クレーム・ブリュレとマカロン

平成のごはん映画を振り返る(2)

映画に登場するフードを通して平成を振り返るシリーズの2回目は、平成にブームとなったスイーツの出てくる映画を取り上げる。

「アメリ」のクレーム・ブリュレ

わずか1カット数秒でブームを起こした「アメリ」のクレーム・ブリュレ。
わずか1カット数秒でブームを起こした「アメリ」のクレーム・ブリュレ。

 平成の30年間においては、ティラミス、ナタ・デ・ココ、パンナ・コッタ、タピオカ等、今まであまり知られていなかったスイーツがブームを経て定着するということが繰り返されてきた。これは昭和の高度成長期に洋食化を果たした日本人が、さらなる未知の味覚を求めたあらわれの一つだったのかも知れない。

 平成の初頭の食のブームに火をつけたり、拡散したりという役割を果たしていたのが雑誌「Hanako」で、毎号、その掲載内容によって消費者の行動と飲食店に大きな影響を及ぼしていた。そんな「Hanako」が「ティラミスの次はこれ」という形で紹介しながら、当時は結果的にはやや不発に終わったのがクレーム・ブリュレであった。しかし、この“予言”(?)は、その後やっと2001年に現実になったのだが、そのきっかけは、雑誌ではなく映画「アメリ」(2001、平成13年)だった。

 舞台は現代のパリ。空想癖が高じて他人を幸せにするためのいたずらに喜びを見出しているカフェのウエイトレス、アメリ(オドレイ・ドトゥ)が、他人の捨てた証明写真をコレクションしているポルノショップ店員、ニノ(マチュー・カソヴィッツ)に恋をし、自分の幸せを追い求めていく。その過程をジャン・ピエール・ジュネ監督が斬新な手法で描いた作品であるが、この映画がクレーム・ブリュレ旋風を巻き起こした。

 ただ意外にも、クレーム・ブリュレが映し出されるのは、冒頭のアメリの好きなものを紹介するナレーションにかかるエトキの1カットのみである。

「豆袋に手をいれること、クレーム・ブリュレのお焦げを潰すこと、サンマルタン運河で水切りすること」

 プリンのような生地をココットに入れ、表面をバーナーであぶって出来たカリッと香ばしそうな表面のお焦げの薄膜をスプーンで叩くと、下のクリームがじわっと染み出してくる。わずか数秒のクローズ・アップであるが、そのインパクトは強烈で、観た誰もがクレーム・ブリュレのお焦げを潰して食べてみたいと思わせる。ブームになったのもうなずける。そして、このカットの直前のスプーンを構えたアメリの表情をとらえたカットも、本作のメインビジュアルになっている。

「マリー・アントワネット」のマカロン

 映画「マリー・アントワネット」は、18世紀のフランス革命でルイ16世に続いて処刑された王妃マリー・アントワネットの伝記映画で、フランシス・フォード・コッポラの娘ソフィア・コッポラが監督した2006年(平成18年)製作の作品である。

 オーストリアから、誰も知らない異国の地フランスに王太子との政略結婚のために連れて来られた一人の少女マリー・アントワネット(キルティン・ダンスト)。フランスとの同盟関係を重視するオーストリア女帝の母マリア・テレジア(マリアンヌ・フェイスフル)から寄せられる懐妊プレッシャーや、国王ルイ15世(リップ・トーン)の愛人デュ・バリー夫人(アーシア・アルジェント)との冷戦から来るストレスを、彼女は遊びや浮気で紛らわせていく。その心情を、時代考証の正確性よりも徹底した“ガーリー感覚”で描くことで、現代女性の共感を得ることを狙ったように見える。

 劇中に登場する靴はイギリスのブランド「マノロ・ブラニク」、菓子は公開以前から日本でもブームになっていたマカロン・パリジャンを生んだパティスリー「ラデュレ」が担当していることも“ガーリー度”を高めている。

