370「おいしい給食 炎の修学旅行」より(前編)
給食マニアの中学校教師と生徒が繰り広げる給食バトルを描く学園コメディドラマ「おいしい給食」シリーズの劇場版4作目「おいしい給食 炎の修学旅行」が公開された。今回はテレビドラマ「おいしい給食(season3)」(2023)と、劇場版3作目「おいしい給食 Road to イカメシ」(2024、本連載第331回参照)と同じ函館の中学校を舞台にしながら、サブタイトルの通り修学旅行で訪れる青森・岩手のご当地グルメも味わうという趣向である。
今回と次回の2回に分けて、函館での給食と修学旅行で出会うご当地グルメの模様を紹介する。
※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。
海苔の佃煮をどうするか
前作から1年半後の1990(平成2)年、忍川中学校3年1組の担任になった甘利田幸男(市原勇人)は、その秋も相変わらず“給食道”のライバルの生徒、粒来ケン(田澤泰粋)と給食バトルを繰り広げていた。
今日のメニューは、メロンパン、ABCスープ、コロッケ、ワインゼリー、海苔の佃煮、瓶牛乳。甘利田は、修学旅行を翌日に控えてはしゃぐ生徒たちに「修学旅行は授業だ。初心に帰れ」と戒める。ところが、給食に菓子パンのメロンパンが出ることで浮かれているのは甘利田自身。真っ先にかぶりつき、表面のクッキー生地の甘くてザクッとした後に来るパン生地のフワッとした食感を思う存分味わう様は、甘利田のいつものオーバーアクションも相まって、メロンパンを映画史上最高においしそうに見せていると感じた。
メロンパンは日本発祥の菓子パンで、関西の紡錘型のものなどさまざまなバリエーションがある。本作に登場するメロンパンは、表面に格子模様の入った円形のものである。
ABCスープとは、アルファベットをかたどったパスタが入った野菜スープのことで、食べながらアルファベットを覚えさせる教育効果も期待できそう。案の定、スープからパスタを取り出して並べ、自分の名前のローマ字表記を完成させようとする試みが、教室のあちこちで行われる。甘利田もチャレンジするのだが……。
そして甘利田が、今日のメニューの最大の謎だと感じた海苔の佃煮の小袋。他のメニューの何と合うのか試行錯誤するが、どれも微妙である。その解答の詳細は控えるが、ヒントは冒頭の甘利田の発言「初心に帰れ」にのっとったもの。メロンパン、アルファベットパスタ、ワインゼリーを使ったケンのアレンジ給食に今日も負けた甘利田は、海苔の佃煮の最適解も導き出せず、初心に帰った3年1組の全生徒に敗北を喫するのである。
ビタミンカステーラを大人買い
甘利田が放課後に立ち寄ったのは、太極拳が趣味のサキ(高畑淳子)が営む駄菓子屋「服部商店」。修学旅行のおやつは上限1000円と決められており、甘利田もそのルールに従って1000円分のおやつを買いに訪れたのだ。中途半端な金額に何を買おうか躊躇していたところにケンがやって来る。思わず身を隠す甘利田。
「旅と言ったら地元のもの」と言うサキの勧めに従って、ケンが購入した修学旅行のおやつは「ビタミンカステーラ」。1917(大正6)年創業の北海道旭川市の老舗菓子メーカー、高橋製菓が製造・販売している菓子である。本格的なカステラより卵と砂糖と水分を減らして小麦粉の比率を増やし、学校給食用に使われていたビタミンB1とB2を配合している。安くて栄養価が高く、日持ちもよいのが特徴。道産子に親しまれているビタミンカステーラをケンは大人買いし、修学旅行のここぞという場面で使うことになる。
自由なせんべい汁

2泊3日の修学旅行1日目。最初に立ち寄った青森県・十和田湖畔のドライブインで出された昼食は「せんべい汁」。青森県南東部から岩手県北部にかけての郷土料理ということで、ネギ、ニンジン、しめじ、ゴボウ、鶏肉、糸こんにゃくなどの具材と南部せんべいが入った汁である。
忍川中一行が案内されたのはテーブル席。固形燃料を使ったひとり鍋で、舌をやけどしそうになりながら熱々のせんべい汁を食べている猫舌の甘利田や生徒たちの向こう側の座敷では、岩手県から来た花堺中学校の一行が異様な光景を繰り広げていた。
全員が正座で、せっかくのせんべい汁をかっこんでいる横では、引率教師の樺沢輝夫(片桐仁)が、「遅い、いつまで食べてる」と早く食べるよう急かしている。ピリピリした雰囲気の中、樺沢はいつものスタイルで自由に食べている甘利田や忍川中の生徒にも怒りの視線を向ける……。
