重要なのは栽培管理であり有機栽培か否かではない

管理機の一つ(記事とは直接関係ありません)
管理機の一つ(記事とは直接関係ありません)
管理機の一つ(記事とは直接関係ありません)
管理機の一つ(記事とは直接関係ありません)

有機栽培でも一般の栽培(いわゆる慣行栽培)でも、栽培の管理がうまい人の農産物は比較的おいしいし、おそらく栄養面でも良好となる傾向があるはずだ。

有機栽培と慣行栽培は対立概念ではない

 栽培というものは、耕して種を蒔いたら収穫までほったらかしというものではない。生産者は状況に応じて作物や土にさまざまな働きかけを行って、作物が健康に育つようにする。それが農業で言う管理だ。

 管理がよく作物が普通に健康に育てば、まずいものが出来ることはほとんどない。糖度も比較的高いものが出来やすい。栄養価も高くなりやすいだろう。

「有機栽培」の表示がある野菜を手に入れて、食べてみたらうまかったとする。それは、有機栽培だからうまかったのではなく、それを栽培した人の管理の腕がよかったのだと考えたい。手柄はレシピではなく作り手のものだ。

 品質を考える上で、有機栽培であるかそうでないかは関係がないと説明してきたが、栽培指導を行う筆者の立場から言えば、両者は栽培現場での問題としても違いを感じていない。的確で良好な管理が大切と理解していれば、慣行栽培と有機栽培は全く違う栽培方法という理解にはならない。化学肥料と化学合成した農薬を使用しなければ「有機栽培」と表示してもよい、という法的な区分けにすぎない。

 実際、無農薬で無化学肥料で、だけれども有機栽培を名乗ってはいない、つまり慣行栽培に分類されているという人はいる。農薬の使用量が極めて少ない農家は多く、土壌消毒や除草剤は使用しないという農家はさらに多い。これらの人たちのやり方を見て、誰と誰の間に線を引いて違いを付けられるかと考えると、これは難しい。やはり、法的な区分けがある以外はほとんど差はないのだ。

 つまり、有機栽培と慣行栽培は、対立概念としてとらえるべきもの同士ではないのだ。有機栽培と慣行栽培は、それぞれ使用している資材が違うというだけのことである。

 慣行栽培では有機栽培で使用する資材や方法をすべて利用できる。一方、有機栽培では化学肥料も化学合成した農薬も使用しないというハンデがついている。だから、同じ生産者が有機栽培と慣行栽培と両方をやっているケースでは明らかだが、慣行栽培はあらゆる資材を使用でき、低コストの資材も選べるなど、栽培上は有利だ。違いがあるとすれば、こうした自由度とコストの部分だろう。

重要なのは生長ステージごとの栄養管理

 意外に思われる方が多いかもしれないが、有機栽培と慣行栽培で何かが大きく異なるということは、植物のしくみから言っても考えられないことだ。以下、若干技術的な話になるが、たとえを使ってなるべくわかりやすく説明したい。

 植物は動物と同じく生物であり、植物も動物も必要とする栄養は似ている。ここで人間のことから考えてみよう。人間と同じように考えれば、植物の健康ということも理解しやすいだろう。

 人間は幼児期に極端に栄養不足に陥ったらどうなるか。あるいは成人後に食べ過ぎればどうなるか。また、どの年齢でも、栄養バランスを考えずに同じものばかり食べ続けたらどうなるか。食べ方が悪いと病気になったり、虚弱になったりしやすくなるということはおわかりいただけるだろう。

 ヒトはおおよそ17~18歳までは、体を作る時期に当たるので、この期間には体を作るための栄養が必要になる。だから子供は“食べ盛り”である。

 ところが体が出来上がった大人になっても同じ食べ方を続けているとどうなるかというと、肥満になったり、生活習慣病になったりということになる。

 また、女性が妊娠すると、とくに注意すべき栄養というものがある。たとえば、カルシウムが不足すると足がつりやすくなるなど。妊婦のための栄養指導というものは、通常のときとは異なる内容になるものだ。

 このように、われわれ人間のことを考えれば、人生の各段階で食事の内容というのは異なるものだ。

 同じことが、植物でも言えるのだ――体が出来る過程ではそのための栄養が必要であり、体が出来た後は、維持で十分となる。子孫を残す段階ではまた異なる栄養が必要になる。たとえば、水稲のように1年に一度しか花が咲かない植物を見てみればわかるが、花をつけた後は体は大きくならないものだ。

体を作る時期と子孫を残す時期の違い

 体を作るときに必要な栄養とは何か。生物が体を作るにはタンパク質を作らなければならない。だからタンパク質の元になるものをたくさん摂らなければならない。そのタンパク質はアミノ酸から出来ている。アミノ酸は何から出来ているかというと、窒素(N)、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)がいろいろに組み合わさって出来ている。これは動物でも植物でも同じだ。作物の肥料には窒素が含まれている。それは、作物が体を作る時期に窒素が必要になるからだ。

 では、子孫を残す時期には何が必要だろうか。多くの作物の果実の部分の主要成分は、でんぷんや果糖やショ糖などの炭水化物であり、これらはいずれも炭素(C)、水素(H)、酸素(O)が組み合わさって出来ている物質だ。だから、植物が花を咲かせて実をつける時期には炭素、水素、酸素が必要となる。体を作る時期との違いは、窒素(N)の有無だけだ。体を作る時期には窒素が必要だが、その後は、維持するためだけに必要ということになる。

 栽培で注意すべきは、このように生長のステージの移り変わりがあるということを押さえ、実際にステージが変わる時期を察知し、タイミングよく対応して、移り変わりをうまくいかせることだ。また、作物の健康状態も見きわめて対応する。すなわち、管理がものを言うのである。

About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】