国産農産物に、いま猛烈なフォローの風が吹いている(1)

圃場で作物を前にすれば外食と農業の壁を越えて話も弾む
圃場で作物を前にすれば外食と農業の壁を越えて話も弾む

圃場で作物を前にすれば外食と農業の壁を越えて話も弾む
圃場で作物を前にすれば外食と農業の壁を越えて話も弾む

風害に対して、県などの行政も指をくわえて見ているわけにはいかないということになり、最近は農家に冬場の麦作を呼びかけたり、緑肥といって、実の収穫を目的にするのではなく、青刈りして圃場にすき込んで肥料とすることを目的に麦類などの作物を育てることを推進し、このために無料で緑肥作物の種子を配布するということも行っています。

風害抑制のための麦を誰に買ってもらうか

 しかし、緑肥の栽培は、種子さえもらえばタダでできるというわけではありません。耕し、種を蒔き、管理し、最後には刈ったり、それを圃場にすき込んだりするためには労力が必要ですし、トラクタなどの燃料も必要です。ですから、金にならない栽培というものには、たいていの農家は乗り気になりません。また、風害を防止し、作土を良好に保つためにも役立つとは言え、直接的な利益に結び付かない緑肥の種子に税金を使うことは、納税者の理解を得にくいもののはずです。

 本当は、農家が直接収入が得られる通常の仕事の中で圃場を良くし、街に土埃も降らせない道筋を付けることがいちばんいいのです。だから、例えば再び冬場に麦を作って、翌年それを収穫して売れることがいちばんいいはずで、それは他の納税者にも喜ばれ、とてもやりがいのある仕事となるはずです。

 さて、そこからが問題です。では、誰にその麦を買ってもらうのか。

 ビールメーカーに今一度国産麦を見直してもらうことも、一つの手かもしれません。しかし、ビールメーカーもビール党も、ただでさえビールにかかる重税に苦しみ、力の入れどころを麦以外の原料の多い発泡酒にシフトしている中、かつてのように大量に国産麦を使ってもらうことは難しいと見たほうがよさそうです。

 しかし、国産麦の需要がないかと言えば、そんなことはありません。それどころか、むしろ、今は国産農産物に未曾有のチャンスが到来していると言っても過言ではないでしょう。

 穀物、乳製品、野菜、果実など、輸入農産物の価格はどんどん上昇しています。原油高、消費する国としての中国の台頭、バイオエタノールの普及による穀物需要の増大などがその背景にあります。その半面、日本の消費者は、品質や安全性に対する不安から、国産農産物を利用したいという気持ちを強めています。そして、多分に政治的な動機が見て取れるとは言え、「食糧自給率向上」を政府や多くの政治家が訴えています。さらに、企業は環境に配慮した経営の実現に必死になっています。国産農産物を使用すれば、収穫したものの輸送による二酸化炭素排出の削減を謳うことが可能で、また食品の形で他国の貴重な水資源を集めるのを減らすということも言えます。

国産麦は猛烈な勢いで売れる時勢にある。ただし、生産者がきちんと説明ができれば……

 猛烈な勢いで、国産農産物にフォローの風が吹いていると言っていいでしょう。生産者が農産物需用者(食品メーカー、小売業、外食業、そして消費者)にきちんと説明ができれば、国産農産物は売れる時勢にあるのです。

 茨城県のことに話を戻すなら、例えばビール大麦がだめならば、小麦という手もあるはずです。外食業には、「うまいうどんを打つために国産麦を探している」と血眼になっている人もいますし、国産小麦で付加価値の高いパンを焼きたいという人もいます。小売業、食品メーカーも同じようなことを考えています。

 そこで、何かを作って利益を得たいと考えた場合、普通のメーカーはマーケティングし、営業をかけるわけですが、この点、農家は腰が重いところが問題です。天候を見ながら圃場の心配をして、その上都市へ出て行って営業して歩くというのは難しいようです。家族経営の小規模農家が多いため、農家一人が社長と工場長を兼ね、その上マーケティング部長と営業部長も兼ねるのは、とてもできないというわけです。

 また、そもそも、日本の通常の会社間にある商習慣を全く理解していない人が多く、さらに今日の都市生活者の生活とニーズがどのようであるか、全く想像ができていない人が普通という状態です。

 この点、うまくいっている農協は、マーケティングと都市への営業を引き受け、個々の農家は営農に専念できるような体制を築いていますが、残念ながら、マーケティングのセンスがなく、営業も上手でない農協も多いものです。こうしたタイプの農協には、農家に農業機械や肥料、農薬などの資材、それに金融商品や宝飾、衣類などを売り込んで現金を稼ぐのに必死で、とてものこと農産物のマーケティングや営業にまで手が回らないというところもたくさんあります。

 一般に、日本の生産者は売ることが構造的に苦手になっているというのが現状です。(つづく)

※このコラムは柴田書店のWebサイト「レストランニュース」(2009年3月31日をもって休止)で公開したものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →