不二家をもって他山の石とすべき人々(1)

「かわいいと思っていたら、大間違い」と言われないように
「かわいいと思っていたら、大間違い」と言われないように
「かわいいと思っていたら、大間違い」と言われないように
「かわいいと思っていたら、大間違い」と言われないように

不謹慎な言い方になるが、「不二家」の不祥事には意外性があり、マスコミにとっては格好の素材となっている。不二家のブランド・イメージは、ペコちゃんによる「親しみ」「かわいい」、パッケージ製品のメーカーの一方、市中に洋菓子店も展開していることによる「手作り」、そして明治創業という歴史による「老舗」などの言葉で表現できるだろう。それが消費者を裏切っていたというのだから、「犬が人をかんだ」話ではなく、「人が犬をかんだ」話を日夜探し回っているメディアとしては、申し分ない話題と言える。

 それにつけても、自分を含めて、消費者の無用心さということを思わずにはいられない。こんなに穏やかで真面目そうなイメージの企業に対して、衛生面での疑いを持ったことがある消費者というのは、不二家の工場がない地域では皆無であったろう。

 そして、消費者がこのように無力であったのと同じように、スーパーやコンビニなどの小売業も無力・無能であったと言わざるを得ない。長年不二家の工場の実態を把握することなく、現実に製品を仕入れて、疑いを持つこともなく店頭に並べていたのだから。

 BtoC(企業対消費者取引)とBtoB(企業対企業取引)とを問わず、われわれは自分が製品を購入する相手が、実のところどんな実態を持つものか、今以上に関心を持ち、可能な限り現実に迫って検証していかなければならない。相手に対する世間の評価、評判を鵜呑みにしていては、この先誰にどういう形で裏切られるか分かったものではない。

 その意味で、個人的にここ数年ずっと気になっている相手は、どの食品メーカーでもない、日本の農家だ。

 都会の人が「農家」と聞くと、多くの人はそこで判断を停止する。農家がやっていることはすべて良いこと、農家が持っているものはすべて良いものと根拠なく思い込んでいる節がある。また、農家の仕事の話になると、「農家はたいへんだから」というあいづちが、都会の人の間では決まり文句のようにもなっている。

 実際には、腕のいい農家もいればそうでない農家もいるし、善良な農家もいれば小ずるいことばかり考えている農家もいる。都会の人の多くが、そのことを知らないし、知ろうともしていない。農家の話を聞くのなら、良い話だけを聞こうとする。

 青果店の店頭のいくつかの野菜の横に「農家直送」などと書かれていたり、道の駅で農家が直接野菜などを販売しているのを見かける。私の目には、前者は仲買という目利きや青果市場というプロたちによる評価のプロセスを経ていないという表示と映る。後者に至っては、第三者のチェックは全くないということで、品質も価格も安全性も、安心しようがない。それなのに、特にこういうものを喜んで買っていく人が多い。

 また、農家は経営の実態をつかみようがない場合がほとんどだ。株式公開企業ならば、経営の数字はすべてオープンだし、非公開企業も、外部からの問い合わせには答えなければいけないことになっている。実際には、すべてをオープンにしてはくれないものだが、売上高と当期利益ぐらいは答えるものだ。

 ところが、農家の多くが白色申告の個人事業で、その経営内容は個人情報の部類となり、秘匿される。これで信用しろというのは本来無理な相談で、銀行やリースなどの金融はこのタイプの農家を避ける。ところが、消費者はそういった農家からコメや野菜を買うのが案外と平気なものだ。

 個人的には、農家と取引する際、いちばん気になるのは、その人が本音で何を考えているかだ。農家には、都会や、都会に住む人の悪口を言う人が多く、それを美徳と考えたり、驚いたことにセールスポイントにしている人も少なくない。いわく、都会の人間はろくなものを食べていない、家族全員で食事をしない、料理ができない、不健康、伝統を破壊しているなどなど、都会への出荷で儲けている農家ほど言いたい放題なものだ。

 また、第二次産業、第三次産業を目の敵にしている人も多い。WTO交渉では電機、機械の犠牲にする気かと騒ぎ、暮れにオーストラリアとの経済連携協定(EPA)交渉スタートと報道されれば、石油と金属の犠牲にする気かと騒ぐ。自分たちが作っている農産物を誰が買っているのか、そのお客たちがどうやって収入を得ているのか、想像力を働かせた形跡が全く見られない農家が多い。また、自分たちが使っているトラクタを誰がどうやって作り、何を燃料に動いているのかを全く忘れてしまっているらしき人も多い。私が長年取材をしてきた、外食産業や小売業では、顧客やバイプレーヤーの悪口を公言することなど考えられないことだ。

 もちろん、そのような農家が日本の農家のすべてではない。誰からも尊敬されてしかるべき農家も、多くはないが、確かに育っている。ただ、多数派はここに書いたような特徴のいくつかに該当する農家だと理解している。これには、それぞれの地域で知らぬ人がいないような大規模農家も含まれる。しかも借金まみれということもままある。

 そのような人たちが、消費者に対してどんなものを提供しているのかを考えるたびに暗い気持ちになる。日本の消費者は不幸だ。もっとも、いったん嫌だとなれば、日本の消費者は世界中どこからでも、食べ物を買える幸福にも恵まれている。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →