コーンスープ、コーヒー、日本のコメ中心の食生活

今回は、日本人の不思議な食生活について、思うところを書いてみる。皆さんはコーンス―プ(コーンポタージュ)がお好きだろうか。ここでは、コーンス―プとコーンポタージュが同じものという前提での話を進める。このコーンス―プは女性のみならず、いかつい男性でも一度はおしゃれなレストランで飲んだ(食べた)ことがあるだろう。

 私がこの不思議な黄色い液状の物質に遭遇したのは18歳の頃、当時の彼女とレストランでオーダーしたのが初めてだったと記憶している。第一印象は美味しいような、美味しくないような、コーンの不可思議な甘さと舌に残るまったりした感覚が、西洋の香りのする物であると理解した。

 その後、何度かレストランの食事でこのスープを飲むことになる。あるとき、ハイソなご夫婦がクルクルとコショウのミルを回し、コーンスープにパラパラとかけて、スプーンを手前から奥にすくいながら文明開化・鹿鳴館スタイルを実践していたので、私もマネをしてみたが……。

 今は、はっきり言える。コーンス―プはまずい!なぜそう思うのかは感性の問題なのだろうが、ある時米国人にこのスープが好きかどうか聞いてみた。相手の米国人はその瞬間、ウッと顔をゆがめたことを覚えている。その後も、機会があるたびに米国人に聞いてみたところ、「大好きだ!」なんてことを言う人は一人もいなかった。不思議に思った。米国の食文化の代表であるコーンを嫌うなんておかしな連中だ。そこで、10人目(たぶん)の米国人になぜこのスープが嫌いなのか聞いてみた。 彼女は瞳を大きく丸くしてこう言った。「それって離乳食でしょ」。

 そのとき、自分の思考回路の中で「えー」と言う声が発せられたことを覚えている。米国人はコーンス―プをおいしいかどうかではなく、離乳食として見ている。つまり、大人の食するものではないと決めているようだ。

 でもこのスープ、日本ではテレビのコマーシャルで流れ、朝食として人気があるようだ。そして私の住む北海道では高収益作物の代表として栽培され、ほとんどが地元で加工され、日本中で販売されている。ある人が言っていた。「このコーンス―プを朝から飲むのは日本人だけだ」と。

 次はコーヒー。大人になればたいていの人はコーヒーを飲むが、私には理解できない。なぜコーヒーが美味しいのか。他府県のやり方は承知していないが、北海道の一般家庭では来客があるとまず日本茶を出し、その次にコーヒーというのが慣わしだ。後に出すのは貴重品であるとするのが日本文化であるならば、それくらいコーヒーは重要性が高い飲み物なのだろう。

 そこで、皆さんにお聞きしたい。「何歳からコーヒーを飲み始めましたか?」と。おそらく、中学生の頃からいたずら心で飲み始めた人が多いのではないだろうか。問題は、中学生がコーヒーを飲むことを日本人の親たちは注意しないことだ。このコラムを読む方の禁煙率は高いと思うが、どのくらいの方が子供たちがコーヒーを飲むことについて注意するのだろうか。なぜ注意する必要があるのかといえば、理由は簡単だ。嗜好品であり、必需品ではないからだ。

 米国に缶コーヒーがほとんどないことはよく知られていると思う。日本で大人が飲むのであれば問題ないが、子供が大人の勧めで飲む姿を見るとやはり異常に思える。そこでまた、米国人に聞いてみた。「いつからコーヒーを日常的に飲み始めたの」。答えは「18歳以降」というのが多かった。

 たぶん日本よりも飲み始める年齢は高いのではないか。今度米国映画をよく見て欲しい。15歳の若者がコーヒーを飲むシーンがあるかどうか。日本で12歳の小学生がかつ丼を食べた後、お母さんに「渋いお茶ちょうだい」というのがあまりないのと同じだ。コーヒーでも同じで、米国でハンバーガーを食べた後、ブラックコーヒーを飲む12歳の小学生は目にしない。

 日本茶は日本の長いの歴史の中で作られた食文化であるので、日本茶を飲むTPOが自然と身についているが、たかだか数十年の歴史、まして親の世代にはコーヒーを飲んで楽しむ文化を知らないのに、我々が美味しそうにコーヒーをすする日本人の姿を見て、数千年のコーヒーの歴史(?)があるアラブの人から見ると、どのように見えるのか一度お聞きしてみたい。

 世界の食についていろいろ考えを巡らせていると、一番奇妙なのはやはり日本食そのものだと思い至るようになった。「なぜ人は食べるのか」。答えは簡単である。「生きるため」。より正確に言うならば「生き続けるため」。ではどんな食事が生き続けることの上で有利なのだろうか。日本食、特にコメ中心の食生活は日本人の生活向上に役に立っているのだろうか。これについて、次の3つの事例をお伝えしよう。

 1つ目のこの話は米国の日系2世から聞いた話である。彼は情報部員として戦争初期から監視のために日本軍の“排泄物”を調べていたそうだ。太平洋戦争の初期、日本軍が破竹の勢いで南太平洋の各地を占領していた時、食べるものはまあまあ確保できたらしい。しかしトイレとなるとその辺の適当な場所でfield・shitとなるようである。日本の軍人さんたちがすっきりしたあと、米国の偵察部隊が夜な夜な日本軍の排泄物を調べ、栄養状態や食事量の確保状態を調べた結果、“物凄い量”の食事をしていると上層部に報告した。もちろんこれは間違いだとすぐに分かったそうだ。つまり、日本軍は炭水化物主体の食生活だったので米軍と比較するとやはり“物凄い量”になったそうだ。

 実はトイレ業界では当たり前の話がある、日本は米国を見習ってトイレの下水パイプの直径を3インチ(7.5cm)のパイプにしていたが、詰まりがひどいので30年ほど前から日本のトイレは4インチ(10cm)の太いパイプを使用することになったそうだ。

 2つ目は、現在の自衛隊にもある、演習などでこの“物凄い量”を作り出す炊事車と呼ばれる専用車両のこと。考えて見ると「ミリ・メシ」や「レーション」と呼ばれる軍事用野戦食は封を切って食べるので手間もかからず、カロリーも十分にあるのでそれなりに評価できる。一方、コメを用意して水で洗い、火を使い、飯ごうを使い、洗浄のためにまた水を使うことは、敵に自分の居場所を教えるようなものである。こんなコメ中心の食事をしていたら、将来の戦の準備ではなく“物凄い量”の準備をすることになり、日本の安全保障に有効なのかととマジに考えてしまう。

 3つ目は、ある航空関係者の話。国際線の飛行機内のトイレの占有時間を調べたことがあるそうだ。実に暇な人達だが面白い結果が出たそうだ。日本人は米国人よりも1分程度長く占有し、日本のお隣の国はさらに30秒程度長く占有するということだった。そんなこと大きなお世話だって? 果たしてそうだろうか? ある書物に、鳥は飛びながら排泄をすることができるが、それはほかの動物のように止まって排泄をすると敵にやられる確率が高くなるからだと書かれてあったと記憶している。確かに昔の人はこうも言った。早飯、早shitは出世の早道だと。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

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西南農場有限会社 代表取締役 みやい・よしまさ 1958年北海道長沼町生まれ。大学を1カ月で中退後、新規就農に近い形で農業を始め、現在、麦作、大豆作で110ha近くを経営。遺伝子組換え大豆の栽培・販売を明らかにしたことで、反対派の批判の対象になっている。FoodScience(日経BP社)では「北海道よもやま話」を連載。