 たとえば狩りの後でアントワネットがオーストリアからのお目付け役メルシー伯爵(スティーヴ・クーガン)をもてなすシーンで登場するのが、例のマカロン・パリジャンである。マカロン生地にフィリングをはさんだこの菓子は、ラデュレが1930年から売り出したもので、時代考証としては誤っているのだが、映画の作り手側はそんなことよりもガーリーな華やかさを優先したのだろう。アカデミー賞でミレーナ・カノネロが受賞した衣装デザインが、あのマカロンチックなパステルカラーで統一されているのもその一環と思える。

 インスタ映えが重視される昨今、食べておいしいはもちろん見映えがすることを消費者は求めていて、カラフルなマカロンはそうしたニーズに合ったスイーツである。こうした観点から、本作は時代を先取りしていたと言えるだろう。最初のスマートフォンが発売されたのは、この映画が製作された翌年だった。


【アメリ】

「アメリ」(2001)
作品基本データ
原題:Le Fabuleux destin dAmelie Poulain
ジャンル:ラブロマンス
製作国:フランス
製作年:2001年
公開年月日:2001年11月17日
上映時間:121分
製作会社:クローディー・オサール、UGC
配給:アルバトロス・フィルム
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジャン・ピエール・ジュネ
脚本:ジャン・ピエール・ジュネ、ギョーム・ローラン
製作:クローディー・オサール
撮影:ブリュノ・デルボネル
美術:アリーヌ・ボネット
音楽:ヤン・ティルセン
編集:ハーヴ・シュナイド
衣装デザイン:マドリン・フォンテーヌ
キャスト
アメリ・プーラン:オドレイ・トトゥ
ニノ・カンカンポワ:マチュー・カソヴィッツ
ラファエル・プーラン:リュフュ
マドレーヌ・ウォラス:ヨランド・モロー
イポリト:アルチュス・ド・パンゲルン
コリニョン:ウルバン・カンセリエ
ジョゼフ:ドミニク・ピノン
ドミニク・ブルトドー:モーリス・ベニシュー
エヴァ:クロード・ペロン
ジョルジェット:イザベル・ナンティ
マダム・シュザンヌ:クレール・モーリエ
ジーナ:クロチルド・モレ
レイモン・デュファイエル:セルジュ・メリン
リュシアン:ジャメル・ドゥブーズ
アマンディーヌ・プーラン:ロレーラ・クラヴォッタ
フィロメーヌ:アルメレ
少女時代のアメリ:フローラ・ギエ
少年時代のニノ:アモーリー・バブー
ナレーション:アンドレ・デュソリエ

(参考文献:KINENOTE)


【マリー・アントワネット】

「マリー・アントワネット」(2006)
作品基本データ
原題:Marie Antoinette
ジャンル:歴史劇
製作国:アメリカ、フランス、日本
製作年:2006年
公開年月日:2007年1月20日
上映時間:123分
製作会社:アメリカン・ゾエトロープ
配給:東宝東和、東北新社
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
原作:アントニア・フレイザー
製作総指揮:フレッド・ルース、フランシス・フォード・コッポラ
製作:ロス・ケイツ、ソフィア・コッポラ
共同製作:カラム・グリーン
撮影監督:ランス・アコード
プロダクション・デザイン:K・K・バーレット
音楽プロデューサー:ブライアン・レイツェル
編集:サラ・フラック
衣装デザイン:ミレーナ・カノネロ
キャスト
マリー・アントワネット:キルスティン・ダンスト
ルイ16世:ジェイソン・シュワルツマン
デュ・バリー夫人:アーシア・アルジェント
マリア・テレジア女帝:マリアンヌ・フェイスフル
ノアイユ伯爵夫人:ジュディ・デイヴィス
ルイ15世:リップ・トーン
メルシー伯爵:スティーヴ・クーガン
フェルセン伯爵:ジェイミー・ドーナン
ポリニャック伯爵夫人:ローズ・バーン
シャール公爵夫人:オロール・クレマン
ソフィー内親王:シャーリー・ヘンダーソン
ヴィクトワール内親王:モリー・シャノン
ヨーゼフ2世:ダニー・ヒューストン
プロヴァンス伯爵夫人:クレメンティーヌ・ポアダッツ

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。