ケンは、土産物コーナーで買ったあるものを使ってせんべい汁の新しい食べ方を見せつけ、甘利田に圧勝。食後、湖畔で食後の余韻に浸るケンに、忍川中一行の自由な食べ方に嫉妬を感じた花堺中の生徒たちが絡む。それを止めたのは、甘利田と花堺中の女性教師。この女性教師こそ、テレビドラマ「おいしい給食(season1)」(2019)と「劇場版 おいしい給食 Final Battle」(2020、本連載第232回参照)の舞台である黍名子中学校で甘利田の同僚だった御園ひとみ(武田玲奈)その人だった……。
生徒たちの成長も味わい深い
シリーズ最新作の本作で特筆すべきは、ドラマseason3と劇場版3作目に出演した1年1組の生徒25名のうち大多数を続投させていること。最初は甘利田に反発していたが次第に理解し真似をするようになった学級委員長の丸本米子(藤戸野絵)、1年の頃は日本語を話すのが苦手だったが今ではすっかりクラスに馴染んだ峰岸マルコ(田口ハンター)、1年の頃からマルコが気になっていてこの修学旅行で告白を目論んでいる瀬戸口望(高松咲希)など、サイドストーリーとして生徒たちの成長が見てとれる構成は興味深い。また、甘利田と御園の運命的な再会シーンでも、安易に回想シーンなどを挿入しないのは好感が持てた。
後半は、樺沢が企み御園が甘利田に持ちかける「給食交流会」の行方、そしてその給食交流会が生んだ波紋と最後の給食、続編への布石など、前半以上に見どころの多い展開となっている。お楽しみに。
- おいしい給食(season3)
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- おいしい給食 Road to イカメシ
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- 本連載第331回
- https://www.foodwatch.jp/screenfoods0331
- ビタミンカステーラ(上川総合振興局産業振興部商工労働観光課)
- https://www.kamikawa.pref.hokkaido.lg.jp/ss/srk/kamitabe/059_kasutera.html
- せんべい汁(農林水産省「うちの郷土料理 」)
- https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/senbei_jiru_aomori.html
- おいしい給食(season1)
- Amazonサイトへ→
- 劇場版 おいしい給食 Final Battle
- Amazonサイトへ→
- 本連載第232回
- https://www.foodwatch.jp/screenfoods0232
【おいしい給食 炎の修学旅行】
- 公式サイト
- https://oishi-kyushoku4-movie.com/
- 作品基本データ
- 製作国:日本
- 製作年:2025年
- 公開年月日:2025年10月24日
- 上映時間:114分
- 製作会社:「おいしい給食」製作委員会
- 配給:AMGエンタテインメント
- カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
- スタッフ
- 監督:綾部真弥
- 脚本:永森裕二
- 製作総指揮:吉田尚剛
- 企画:永森裕二
- プロデューサー:岩淵規
- 撮影:小島悠介
- 照明:西野龍太郎
- 録音:井家眞紀夫
- 美術:伊藤悟
- 小道具:千葉彩加
- 音楽:沢田ヒロユキ
- 主題歌:給食ボーイズ
- 整音:田中俊
- 効果:佐藤祥子
- 編集:岩切裕一
- 衣裳:小磯和代
- ヘアメイク:近藤美香
- グレーディング:河野文香
- ポスプロ・マネージャー:豊里泰宏
- 制作担当:田山雅也
- 助監督:湯本信一
- フードスタイリスト:松井あゆこ
- キャスト
- 甘利田幸男:市原隼人
- 御園ひとみ:武田玲奈
- 粒来ケン:田澤泰粋
- 木戸四郎:栄信
- 香坂真由:田中佐季
- 樺沢輝夫:片桐仁
- 牧野文枝:いとうまい子
- 白根澤仁:六平直政
- サキ:高畑淳子
- 坂爪勲:小堺一機
- 丸本米子:藤戸野絵
- 峰岸マルコ:田口ハンター
- 浅葉浩二:石澤柊斗
- 瀬戸口望:高松咲希
- 国生道子:富田莉代
(参考文献:KINENOTE)
