根の張りと窒素の量が決め手となる

根の張りを振り返る農家(記事とは直接関係ありません)
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生長のステージの移り変わりがうまくいくように、作物の健康状態も見きわめて対応する。そうした管理が重要であるということは、有機栽培であろうと慣行栽培であろうと同じことだ。この栄養の移り変わりが上手くいけば、良質のものが出来やすくなる。

肥料を効かせるタイミングが重要

 そこで用いる肥料が化学肥料であろうと有機肥料であろうと、タイミングが合って的確に効かせられるかどうかが重要な問題であり、肥料がどうやって作られたものであるかは本質とは別の話である。

 ただし、こうした管理を行うには観察力が必要だし、日々、田畑を見ていなければならない。ところが、兼業農家でほかの仕事もあって忙しかったり、人手が足りなかったり、田畑が家から離れた所にあったりといった事情があると、なかなかそこまで目を配れないということになりがちだ。そうしたこともあって、現在の栽培の現場ではこの重要なことがあまり意識されていない傾向がある。

 そのために、管理の腕ではなく、土壌だとか、使用する資材で差をつけようとし、特定の栽培方法の名前を訴求したりということが行われていると言えるだろう。

根の張りの悪さが窒素過剰につながる

 植物の生長と栄養の関係について、もう少し具体的な説明をしてみよう。

 体を作る時期(栄養生長期という)と、実を肥大させる時期(生殖生長期という)とで必要となる養分を見ると、炭素(C)と水素(H)と酸素(O)は両期に共通であり、ただ窒素(N)だけが栄養生長期のみに必要で生殖生長期には不要ということになる。栄養バランスを炭水化物、糖を「C」として、窒素栄養の必要な時期のタンパク質の量を「N」とすると、「C<N」という関係になる。

 多くの作物は硝酸態窒素の形で窒素を吸収する。水素と酸素は、水H2Oとして吸収する。これらは根から吸収するわけだが、炭素は光合成のプロセスで二酸化炭素から取り込まれると考えるとわかりやすい(厳密には違うのだが、わかりやすさのために単純化している。詳しくは光合成の仕組みを調べられたい)。

 ということは、実を作る生殖生長期までに葉が十分に茂り光合成が必要なだけ行われるようになっていれば実は充実するということになる。だから、これ以降は体をそれ以上大きくする必要はなく、窒素は体を維持する程度の量だけあればいいわけだ。先の栄養バランスで言えば、「C>N」ということになる。

 植物も動物も同じ生き物であり、栄養についての考え方にさほどの違いがあるわけではない。栄養摂取上の大きな違いは、動物は自ら動いて必要な栄養のある場所に行くことができるが、植物は同じ場所にいて栄養を根から吸収しなければならないという点だ。

 植物が水分や窒素を十分に獲得するには、根の張りが必要だ。根が十分に張っていれば必要な栄養を選択して吸収できるので、必要な栄養を過不足なく摂ることができる。

 ところが、根が張るための土壌の条件がよくないと根の張りが悪く、作物の生育がまともに行われないということになる。根が張っていないと何が起こるのか。「根が足りないのだから、養分を吸う量も足りなくなるのだろう」と思うのが普通だが、そう単純な話でもない。根の張りが悪いと、水と一緒に不要な養分まで吸収してしまい、過剰な養分吸収を起こしたりするのだ。

 植物は、根毛と呼ばれる細かい目に見えないような根が張っていると、必要な栄養を選択的に吸収できるのだが、根毛の張りが悪いと土壌中の窒素が多ければ必要な栄養を選択的に吸収できないため窒素を過剰に吸収することになる。すると、植物の体には硝酸態窒素が過剰に含まれるということになる。

 このような不都合は、栄養生長期よりも生殖生長期に起こりやすい。と言うのも、体を作る時期(栄養生長期)には窒素が必要なので問題になりにくいし、むしろ窒素が不足して成長できないほうが問題になりやすい。しかし、実を作る時期(生殖生長期)に体を作る必要もないのに窒素があると、余計に体を作ってしまうことになる。こうなると、炭水化物を作る炭素、水素、酸素が足りなくなる。

 本来、実を作る時期のバランスは体を作る時期とは逆の、炭素、水素、酸素が多く、窒素は少ない、すなわち「C>N」という状態がよい。炭素、水素、酸素と窒素のバランスを崩すと、病気にかかりやすくなったり、植物の場合には虫に食われやすくなってしまう。虫がついたり、病気になったりしやすいというのは、多くの場合この窒素過多となってバランスが崩れた状態で起こりやすく、このバランスが崩れなければ、大きな問題は起きないものだ。

硝酸態窒素過剰で糖度が下がる理由

 そして、第14回で書いたように、作物の硝酸態窒素濃度が高いと糖度(糖は炭素、水素、酸素から出来ている)が上がらず、硝酸態窒素濃度が低いほうが糖度が高くなりやすい。これも、この炭素、水素、酸素と窒素のバランスの問題から考えるとしごく当然の結果だと気づくだろう。

 不適切な時期、たとえば実が肥大する時期(生殖生長期)に大量の窒素を含む肥料を与えればバランスを崩しやすい。通常、化学肥料は施してすぐに効き始める(即効性)ので、生殖生長期に与え過ぎればこうした障害は比較的すぐに現れる。しかし、それをもって「だから化学肥料は」と化学肥料が栄養バランスを崩す元凶と考えるのは誤りだ。有機栽培においても、未熟な堆肥など分解の進んでいない有機物を土壌に入れていた場合、窒素が不要な時期に分解して窒素成分が効く状態になると、作物がそれを吸収して栄養バランスを崩すということが起こる。

 化学肥料であろうと有機栽培で使える肥料であろうと、どのような資材であるかは問題ではない。植物の各生長段階の生理に合った養分が適切なバランスで与えられれば、作物は健康に育つ。

About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】