思い込むのは消費者の勝手か

DAKARA。よからぬ思い込みが筆者だけのものであることを祈る
DAKARA。よからぬ思い込みが筆者だけのものであることを祈る
DAKARA。よからぬ思い込みが筆者だけのものであることを祈る
DAKARA。よからぬ思い込みが筆者だけのものであることを祈る

ある雑誌の編集長から聞いた不思議な話。九州のある小さな町に、小さな喫茶店がある。その店のマスターは、お客にマジックを披露してくれる。それが評判で、全国からお客が遠路はるばる訪ねて来る。日本を代表するような有名な企業の経営者やタレントなど、著名人もたくさんやって来る。あまりに大勢が来店し、行列が出来ては近所迷惑なので、当日朝一番に電話して予約しなければならない。

 確かにすごい話だけれども、そこまでの話なら、スレた私たちには「そんな店もあるのか」ぐらいで終りなのだが……。

 ところが。「プロのマジックを目の前で見ると、本当に面白いものですよね」などと、私が間抜けな合いの手を入れたところ、実際にその店に行って来たばかりの彼は、「うーん」と言いながらちょっと首を傾げて、口をつぐんだ。そしてしばし間を置いた後、言いにくい様子で、「でもね、彼のはマジックとはちょっと違うんだ」とつぶやいた。「彼は、たぶん、超能力がある……」。

 これはただごとではない! 事務所に戻った後、Webで店名を検索して調べたところ、案の定、相当な数がヒットした。超能力者だと礼賛する人あり、マジックを超能力と思い込ませるのはけしからんとする人ありで、書かれている事柄は毀誉褒貶相半ばするといった様子だ。

 それらの話を総合すると、こういうことのようだ。マスターはそれが「超能力だ」とは一言も言わない。ただし、超能力を暗示し、そうと思い込ませる会話術が巧みである(後日、もし本当に超能力であったと分かった場合は、責任もってご報告し、お詫びします)。

 嘘を言ってはいけないが、思い込ませることはいいのか。最近、それを考えさせられるのは、サントリーの「DAKARA」のCMだ。小泉今日子、山崎努にメーテル(「銀河鉄道999」のキャラクター)が出てきて、とんでもないセリフを吐くあれだ。

 とんでもないセリフというのは、「わたしの中のよからぬモノが」「ジョジョビジョバァ」「飲む。出す。」の三つ。世間の人々がどう受け取っているかは調べていないが、私の頭の中に発生した“思い込み”は概略このようなものだ。「体の中に健康を阻害する物質がある。『DAKARA』を飲むと、そういう物質を小便とともに排泄することができる」。

 いや、正確にはもっとすごい思い込みをしようとしている。「『よからぬモノ』とは、体内に自然に出来る老廃物などではなく、外来の毒物か、体内に不自然に発生した毒物では。そして、『DAKARA』には利尿作用がある。さらに、その毒物を尿に押し出そうとする特別な成分が含まれている」。

 もちろん、CMではそんなことは言っていない。サントリーのWebサイトにも、そんなことは一言も書いていない。では、あのCMは、何を伝えようとし、消費者にどういう影響を与えようとしているのか? 「水分を摂れば、小便が出る」という程度のことを言うために、そうそうたる顔ぶれのCMシリーズを制作したのか? ならば、「天然水」「烏龍茶」「モルツ」では、なぜ同じ趣旨のCMを作らないのか?

 同じことについて、考えさせられた料理がある。ある会社が、いろいろな食材を使ったメニューの実験として見せてくれたものだ。卵白に、適量のカボチャのピュレ(業務用食材としてパック詰めのものなどが売られている)を混ぜてフライパンで焼く。すると、通常の材料と手順で作ったオムレツとほとんど同じものができるのだ。カボチャの味に気付かれることはほとんどなく、上にトマトソースでもあしらえば、その正体を見破ることはほとんどできない。

 ホテルやレストランなどでは、製菓などで鶏卵の黄身だけを使い、大量の卵白が行き場を失うことがある。そんな場合に、このオムレツを大量に作って、朝食ブッフェに並べるというのはなかなかのアイデアだ。

 そこでクイズ。あなたは、次のそれぞれの場合、朝食ブッフェでこのオムレツを皿に取るだろうか?

1. 説明や表示がなく、ただ大皿に並べてあった場合。

2.「余った卵白とカボチャのピュレを混ぜて作ったオムレツ」と書いてあった場合。

3.「カボチャのピュレ入りオムレツ。卵黄を除去しているので、カロリーとコレステロールが少なめです。食物繊維入り」と書いてあった場合。

 なお、1.の場合。あなたは、ブッフェのそばに立つコック服のスタッフに、「このオムレツは、鶏卵だけで作ったオムレツですか? それとも卵白とカボチャのピュレを混ぜて作ったオムレツですか?」と聞くだろうか? ただ、仮にこの質問をしても虚しいだろう。そのコック服の人は、嘘をつくことなく鶏卵だけのオムレツだと思い込ませる会話術を身に付けているだろうから。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →