遺伝子組換え作物研究の灯を消さないで

科学は専門家だけのものではなく、生活するすべての人のものです。よりよい暮らしと仕事のために、「読み書きそろばん」と同じように科学を理解し、つかいこなす力を身に付けましょう。今回は23年度に計画されている宮崎大学の遺伝子組換え作物の試験栽培をめぐり、心配していることをお話します。

期待されている研究の広がり

「宮崎大学での遺伝子組換え綿の栽培中止を求める署名」と「遺伝子組換え作物栽培規制条例制定を求める署名」が、ストップGMO宮崎連絡会によって、1月17日から行われています。この連絡会は、宮崎大学でのGM綿栽培実験に反対する活動のため、昨年10月に設立された組織です。宮崎大学で行われる予定の遺伝子組換えワタの試験栽培が環境に悪影響をもたらしたり、食の安全性を脅かしたりする可能性のあるためとしています。署名は3月末に2次集約され、宮崎大学学長と宮崎県知事にそれぞれ提出される予定です。

 ここ数年、筆者は自治体の遺伝子組換え作物栽培に対する規制や国内での試験栽培などの状況を調べてきました。その中で宮崎大学の行う試験栽培の意義は大きく、このような署名が遺伝子組換え作物の開発・研究に影を落とさないか不安を感じています。

 2010年度、日本国内では、こちらの資料(日本国内の遺伝子組換え作物の栽培/2010年度)に示すようにトウモロコシ、ダイズ、イネ、ワタ、ユーカリ、ポプラ、カーネーションの試験栽培と、青いバラの商業栽培と、合わせて10カ所以上で遺伝子組換え作物が栽培されました。青いバラは日本で初めての商業栽培ですが、心配された反対運動もなく、売れ行きも上々です。

 それに加えて、2009年に試験栽培を行っていた大学は筑波大学だけでしたが、2010年は東北大学と宮崎大学が加わり、日本の大学の活躍が期待されたところでした。

困難を克服したチームワークを大切に

 その矢先の反対運動で試験栽培ができなくなると、筑波大学以外でも試験栽培ができることが示される好例が失われることになり、多くの大学や研究所の今後の研究に影響を及ぼすのではないでしょうか。

 一方、2010年度の自治体による規制は、宮城県で2010年3月5日より指針「宮城県遺伝子組換え作物の栽培に関する指針」、神奈川県では、2011年1月1日より条例「神奈川県遺伝子組換え作物交雑防止条例」が新しく施行されました。この結果、2011年1月現在、北海道、新潟県、神奈川県、高畠町(山形県)、今治市(愛媛県)が条例で、岩手県、宮城県、茨城県、千葉県、東京都、滋賀県、京都府、兵庫県、徳島県、つくば市(茨城県)が指針で遺伝子組換え作物の野外での栽培を規制しています。国の研究所が集まる筑波を別にして、条例や指針のある都道府県では、実際に試験栽培を行うことは極めて困難であるのが現状です。

 また、試験栽培では、所管の省庁での安全性審査手続き、行政への実験計画書の提出、地元説明会、情報発信など、研究以外の面での業務が多く、実施には学内外のネットワーク、チームワークも求められます。2010年度の宮崎大学の試験栽培ではそれが実現したわけですが、せっかく整ったこの体制が1年しか機能しないというのはもったいない話ではなないでしょうか。

 宮崎での反対運動に対しては、バイオ作物懇話会が「遺伝子組換え作物の研究開発と野外栽培試験に関する署名」を募集して対抗していることは本サイトでも既報です。宮崎大学の試験栽培が無事に行われ、筑波地域以外の大学の植物バイオの研究者の研究成果が世の中に出て、植物バイオに進む学生の光明となるモデルケースになるようにと思っています。

参考:

佐々義子
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くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。