりにしてみせる。青くて固い実はシュート練習に、赤く熟した実は球さばきの練習に使う。マンゴーの実はいびつな形なのでシュートは真っ直ぐ飛ばず、熟して軟らかい実をつぶさないためには優しく丁寧なコントロールが必要だ。最初は見ているだけだったヂッコもやってみたい衝動を抑えられなくなり、ついに自分でもマンゴーを蹴り始め、父子二人の練習が始まる。なかなかうまくマンゴーを操れずに焦るヂッコを父が諭す。

「ムキにならず楽しめ。おのずとできるようになる」

 そして蹴り上げたマンゴーが空から落ちてきたのをトラップするのは15歳のペレという時間を跳躍した大胆な編集で、彼のサッカー技術の上達ぶりを示している。

 本作はペレ本人がエグゼクティブプロデューサーを務めている。劇中の1958年ワールドカップスウェーデン大会に史上最年少で出場したペレが、ストックホルムのホテルでチームメイトとジンガのリズムでリフティングしている際、ホテルのロビーでお茶を飲んでいた特別出演のペレ本人とニアミスを起こすのも楽しい場面である。

「少林サッカー」の生卵と饅頭

 2001年製作、チャウ・シンチー監督・主演の香港映画「少林サッカー」は、伝記映画の「ペレ 伝説の誕生」とは異なり、サッカーにカンフーの要素を加えマンガチックにディフォルメしたスポーツコメディである。

 腹心に裏切られすべてを失ったカリスマが個性的な仲間を得て復讐するストーリーテリング、ブサイクメイクで登場し変貌を遂げる女性キャラ等、1996年のチャウ監督・主演作「食神」(本連載第173回参照)と共通の要素が見られる。また「2001年宇宙の旅」(1968、本連載第29回参照)、「ジュラシック・パーク」(1990)、「プライベート・ライアン」(1998)、「死亡遊戯」(1972)等のパロディも満載の楽しい作品である。

 本作でも食べ物が練習用のボール代用品に使われるが、それは何と生卵。「元・黄金の右脚」のファン監督(ン・マンタ)は生卵でのドリブルやリフティングを命じ、失敗して割れると生卵が大好物のデブ「空渡り」(ラム・ジーチョン)が卵を吸うために突撃してくるという悪夢的な状況の中、「鋼鉄の脚」シン(チャウ)以下元少林拳の門弟らで構成するチーム「少林隊」の選手たちはサッカーの練度を高めていく。

 しかし、少林隊のサッカーは少林拳で会得した特殊能力に依存しており、試合でも必殺技の応酬といったパワープレーが多い。一方、シンが出会った饅頭屋「甜在心饅頭」を営む女性で太極拳の達人のムイ(ヴィッキー・チャオ)は、饅頭の生地をこねる際に太極の理念を応用し、自分の力だけではなく他の力を最大限に引き出すことで、軟らかく弾力のあるサッカーボール大の生地を仕上げていく。その技はこれぞ中国拳法の鑑とシンを感心させる。

 仇役のハン(パトリック・ツェー)は、選手時代のファン監督を罠にはめ、自分がその後釜に収まった男。クライマックスは、そのハンが率いるドーピングで筋力を増強した「魔鬼隊」と少林隊との因縁の対決である。ムイの屋台の場面は、その試合で意表を突く助っ人登場の伏線となっている。


【ペレ 伝説の誕生】

「ペレ 伝説の誕生」(2016)
作品基本データ
原題:PELÉ: BIRTH OF A LEGEND
製作国:アメリカ
製作年:2016年
公開年月日:2016年7月8日
上映時間:107分
配給:アスミック・エース
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督・脚本:ジェフ・ジンバリスト、マイケル・ジンバリスト
エグゼクティブプロデューサー:ペレ
製作:ブライアン・グレイザー
撮影:マシュー・リバティーク
美術監督:ドミニク・ワトキンス
音楽:A・R ラフマーン
編集:ルイス・カルバリャール、グレン・スキャントベリー
キャスティング:メアリー・バーニュー
キャスト
ペレ(エドソン・アランテス・ド・ナシメント):ケヴィン・デ・バウラ
ヂッコ(ペレの少年時代):レオナルド・リマ・カヴァーリョ
ドンジーニョ(ペレの父):セウ・ジョルジ
セレステ(ペレの母):マリアナ・ヌネス
ジョゼ・アルタフィーニ:ディエゴ・ボネータ
フェオラ(1958W杯ブラジル代表監督):ヴィンセント・ドノフ リオ
ジョージ・レイナー(1958W杯スウェーデン代表監督):コルム・ミーニイ
ブラジル人アナウンサー:ロドリゴ・サントロ

(参考文献:KINENOTE)


【少林サッカー】

「少林サッカー」(2002)
作品基本データ
原題:少林足球
製作国:香港
製作年:2001年
公開年月日:2002年6月1日
上映時間:109分
製作会社:ザ・スター・オーヴァーシーズ・リミテッド
配給:クロックワークス、ギャガ・ヒューマックス
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:チャウ・シンチー、リー・リクチー
脚本:チャウ・シンチー、ツァン・カンチョン
製作:ヤン・グオフイ
音楽:レイモンド・ウォン
キャスト
シン(鋼鉄の脚):チャウ・シンチー
ファン監督(元・黄金の右脚):ン・マンタ
ハン(魔鬼隊監督):パトリック・ツェー
ムイ(饅頭屋の店員):ヴィッキー・チャオ
鉄の頭(大兄):ウォン・ヤッフェイ
旋風脚(二兄):モク・メイラム
鎧の肌(三兄):ティン・カイマン
魔の手(四兄):チャン・クォックァン
空渡り(六弟):ラム・ジーチョン
ブレードシスターズ(姉):カレン・モク
ブレードシスターズ(妹):セシリア・チャン

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。