「食の安全を考える~浅漬けによる食中毒問題の教訓~」開かれる

2012年10月17日、ACU会議室(北海道・札幌)において、「食の安全を考える~浅漬けによる食中毒問題の教訓」が食の安全・安心財団(唐木英明理事長)主催で行われ、企業、行政、一般市民など200名が参加した。

 冒頭、唐木理事長より「戦後、毎年食中毒による死亡者は数百人あったが、2009年、2010年にはゼロになった。しかし昨年、ユッケなど牛肉の生食で11名、今年は浅漬けによる食中毒で8名の死亡者が出てしまった。このことで、食中毒は農場から食卓までにかかわるすべての人の安全確保の努力で防止されてきたことを改めて認識することになった」という開会の言葉があった。

「北海道での食中毒の発生と経過」
札幌市保健所食の安全推進課食品監視担当課長 片岡郁夫氏

 8月7日、ある高齢者施設から血便・下痢を発症した入所者が7名発生したと報告があり、それから、引き続き北海道、本州(北海道滞在者)各地で同じ症状が報告された。

 全国の発症者を調査したところ、同一事業者製造の「白菜の浅漬け」が共通していた。工場点検と、9月には、再現実験を行ったが、原因の特定はできなかった。しかし、製造所では殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウムの不使用や、使用濃度が守られていなかったこと、原料野菜、器具の洗浄が十分でなかったこと、従業員の意識が低下していたことが明らかになった。

 10月16日現在、患者数は168名(死亡8名)である。衛生管理状況を改善し、信用回復に向けて関係業者を挙げて取り組んでおり、行政では努力している事業者を応援する仕組みを実施している。

「腸管出血性大腸菌について」
食品衛生学会長 岩手大学名誉教授 品川邦汎氏

 食品の安全は食品安全基本法の基本理念に表されている。すなわち(1)国民の健康保護が第一、(2)食品供給行程の各段階での安全性確保、(3)国民の健康被害を未然に防止するの3点である。

 食中毒が減ったのは、農場から食卓まで(フードチェーン)にかかわる全員の注意による。O157の場合、フードチェーンの中で汚染する可能性がある。生食する食材のリスクは事業者だけでなく、家庭でも十分に注意して、監視し合っていかなくてはならない。

「漬物業界の現状と課題」
北海道漬物類組合会長 北日本フード会長 酒井信男氏

 今回の食中毒に関しては、私たちは責任を感じ反省しており、お詫びしたいと思う。

 藻谷浩介氏の「デフレの正体」という本にも書かれていること(近年の流通の状況)と同様に、今の漬物業界は内需は縮小しているのに今までと同量の漬物を製造し、低価格で販売することになっている。これでは、あまりよくない品が低価格でやり取りされていることになり、これを続けていれば漬物屋は倒産するだろう。事業者にも努力しなくてはならないが、よい品を適正価格で買い支えるのは、消費者の役割でもあるのではないか。

 今回の食中毒の責任は当該漬物製造業者のトップにある。トップの人たちは、頭を切り替え、法律や安全確保についてよく勉強し、「整理、整頓、清掃、洗浄、殺菌、しつけ、清潔」(食品衛生7S)という基本を徹底しなければならない。私たちは8月に漬物類組合を設立した。私は会長としてこれらを実行していくことが、健康被害にあわれた方、亡くなった方への誠意でもあると思っている。

消毒の安全性・見学・情報公開について
パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、上記発表者のほか、北海道消費者協会会長 橋本智子氏、JA北海道中央会農業振興部長 小南裕之氏も加わり、いかに信頼を回復していくか、会場を巻き込んで話し合った(コーディネーター=唐木英明氏)。

(1)まず、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が不十分だったことなどに関連して、消費者が殺菌剤による消毒に不安を持っているという発言があり、一つの論点となった。

 酒井氏は、「家庭で、家族に作るものと、不特定多数に売るものとで作り方は異なる。事業者は、絶対に食中毒を出してはならないという考えで作っている。責任を持って出荷するための衛生管理には、原料の殺菌は必須である」と述べた。

 JAの小南氏からは、これに関連して生産者も、原料の生鮮野菜の衛生管理を目指し、GAP(Good Agricultural Practice/適正農業規範)を徹底するよう、「野菜の生産・出荷に関わる衛生管理10か条」(北海道農政部)を守る努力をしているとの報告があった。

 コーディネーターの唐木氏より、次亜塩素酸ナトリウムの使用については、食品安全委員会によって安全性は確認されているとの補足があった。

(2)次に、工場見学など受け入れてもらえると、そのような工場であれば、食中毒を出すわけがないのではないかと、消費者は安心をするという意見があった。

 これについては、異物・微生物混入防止など衛生管理上、安易に見学を受け入れることは難しい工場もあるとの事業者からの発言があった。

 品川名誉教授より、今後はできるだけ事業者も見学を受け入れられるような設備を整えて消費者との理解を進めていくことが大切とのコメントがあり、好ましい緊張関係を生み出していく上でも進めていくべきとの共通認識が出来た。

(3)また、わかりやすい情報を公開して貰うことによって消費者は安全を選べるという発言もあった。

 最後に唐木理事長から、いったん食中毒が出ると漬物はもちろん、原料の野菜自体にも、価格低下、供給低下が起こり、深刻な影響が出る。フードチェーンにかかわるすべての人の努力が必要であるし、見学や、本日のような意見交換会で、相互のコミュニケーションを深め、地道に努力していきましょう、との呼びかけがあった。

 なお、本稿執筆に当たり、食の信頼向上をめざす会の伊藤潤子幹事にお力添えをいただいたことに感謝します。

佐々義子
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くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。