軽減税率が招く巣ごもりの危険

政府が6月に閣議決定を目指す経済財政運営の方針(骨太の方針)の原案が28日に明らかになりました(日経他)。これには、消費税率10%への引き上げを2019年10月に実施することが明記されているとのことです。

 一方、これに先立つ5月18日には、消費者庁・財務省・経済産業省・中小企業庁が消費税の軽減税率制度での価格表示についてのガイドラインを発表しています。すでに周知のことではありますが、それによれば軽減税率の対象品目は酒類と外食を除く飲食料品(他にある種の新聞)で、それら対象品目の税率は8%、対象外品目は標準税率の10%が適用されます。

 ガイドラインでいう外食とは、テーブル、いす、カウンターなどの設備のある場所で顧客に飲食させるサービスです。これにはケータリングも含み、しかし宅配は含まないということです。そして、昨今、コンビニやスーパーマーケットにートインコーナーを設置する例が増えていますが、これらも外食として標準税率とすることがはっきりと示されました。

外食の実態に合っていない制度

 こうした区分けを考えた役人なり政治家なりの頭には「外食=贅沢」という、笑ってしまうほど古い感覚がこびりついているのでしょう。価格レンジによって利用動機を分析するという考え方も知らない、生活者向けの商業(BtoC)に詳しくない人たちが考えたことのようです。

 また、外食産業市場規模推計という統計では、狭義の外食産業(中食を除く外食産業)を「給食主体部門」と「料飲主体部門」の合算として推計しています。ともに飲食を提供するものですが、前者は人の生命活動に必要な栄養の供給という意味合いがあり、後者は楽しみのための飲食という意味合いがあります。そして、「給食主体部門」は「営業給食」と「集団給食」とに分かれます。通常、「給食」と聞いて思い浮かべる学校、病院、事業所等の給食は「集団給食」です。それに対して「営業給食」という言葉にはなじみがないという人も多いと思いますが、これは食堂・レストラン、そば・うどん店、すし店などを指します。一般の飲食店のことだと考えて差し支えないでしょう。

「料飲主体部門」には、喫茶店・居酒屋等、料亭・バー等が含まれます。おそらく、軽減税率の区分を考えた人は、外食とはすべて「料飲主体部門」であるというようにイメージしているのではないでしょうか。

「給食主体部門」は楽しみや贅沢のための食事という意味ではないので、これは軽減税率の対象品目に入れてよかったのではないかとも感じます。しかし、少し考えると、それもうまくないと気づくのです。たとえば、営業給食に分類されているそば店で昼から飲酒をするという利用の形があります。一方、料飲である喫茶店のランチメニューが地域の給食的に機能しているケースも珍しくありません。となると、時間帯と価格帯で分けたほうがよかったようにも思われますが、なかなか一筋縄ではいかないようです。ピザの宅配やすしの出前などはパーティ需要をイメージしますが、これが飲食料品として軽減税率の対象となるということに至ってはいよいよ頭が混乱してきます。

健康長寿の観点ではむしろ外食を推進したい

 このように甚だ不格好な制度ですが、外食産業各社および外食産業を顧客とする食品メーカーの危機意識が足りなかったためか、これが通ってしまい、いよいよ来年の秋には実施されてしまうようです。決まってしまったものは仕方がありませんから、これへの対策を考えていくしかありません。

 軽減税率が実施された場合、単純に想像がつくのは、テイクアウトや宅配(出前)に追い風が吹くということです。「店で食べるより買って帰ろう」という発想につながりやすくなる。もともと、外食経営のイロハとして、テイクアウトや出前は推進すべきものということになっています。なぜなら、客席を回転させる以上の売上げを上げることになりますから。この売上げには客席分の家賃負担がない形になるので、利益率も上がります。

 ですから、しばらくはテイクアウトや宅配を伸ばそうという機運が高まるでしょう。ということは、それに対応する食材、包材、人や物の管理手法などがホットな分野になるということです。

 ただし、そうではあっても、やはり外食、お店で食べる消費行動の価値に今一度目を向けてもらいたいと考えています。

世帯人員別の食料支出(総務省・家計調査 2019から)。
世帯人員別の食料支出(総務省・家計調査 2019から)。

 現在の日本の食市場の特徴として、まず少子高齢化が進んでいるということは聞き飽きていると思いますが、それと同時に世帯人口が減少している、より具体的には単身世帯と二人世帯が増加しているということがさらに重要な点です。そして、家計調査を見ると、世帯人員が少なくなるに従って、一人当たりの食料支出が高くなるということもわかっています。しかも、それは食の外部化(外食と中食)部分が押し上げているのであり、とくに外食による影響が大きいのです。

 つまり、軽減税率の制度は、現在の日本の人口動態と人々の暮らし方を無視した、国民に厳しい制度だと言えます。

 高齢の単身世帯、二人世帯は宅配を利用したらいいとか、行政が主導する配食サービスもあるからそれを利用したらいいといった意見もあるでしょう。しかし、健康長寿の面からは、外食の習慣が重要だと指摘する研究があります。たとえば、以前にもご紹介した東京都健康長寿医療センター研究所の大渕修一さんによれば、「一人での食事は、精神的に寂しいというだけでなく、栄養の量が不足したり、栄養バランスを欠いたりしやすくなる。逆に、誰かといっしょであれば、会話が弾んで楽しくなって食欲が増したり、量が食べられるので食品の種類も増えて、栄養バランスが改善したりする」ということです(参考:日経BP社「未来コトハジメ」/「集まって食べると健康になる高齢化社会に向けた『会食』のすすめ」http://business.nikkeibp.co.jp/atclh/NBO/mirakoto/food/h_vol4/)。

 これからむしろ外食を伸ばしていきたいというこの時期に、まったく困ったことですが、食にかかわる各産業の方々には、ぜひこうした食行動を支えるようなことを考えていただきたいと考えています。

※このコラムは日本食農連携機構のメールマガジンで公開したものを改題し、一部修正したものです。

About 齋藤訓之 392 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →