プロならば買うコメの正体には敏感であるべき

OK。よく稔った。で、この後どこへ行くんだい?
OK。よく稔った。で、この後どこへ行くんだい?

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三笠フーズをはじめとする汚染米流通の問題。自殺者まで出したことは本当に残念でならない。三笠フーズの流通先の会社社長がなぜ自殺したのか、真相は分からない。しかし、この問題に関係してしまった人が感じた“事の重大さ”を、食品に関わる仕事をしている向きは、よくよく噛みしめておくのが供養というものだろう。というのは、この問題は根が深く、氷山の一角かもしれないと考えて当たるのが賢明に思えるからだ。以下、厳しい見方も含まれるが、自殺した社長の会社をはじめ、個別の企業についての話ではないし、もちろん死者に対して意見する考えなどは毛頭ない。

 まず、個人的な話だが、私はコメをあまり信用していない。もちろん、すべてのコメを疑って見ているわけではないが、コメのことを考えるとき、どうしても独特のうさんくささを感じてしまう。だからこそ、生産から流通まで、コメにかかわる人の中に誠実そうな人を見つけると、とても嬉しくなる。

 コメだけでなく、あらゆる農産物、食品がそうなのかもしれないが、コメは手放しで信用できる品物ではないと考えている。例えば、これまでにいろいろな農家の倉庫を見せてもらったことがあるが、その人が生産している都道府県とは全く関係のない、遠く離れた地域の農協の袋に入ったコメが積んであるということが、ままある。作る人(他県の農家)と買う人(他県の農協)がいて、取引をしているだけだから、別にそれ自体が悪いことではない。しかし、運ばれた後、その袋の中身がどんな運命を辿るのかを考えると、あまりいい気分では見ていられない。

 また、有力な農家がホテルや給食会社などと収穫前に契約をしている場合。上手な生産者でも、天候が悪かったりすれば契約した量に足りないということはある。そういう場合、その農家が近所の農家、あるいは少し離れた農家から買い集めて量を揃えるとする。契約したものを、契約した日までに、契約した量を揃えるというのだから、これはビジネスパーソンとして当然のことだ。「揃いませんでした」と頭をかいてごまかす農家より立派と言えるかもしれない。しかし、契約先が期待していたことが「なんでもいいからコメ○○トン」ではなく、「うまいコメを作る腕のいいあなたのコメ○○トン」であった場合は、黙って引き渡せば裏切り行為となる。

 そして、今回問題になっているくず米(特定米穀)の問題だ。少し前から、このくず米の流通が活発になっている。少し前というのは、恐らくミニマム・アクセス(ウルグアイ・ラウンドで決められた、年間に輸入すべき農産物の最低限の輸入量)が76.7万t/年に最大化し、固定した2000年頃からだろうか。くず米の流通が活発になるのと同時に、米価は年々下がっている。米穀関係専門の記者から教わったところによれば、この2つには、切っても切れない深い関係がある。

 ミニマム・アクセスで日本に入って来るコメの多くは、食用よりも調味料や菓子など食品の原料となる。これが市場に入って来るので、それまで食品の原料に使われていた国産のくず米が売りにくくなる。そこで、国産のくず米をなるべく高く売りたいという力が働く。どうするかというと、くず米として仕入れたそれをきつく選別にかけて、砕けておらず炊飯してもおかしくない米粒を集め、それを食用に売るのだ。普段食品を扱わないカテゴリーの量販店などで特売に使われるコメには、こういうものが使われるケースが多いと言う。銘柄米もある。

 口に入れてはいけないものではないので、それ自体が即悪いこととは言えない。ただ、以上のようなものがあると考えると、今日も自宅で茶碗に盛ったコメが、実のところどこから来た何であるのか、自分に説明できる自信は、私にはない。私がコメにうさんくささを感じるというのはそういうことだ。もちろん、真面目に生産している人、真面目に流通させている人はたくさんいる。しかし、そういうものもあると考えれば、すべてのコメを無条件に間違いのないものと受け止めることはできない。

 私のように、食べるだけの役割の人間は、責任は自分と自分の家族に対してだけだから、まだいい。しかし、これを人に食べさせることを業としている人の場合、「間違いのない商品だと思って買った」で済まされるだろうか。

 消費者は、「この店のものなら間違いないだろう」「このメーカーのものなら間違いないだろう」というものの選び方をするものだ。商人として、それを裏切っていいという道理はない。どんな食品でも、究極の厳しさで取引先を選び、品物を吟味できてこそ、プロではないのか。

 もし、「政府から出たコメだから安心」などと言っている食品関係者がいれば、甘いと言わざるを得ない。トレーサビリティを推進する農水省も、さかのぼるトレサはしても、例えば約束手形の世界ではやって当然の“下りのトレサ”はできていなかったのだ。そして、自社の金で仕入れる企業、つまりあなたと、他人(ひと)の金で買い入れる公務員とで、どちらが厳しい目を持ち得るものか、そういうことは状況で判断できるはずだ。

 法的には罪にならないことでも、職業人として許されないミスというものはある。侍で言えば「武道不心得」で、「副流煙をかいだ」と釈明した力士が受けた処分を見て分かるように、この罰はなかなかに厳しい。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →